3-4:ダンジョンでの採掘
不死者に有効な武器を求めて魔法学校を訪れた17番隊のリーダーであるカールとディアは魔道具師志望の学生ライマーを紹介されて話を聞いていた。
「僕が作ろうと思っているのは属性を付与して攻撃力を高めるのではなく動作を補助して結果的に攻撃力が上がるというものなんです」
「それって、身体強化の魔法を使った武器とは違うのかしら」
ライマーの言葉に魔法使いであるディアが疑問を返す。
「ええ、僕が作ろうとしているのは使用者を強化するのではなくて武器の方で使用者の意図を読み取って武器の方が動くっていう物なんです。詳しくはこちらを読んでいただければ」
ライマーがそう言いながら差し出した羊皮紙を受け取ったディアは少しの間それを読み進める。
「なるほどね、初級魔法の物体移動を魔法円として組み込んで持ち主の意思を読み取る魔法円と組み合わせて動かそうとする方向へと向ければ武器が軽くなったように振るえるっていうわけね」
「ええ。魔力付与ではないですが全体に魔力が通るので不死者相手でも通用するようになると思うのですが、これでどうでしょう」
「うん、理屈では間違っていないと思うし作成もそれほど難しくないみたいね。でも、これなら自分で作ってみたらいいんじゃないの。なぜアタシたちに?」
「一応、試作はしてみたんですよ」
ライマーはそう言いながら後ろから木刀を取り出す。
「ただ、剣術を知らない僕たちが使っても『ちょっと軽くなったかな』ぐらいにしか違いがわからなくて。実際に使ってくれる人を探していたんですよ」
「なるほどな。それで属性を問わない魔法剣を求めているオレたちが来たのはちょうどいいタイミングだったっていうわけだな」
カールはそう言ってライマーから木刀を受け取り、軽めにいくつかの型を試してみる。
「うん、ここじゃ狭いから本気で振り回せないけど上手くいってると思うぞ。これで実戦用の剣を作ってくれるか」
手応えを感じたカールはライマーに本番の作成を依頼するが、ライマーは渋い表情で言った。
「それがですね、今このままでは作れないんですよ。木刀には特殊なインクで魔法円と経路を書き込んだんですが、このインクって鋼とは相性悪くて魔力の通りが悪くなるんです」
「そうそう『精霊は鉄を嫌う』なんて言うけど、金属と相性の悪い魔法素材はあるのよね。一応対応策もありはするんだけど」
ディアが口を挟むのにライマーも頷きながら言う。
「ええ。鋼に仕込んでも問題なく魔力を通す素材を使って魔法円と経路を埋め込めば大丈夫なはずです。でもその素材が……」
「ミスリル、よね」
ライマーとディアはそろって表情を暗くする。
「ミスリルっていうのはそんなに問題があるのか?」
二人の様子をみたカールが尋ねる。
「問題というか、とにかく高いのよね」
「想定している必要量なら硬貨2個分もあればいいんですが、普通に買ったら2年暮らせるぐらいの値段になっちゃいます」
「普通の鉱山にはあまりなくてほとんどダンジョン産だから、見つけた冒険者は自分の武器に加工しちゃうこと多くて出回らないのよ」
それを聞いたカールも顔を曇らせていう。
「それじゃあ結局難しいんじゃないのか」
「いえ、方法はまだあります」
ライマーは一呼吸置いて言葉を続けた。
「自分たちで掘りに行くんです」
◆――◆――◆
4日後、カールとディアにライマーの3人はダンジョンの入口に立っていた。
「本当に3人で大丈夫なのか?」
カールが不安げに言うがライマーは自信ありげな表情を見せる。
「ええ、最近の情報だと浅い層でもなんとかなりそうなんです。詳しくは歩きながら話しましょう」
三人は入口で入場手続きをするとダンジョンの中へと足を踏み入れた。
「ここって1年ぐらい前に拡張が起きたダンジョンよね。確かに拡張のあとは稀少な鉱物も出やすいけど、流石に1年経つと浅い場所にはないんじゃないの?」
多少は事情を知っているディアが疑問を投げかける。『拡張』とは既知のダンジョンに新たな横道が発見されることで、ほぼ洞窟型であるがその奥は手つかずの鉱物資源が採掘されることが多い。
「そうですね。ダンジョンには再生能力があり目印を付けたり鉱物を掘り出したりしても時間がたつと周囲の物質と魔力で形が戻りますが、稀少な鉱物はどんどん減っていきます」
「そうよね。ここは発見された直後から評判になってもう浅い階層は探索し尽くされたはずよ。ダンジョンの魔力に引かれてきた魔物を相手にしたい冒険者以外はもう深層で探索しているわよね」
「その通りです。でも僕たちの目的地は深層じゃありません。こっちです」
ライマーは地図を片手に進みながら言う。
「なあ、こっちって見た感じ遺跡型のダンジョンだが拡張前の古い区間じゃないか」
周囲の様子を見ながらカールが言う。
「ええ。実は最近の研究では拡張によって繋がったダンジョンは古い区画でも回復力が少し上がるみたいなんです」
「え、それって初耳よ。本当なの?」
「まだ学内で発表されたばかりですからね。ダンジョンの再生力による素材の劣化を研究している魔法使いがこの奥にあるナイフを定期的に回収して組成を調べていたんですが、拡張のあとで回収したものは一時的に質が上がったそうなんです」
「と、いうことは、つまり旧区画にあったミスリルもある程度回復しているかもしれないということかしら」
「完全とは言えないけど可能性はあります……と、地図によると鉱脈があったのはこの横穴の奥ですね」
ライマーは穴に向かって呪文を唱える。
「やった、予想通りです。『鑑定』にミスリルが引っかかりました」
それを聞いたカールも笑みを浮かべていう。
「やったじゃないか。じゃあさっさと掘り出して帰ろうぜ」
「ええ、じゃあこの袋に二つ分ばかりお願いします。僕では力が足りないので」
そういってライマーはツルハシと頑丈そうな厚手の布袋を取り出す。広げた袋は人の身体ほどもあった。
「ちょっと待て、そんなに量がいるのか?」
「さすがに稀少な鉱物は再生しきれないみたいで、反応はありますがだいぶ比率が少ないんですよ。ここでもある程度集まってる部分を選り分けていきますが、最終的には学校の設備を使わせてもらって精錬して塊にします」
つまり掘り出す量自体は二袋よりもっと多く必要ということだ。言われたカールは視線をディアに向ける。
「岩を砕くほどの呪文はおぼえてないの。筋力強化かけてあげるから、ふぁいとぉ!」
カールが目標量を掘り出すまでには半日以上がかかったのだった。




