3-5:初級神聖魔法入門
17番隊の魔法剣の入手を目指す軽戦士のカールと魔法使いのディアを除いた4人は地元で修行をしたいという調薬師のチャールに付き合って彼が修行した教会を訪れていた。チャール以外の女性陣にはカールとディアの幼なじみ同士を二人にしてやろうという意図もあるが、回復役のフリーデには教会の書庫での調査という目的もある。
「ええ、書庫を見るのは問題ありません。ただ、先代と先々代から受け継いだ資料も多く、未整理の書物も多いんですよ」
一同を招いた夕食の席で教会の責任者の司祭ジェロームがそう告げる。
「ジェローム司祭様といえば教会でもその蔵書の豊富さで有名でいらっしゃいましたけど、それよりもに更に蔵書がありますの?」
同じ神を信奉する宗派であるフリーデが驚きの声を上げる。なおチャールは教会で働いてはいたが神職を目指していたわけではなく一応信者ではあるが特に資格は持っていない。
「私がここを任地に選んだのはこの教会の書庫が充実していたからというのもあるんですよ。熱心だった先々代が余裕を持って書庫を作り、先代も収集癖があったんだ。ただ、先代は集めるのには熱心でも整理にはそれほど熱意がなかったようでね」
ジェロームは苦笑を浮かべながら説明する。
「でしたら、わたくしも整理をお手伝いいたしますわ。どんなものがあるのかも知りたいですし」
「それはありがたいですね。ではチャール、食事の後に鍵を渡しますから書庫に案内してあげてください。他の皆さんは昼はチャールの修行にお付き合いでしたっけ」
ジェロームの言葉に野伏のエルゼがおずおずと片手をあげる。
「あの、ご迷惑でなければチャールたちが修行する森の近くで食料の調達をお手伝いしようかと思うのですが。木の実や山菜なども集めようとは思いますが、鳥とか小動物を狩るのは問題でしょうか」
「いえ、我が宗派では無用な殺生は禁じられておりますからそういう技能を持つものはまずいないですが、肉食自体は禁じられておりませんので購入や寄進で入手したものを食べるのは問題ありませんよ。森の入会権もありますので教会の客人となれば狩りも問題ありません」
ジェロームはそういうと目の前の皿に注がれた豆のスープを軽くかき回して言葉を続ける。
「とはいえ肉類が潤沢というわけではないので頂けるなら是非にというところですね。育ち盛りの人間には必要ですから」
司祭以外の教会関係者はこの客用の食堂ではなく厨房を兼ねた食堂で食事をとっているが、その中にはかつてのチャールのように若くして住み込むことになった者も数名いるとは一同も聞いていた。
「わかりました司祭様。ではチャール、明日にでもこちらの猟師さんたちに話を通しておきたいので案内お願いしますね」
「うん、ここからそんなに遠くはないから朝食の後にでも案内するよ。シンディーは僕に付き合って模擬戦だよね」
「ええ。魔法に慣れたいからといってわざと怪我するというのは気が進みませんけど、チャールが半回復以外を使えないのなら仕方ありませんね」
チャールとシンディーのやりとりにジェロームが口を挟む。
「その『魔法は使えば使うほど使える魔法が増える』っていうのは確かなのかね」
「はい、勇者パーティーのアンジェさんがそう言っていました。何か『勇者の仲間』にはそういう個人の情報を知る力が備わるそうで」
「なるほどねえ。確かに修行の旅に出た者が多くの魔法を覚えやすいというのはあったし都会での修行は田舎よりも有効とは言われていたけど、魔法を使う機会が増えるからだったのかな」
そうこうしている間に食事会も終わりをむかえる。
「じゃあ書庫まで案内するよ」
ジェロームから鍵を受け取ったチャールがフリーデを書庫へと導き、ジェロームは他の面々を客用寝室へと案内していった。
「灯りを点けますわね。『光よ』」
フリーデが広範囲の魔法の灯りを点けると地方の教会にはそぐわない広い書庫がぼんやりと照らされた。
「一番奥が先々代の棚でそのへんは書棚に分野が書かれてる。真ん中あたりが先代で量は多いけど分類がイマイチ。手前の方がジェローム司祭の集めたもので札はないけどだいたい分野で分かれてる。このへんが神学関係で、このあたりは実用系、あっちが物語系かな」
案内したチャールが簡単に説明する。
「チャールが『半回復』を覚えたっていう書物はどれかしら。ちゃんと唱えられれば呪文が身につくのでしたわよね」
「ちょっと待って、それは先代の収集物の中に入ってて……ああ、これだね」
チャールがしばらく探した後にそれを見つけて振り返るとフリーデは既にいくつもの書物を手にしていた。
「はあ、さすが噂に聞こえたジェローム様の書庫ですわね。興味深いものが一杯ですわ」
チャールは探し当てた書物を部屋の隅に備え付けられた机に置く。
「ここで読むんならこの席を使うといいよ。でもこれはうかつに読み上げないでね」
「もちろん、わかってますわ」
フリーデはそう言うといそいそと席に着き持ってきた書物を読み始めた。チャールが持ってきたものは後回しのようだ。
「あのさ、まだ今日の寝室を案内してないよね。先にそっちに荷物置いてきたら」
「ええ、わかってますわよ」
フリーデはそう返してくるが書物から目を離す様子がない。どうやらまともに話を聞いていないようだ。
「……仕方ないな。僕も読みながら待つか」
チャールはそうつぶやいて自分もいくつかの書物を持ち出して読み始めた。そして結局寝落ちしたフリーデをチャールが寝室まで運ぶ結果となった。
◆――◆――◆
「ぐっ、……『半回復、半回復、半回復』」
シンディーの木剣での攻撃を受け止めて吹っ飛ばされたチャールが呪文を連続して唱えるとおそらくヒビが入っていただろう腕から痛みがすっと引く。『ダメージの半分だけ回復する』という呪文の特性上ひどい負傷は大きく治療されるが軽い負傷は回復が少なく、連続使用しても完全に治ることはない。
「あの、今のちょっと強く入っちゃったけど大丈夫でした?」
「うん、自分で呪文唱えられるなら大丈夫。もし気絶しちゃったら魔法薬頼むね」
チャールは答えながら立ち上がり木剣を構える。最初はただ無抵抗で打ち込まれようとしていたのだが『無抵抗の相手に剣を振るうのはちょっと抵抗が大きいです』というシンディーの申し出によりチャールが打ち込んできたところに反撃という形式をとっている。
「じゃあ、次行くよ。……はぁっ!」
チャールが気合いを込めての打ち込みをシンディーはあっさり躱すと返す剣で吹っ飛ばす。そしてチャールが半回復で治し、魔力が切れたら魔力回復薬を使って回復させてと繰り返すこと半日ほど。
「がんばってますね。どんな感じです?」
森の中へ狩りに行っていたエルゼが鳥を数羽ぶら下げて現れた。血抜きのため首を落とされた鳥をぶら下げてにこやかな笑みを浮かべているのはなかなかに迫力がある。
「うん、なんとなくだけど魔力が馴染んでいく感じがするよ。数日間続けたら初級魔法ぐらいは覚えられそうな感じだね」
エルゼが来たので休憩にして水を飲んでいるチャールが明るく答えるのに対してシンディーはちょっと疲れた表情を見せる。
「シンディーの方はキツそうですね。訓練とはいえチャールに怪我させるのは負担ですか」
エルゼはチャールには聞こえない程度の小声でシンディーに問いかける。
「ええ、それもありますが……」
シンディーはちょっと言いよどんで、続けた。
「なんだか痛みをこらえて苦しそうな表情を見せるチャールがすごくかわいく見えて来ちゃったんですけど、どうしましょう?」




