3-3:二年ぶりの帰郷
魔法の武器を求める軽戦士のカールと魔法学校への報告がある魔法使いディアの二人を除いた17番隊の面々は魔法習得を目指すチャールに付き添い、ついでに教会の書庫の蔵書閲覧を目的としてチャールが調薬師の修行をした教会のある村へと向かっていた。
「この先で街道を逸れて山道に入るよ」
街道沿いにある村の食堂で夕食をとりながらチャールが同行者たちに予定を告げる。
「目的地の教会がある村ってお店はあるんですか?」
同行者の一人、重戦士のシンディーがチャールに尋ねる。
「食料品や日用品、ちょっとした道具類を売ってるお店はあるけど品揃えはよくないね。それなりの買い物ははこっちまで出てくるか年数回やってくる行商人から買ってるから。何か欲しいものでもあった?」
「ええ、ちょっと服が傷んできてるので補充しておきたかったんです。それならここで買っていったほうがいいですね。古着を扱ってるお店はありますか」
それを聞いたチャールはちょっと表情を固くした。
「古着を扱うお店ね、うん、この村にもあるよ」
「? そうですか、それでは明日にでも案内していただけますか?」
チャールの態度にやや引っかかるところを感じながらシンディーが言う。
「わたくしとエルゼさんでギルド支部に行動予定を出して参りますから、お店へはお二人で行ってらしたらよろしいのでは」
ここまで話を聞いていた回復役のフリーデが口を挟む。
「そうですね。行き先の報告だけなら二人でも十分ですし」
野伏のエルゼもフリーデに同意し、シンディーはチャールの返事を待っている。
「……わかった。じゃあ明日案内するよ」
◆――◆――◆
明けて翌日、シンディーとチャールは表通りから少し離れた店の前に立っていた。服の絵が描かれた看板からするとここが目的の店のようだ。チャールは緊張した面持ちで扉に手をかける。
「じゃあ、入ろうか」
そう言ってチャールが扉を開けるとドアベルがカランカランと軽い音を立てた。
「いらっしゃいませ。なにをお探しですか!」
カウンターの奥で作業をしていた若い女性店員が条件反射的に挨拶をして振り返る。
「えっと、冒険者向けの服を探しに……」
シンディーが言い終わるのを待たずに店員は目を丸くするともう一度振り返り、店の奥に向けて叫んだ。
「おかーさーん、チャールが女の子連れてきたー!」
そう言ってドタバタと奥へ駆け込んでいく。取り残されたシンディーはポカンとした顔をチャールに向けた。
「うん、ここ僕の実家なんだ。今のは一つ上の姉さんでヒルデ」
「なぜそれを言わなかったんですか」
「僕を知らない店員が店番だったら黙って買い物して帰ろうと思ってたんだけどね」
二人がそう話しているうちにバタバタと先ほどの女性店員が年配の女性とともに帰ってきた。
「あらあら、ほんとにチャールだよ。元気だったかい?」
「元気だよ母さん。久しぶりだね。今日はパーティー組んでるシンディーが服がほしいって言うんで案内してきたんだけど」
「あ、じゃああたしが案内する。シンディーさん、こっち来て」
「姉さん、僕の知り合いだけど一応お客様だからね」
「いえ、わたしは別に構いませんけど」
「じゃあそっちは任せたよ。さて、いろいろ話を聞かせてもらおうかね、チャール」
「うん、それはいいけど父さんたちはいないの?」
「父さんはウルリヒと一緒に倉庫の整理をやってるよ。スティーヴはティエリーと行商だね。雇いの店員も休暇を取ってるから今はわたしとヒルデだけだね。で、あの娘とはいい仲なのかい?」
「そういうのじゃないよ。今日は他のメンバーが別の用事を済ませてるから案内しただけ」
「なんだい、スティーヴはそろそろ決まりそうだからお前も好きにしていいんだよ。ところで……」
久しぶりの母子の会話はチャールがしつこく質問される形で続いていった。
◆――◆――◆
「……という具合で、ヒルデさんともずいぶん話が弾んだんですよ。チャールの昔の話もいろいろ聞かせてもらいました」
街道から外れて山道を行く四人、その主に女性陣三名の間ではチャールの実家について話が弾んでいた。
「面白い話が聞けたのならわたくしたちも報告を早めに切り上げて合流するべきでしたわね」
「チャールのお姉さんって、やっぱりチャールに似てたの?」
「いえ、それほどは。そういえば少しフリーデさんみたいな感じでしたね」
「そうかな、あんまり似てないと思うけど」
「見た目というより話した感じですね」
にぎやかに進む一行の前にやがて集落が見えてきた。小さめではあるが鐘楼も備えた教会があるのもわかる。
「見えてきたね。あれが僕がいた教会だよ」
それからほどなくして教会へ到着した一行は明るい顔の青年に迎えられた。
「よう、久しぶりだなチャール。女の子連れとはやるじゃねえか」
「アイザック兄さん、そういうのはもういいですから。途中の実家でもさんざん言われたんで」
言われたチャールの兄弟子はカラカラと笑う。
「そうか。まあ用事は手紙で受け取ってるから4人分の滞在の用意はしといたぞ。チャールは滞在費がわりに薬の作りだめもしてくれよ。お嬢さん方は書庫で調べ物だったよな」
「いえ、それは彼女だけでわたしはチャールの修行に付き合おうかと」
アイザックの問いにシンディーが返答する。
「へえ、修行ってどんなことをするんだ?」
「魔物を相手に戦って怪我したら半回復呪文で治すのを繰り返そうかと。とにかく魔法をたくさん使いたいんだよ」
「おいおい、またずいぶんと無茶なことを考えてるな。そんなに都合よくいい感じに怪我させてもらえないだろう」
「そこはそれ、シンディーは優秀だからこのあたりの魔物程度なら致命傷までには助けてくれるだろうし」
そんな兄弟弟子同士の話を聞いていたシンディーが口を挟んだ。
「あのですね、あえて治療する程度の怪我をしたいのだったらわたしと模擬戦しませんか。自信は無いけど魔物よりは手加減できると思います。たぶん」
その申し出にチャールは虚を突かれたという表情をする。
「……そうか、別に魔物と戦って怪我しなくてもよかったんだ」
「なんだかお前は昔っから肝心なところが抜けてるな。で、どこでやるんだ。ここの庭だと狭いだろ?」
「森の中にちょっと開けたところがあったよね。あそこがいいんじゃないかな」
「ああ、あそこならいいかもな。で、そっちのお嬢ちゃんはどうする?」
アイザックはエルゼの方に問いかける。
「私はチャールたちが修行している間に近くで薬草採取をしていようかと。チャールにもいろいろ教えてもらいましたし。この近くに群生しているものもあるそうですね」
「いや、俺はそんなに詳しくないんだがチャールが言うんならそうだろう。じゃあ夕方まではゆっくり休んでいてくれ。夕食の時にジェローム司祭に紹介するから」




