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半端者の回復術者  作者: 散散満
第2章:新人たちの冒険

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2-9:魔法使いの研究

 コボルトたちを追い出したものがいると予想される砦跡を調査に向かった17番隊の面々はとうとう砦の最奥部までたどり着いていた。強固な塀に囲まれたこの区画は兵士の一団が集合できるほどの中庭と大きめの建物がある


「建物の入口はたぶん左ですね」


 あたりを見回しながら重戦士のシンディーが言う。


「見ただけでそんなのがわかるのか?」


 リーダーの軽戦士カールが問いかける。カールが見た限りではこちらに向いている面はほぼ均等に窓が並んでいるだけだ。


「わたしの修了試験も砦跡の攻略だったので。試験のあとに砦の構造について基本的なところは一通り教えていただきました」


「そうなんだ。じゃあ入口が左だろうっていうのはどうしてなの?」


 シンディーが返したところに魔法使いのディアが疑問をぶつける。魔法使いらしく知識欲は旺盛だ。


「ええ、この区画……砦としては内郭ですが、今いるのが向かって右隅ですよね。ここから入口まで遠い方がいざ侵入をゆるしたというときに応戦しやすいですし。あとはこれですね」


 シンディーが答えながらひょいと左手の大ぶりな盾を上げてみせる。


「そうか、左に向かうと盾が建物と反対側の腕になるから防御しにくいんだね」


 その意味に気がついたのはチャールだった。本好きの彼もこういうことには興味がある。


「そういうことです。砦としてしっかり使われているならあの窓から矢が飛んでくるはずですよ」


「今は飛んでくる様子はありませんわね」


 シンディーが説明するのに回復役(ヒーラー)のフリーデが返す。


「ここまでの様子もそうですけど、やはりここは組織だった運用はされていないようですね」


 野伏(レンジャー)のエルゼも砦として機能していないのには気付いていたようだ。


「それはそうかもしれないが油断はするなよ。建物の中も調べるぞ」


 一行は中庭を横切って建物の左手に向かうが、やはり途中で攻撃が仕掛けられることもなく建物までたどり着く。


「罠はないようですね。鍵はかけられていますが、開けますか?」


 扉を調べたエルゼが尋ねる。野伏(レンジャー)は本来屋外の罠に詳しいのだが、彼女はついでに屋内の罠についてと解錠技能も習って身につけている。


「ああ。気をつけてやってくれ」


 カールはいざというときには引き戻す用意をしながらエルゼの作業を見守る。そしていざという事態は起こらないまま解錠は成功した。


「よし、中に入るぞ」


 カールが扉を開けて素早く中の様子を覗い、安全を確認して進む。


「この右手、中庭側は受付というか守衛室ですね。反対側は医務室でしょうか」


 廊下を挟んで左右にある部屋の様子を見ながらシンディーが言う。


「建物の構造も砦に関する知識なの?」


「ええ。こういう建物には定番の構成がありますし。この奥はたぶん兵士が集まれる食堂ですね」


 ディアが尋ねるのにシンディーが返し、その通り少し進んだ先は広めの部屋になっていた。


「やっぱり誰かが最近まではここにいたようですね。ですがここ最近は使われていないみたいです」


 食堂左手にあった厨房の様子を確認したエルゼがそう推測するのにカールが更に質問する。


「何人ぐらいで使われていたかはわからないか?」


「カマドは一つしか使われていないみたいですし、多くても数人規模だと思います」


「そうか、じゃあもし残っていても数では不利にならなそうだな。先に進むぞ」


 エルゼの答えを聞いたカールは食堂を通り抜けて奥の廊下に入る。この左右には小部屋が並んでいた。


「右手は一般兵の部屋で左が士官部屋ですね。見たところ扉もほとんど修理されていませんしやはり多人数はいなかったんでしょう」


 注意しながら廊下を進むと一番奥の士官部屋にはまだ修理された跡も見える扉がつけられていた。エルゼが罠を確認して解錠し、カールが警戒しながら開ける。


「これは……魔法使いの研究室っぽいわね」


 ディアがそう感想を漏らす。確かにこの部屋はいろいろとモノが置かれていて軍人らしさというものがない。


「なにか手がかりになるようなものはないか?」


「うーん、ざっと見た感じだけど魔法使いなら捨ててもいいようなものしか残ってないわね。重要そうなものはないみたい」


 ディアがそう言いながら置いてある品々を確認し、他の面々もうかつに触らないように注意しつつ室内を探る。


「あら、大きな粘土板がありますわ。描かれているのは魔法円の下描きですかしら」


 フリーデが見つけたのは木の板に枠を作り平らに粘土を詰めた板だった。尖った棒で表面を彫って字や模様を描き、(なら)せば再利用できる上に材料がどこでも手に入るような安価なものなので文字の学習や一時的な覚え書きに広く利用されている。


「どれどれちょっと見せて……うーん、詳しく調べないとよくわからないけど全体的には召還魔法っぽいわね。それだけじゃなくて他の魔法が複合されてる感じだけど」


 ディアはそう言うと粘土板の内容を木の板に写し始める。まだ経験の浅い冒険者には高価な植物紙を覚え書きに使えるほどの余裕はない。


「シンディー、この先はどうなってるかわかるか?」


 ディアが書き写している時間にカールが奥の構造について意見を聞いている。


「基本は一番奥に武器庫・倉庫と裏口、余裕があれば屋内の訓練場ですね。この建物は大きかったから訓練場もありそうです」


「訓練場も何か手を加えられているかもな。広けりゃいろいろできるだろう」


 そうこうしているうちにディアの書き写しも終わり、一同は訓練場と思われる扉の前に立ち、例によってエルゼが罠と鍵を確認する。


「開けるぞ。みんな気を抜くなよ」


 カールが警戒を促しつつ扉を開けるとそこは予想通りの訓練場と思われる広い空間となっていた。そしてそこには魔物が数体見える。


「厄介なのがいるわね。大きい一体は食屍鬼(グール)よ。あとはスケルトンとゾンビね」


 魔物を確認したディアが告げる。


「厄介なのか。で、勝ち目は?」


「あるわよ。とりあえずその木刀は捨てなさいね。フリーデ、カールの長剣に強化魔法をかけたげて」


「わかりましたわ」


 ディアの助言に従ってフリーデがカールの長剣に聖属性の強化魔法を施す。


「よーし、じゃあやってみるか。雑魚たちはチャールとエルゼが止めてくれ」


 カールはそう指示を出すと食屍鬼の方へと足を踏み出した。

グールとの戦闘まで書くつもりだったんだけど予想外に長くなった。次回のプロットに書いてたとこも使っちゃったからちょっと構成を変えよう。

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