2-10:暗躍するものの気配
コボルト達を追いやったものがいるのだろうと砦跡を調査にきた十七番隊の面々は最奥部で食屍鬼たちと対峙していた。
「襲ってこないな。剣にかかった魔法を嫌がってるのか?」
一歩前に出ていたリーダーのカールがやや戸惑った声を出す。軽戦士である彼の持つ長剣は聖属性の付与魔法で強化されぼうっと光を放っている。
「特に命令を受けていないのかもしれませんね。なんだか好きに動いてるみたいですし。食屍鬼が1体にスケルトン3体、ゾンビ1体ですか」
野伏のエルゼが相手の様子を見ながら予想を述べる。
「何か床が光って……あ、ゾンビが増えましたわ。あの魔法円が不死者を喚んでいるようですわね」
相手の出方を見ていた回復役のフリーデが驚きの声を上げる。
「あれは研究室にあったものを大きく描いたみたいね。周囲から魔力を集めて動き続けるタイプよ」
魔法使いのディアは途中にあった魔法円との類似を指摘する。
「喚び出し続けてるにしては数が少なくない?」
魔力水を使った矢を短弓につがえながら調薬師のチャールが疑問を挟む。
「裏口が開いているみたいですから、外に出ちゃっているんじゃないですか」
カールと同じく魔力付与された片手半剣を構えた重戦士のシンディーが剣先で部屋の隅を指す。そこにあったやや大きい扉は半分開いており人間大なら十分通れる隙間が空いていた。
「じゃあやっぱりこのあたりに不死者が増えたのはここの所為だったんだな。オレたちが魔物を押さえてる間に消せるか?」
カールがディアに問いかけるが、ディアは首を横に振りながら答える。
「あの魔法円は床に溝を彫り込んで特殊な素材を埋め込んでるわね。一部を削るだけでもかなり時間がかかっちゃうわ」
「不死者の事件を終わらせるにはアイツを倒してから魔法円を消すしかないようだな。こちらから攻めるぞ」
カールは食屍鬼に向かって駆け出しシンディーもそれに続く。
「僕は右のゾンビを」
「了解。私は左を」
チャールの短弓とエルゼの長弓はそれぞれゾンビを狙う。それぞれ数本が放たれた矢はしっかりと命中し、矢に巻かれた布に染みこんだ魔力水から放出される魔力を浴びたゾンビたちは支えを失ったように倒れる。
「スケルトンたちはわたくしが。『死霊退散』!」
フリーデの呪文に応じて生じた清浄な空間がスケルトンたちを包み淡い光となって具現化する。骨を人の形につなぎ止めていた力を失ったスケルトンたちはその場で崩れ落ちて三つの骨の山となった。
「雑魚は片付いたね。あっちはどうかな?」
チャールが食屍鬼に向かった二人を見ると順調に攻撃を当てている。だが二人の表情に余裕はない。
「噂に聞いてはいたが、こいつの再生能力は厄介だな」
「ええ本当に。それに痛みでひるんだりもしませんし」
カールとシンディーは攻撃を加えながらそんな会話もしている。よく見ると確かに手数の割に食屍鬼の傷は少ないし、更に観察すると浅かった傷が数秒後には消えていたりする。
「あいつ、魔法に対する耐性もあるのよね。例の矢は何本残ってる?」
様子を見守っていたディアがチャールに尋ねる。
「僕は二本。エルゼは?」
「私は一本だけですね。射っちゃいます」
エルゼが放った矢は見事に胴体の中央に命中するが食屍鬼は動きを緩めることもなく矢を引き抜くと暴れ続ける。
「ダメですね。効いてないみたいです」
エルゼはため息交じりに漏らすがディアは明るい表情になった。
「そうでもないわよ。あの傷を見てよ。小さい傷なのに治ってないわ。腕や脚に当てれば動きを止められるかも」
「じゃあこっちの矢はエルゼに渡すよ。僕じゃ動いてる手足には当てられそうにないし」
チャールはそう言って残った矢を渡すと自分は魔力水の瓶を手に持つ。
「私だってそれほど自信があるわけじゃないんですよ」
不満を言いつつもエルゼが放った二本の矢は肩口と足の付け根に命中し、動きが目に見えて遅くなる。
「だいぶ楽になりました。ありがたいです」
接近戦に臨んでいた二人の攻撃が命中する数も増えていった。
「瓶はもったいないけど行っちゃえ。魔力水」
チャールがそう言いつつ瓶をポイポイと投げつけた。瓶が割れて魔力水がかかった箇所は傷の再生がほとんど止まっている。
「あ、間違えた。うーん、専用の瓶が欲しいな」
うっかりと回復薬を投げつけてしまったチャールがぼやく。空き瓶を流用していたので見分けが難しかったのだ。
「グォォッ」
だが回復薬は食屍鬼にかかるとその表皮が焼けただれたようになり更に動きが鈍くなる。
「あら、効きますのね。ならわたくしも試してみますわ 『回復』」
回復薬が効くとみてフリーデが回復呪文を食屍鬼に対して使い、食屍鬼は淡い光に包まれる。全身の表皮に細かい傷ができるがひどいダメージには見えない。
「うーん、魔力が全体に分散するから効き目が悪いのかしら。あまり使えそうにありませんわね」
フリーデは一人で何事か納得している。
「隙だらけになってきたな。そろそろ一発大きいのいくぞ」
カールが身体を大きく捻って斬り上げ食屍鬼の右腕を深々と切り裂く。
「とどめです」
シンディーが大きく振りかぶって打ち下ろした一撃は左の肩口から大きく胴体に食い込み、食屍鬼はついに倒れ伏した。
「やれやれ、なんとかなったかな」
カールは軽く一息ついたが、チャールは倒れた食屍鬼に残りの魔力水を振りかけ、フリーデも退魔呪文で念を入れている。ディアは魔法円の無効化作業に入っていたが何かを見つけて声を上げた。
「ねえ、こんなメダルが出てきたんだけど。魔法円の核に使われたみたいね」
ディアが持ち上げたメダルを見たフリーデは顔を歪めながら言った。
「それは邪教の紋章ですわね。百年ほど前に死者を冒涜する邪法を使うとして滅ぼされたはずですけど」
「その残党がこの件に関わっているということか?」
カールがそう口に出したがそれはディアが反対した。
「まだそうと決まったわけじゃないわ。たまたま見つけたものをちょうどいいと核にしただけかもしれないし。とにかく残った資料を集めて帰りましょう」
そうして魔法円の無効化が終わった後で改めて砦の捜索を行ったが、やはり重要な資料は運び出されたか大したものは見つからなかった。食屍鬼の死体も改めて確認していたが、その最中カールがふと言葉を漏らす。
「しかしなんでこの強力な食屍鬼を置いていったんだろうな。護衛でも何でも役に立つだろうに」
それにエルゼがぽつりと答える。
「ここに喚び出したはいいけど、入口が小さくて出せなかったんじゃないでしょうか」
他の面々はこの演習場の入口と裏口に食屍鬼の死体を交互に見た。確かに食屍鬼は扉をくぐれそうにない。
「……案外間抜けなやつだったのかもしれないな」
一同はやや脱力しながらも捜索を終え、砦を後にした
第2章最終話になります。ちょっと文字数増えて想定の1.5倍ほど。戦闘シーンは文字数使うなあ。




