2-7:砦への行程
応急ながらも不死者に対抗する手段を用意した17番隊の砦への進行を再開していた。
「聖水矢、射ちます」
長弓を構えた野伏のエルゼが空中から迫ってくる幽霊を見据えて矢を放つ。それは普通の矢と同じく幽霊をすり抜けたかに見えたが、次の瞬間には幽霊が霧散していた。
「チャールの作った『聖水モドキ』は効いてるようだな」
結果を確認したリーダーのカールが頷いている。火矢の油の代わりに聖水モドキを染みこませただけの武器ではあるが、魔法の武器など持っていない彼らにすれば魔法以外の攻撃手段が見つかったのは僥倖であろう。
「じゃあ残りも片付けちゃうね」
チャールも短弓を構えて矢を放って幽霊を散らしていき、5体ほどいた幽霊もそれほど時間もかからず討伐された。
「確かにこれは便利そうですね。商品として売られていたら買いたいぐらいです」
重戦士のシンディーもその効果には感心している。
「いや、売り物にするには難しいんだ。これは素材の持っている魔力を徐々に放出させるものだから、魔力を放出しきったら効果がなくなるんだよね。今のところは一日もてばいい方だよ」
「そうですか。それは残念です」
口では残念がるシンディーだがいつものように冷静さは保っている。一方で回復役のフリーデは不機嫌さを隠していない。
「神の名の下に祝福された聖水を名乗るなんて不敬ですわ」
まだ駆け出しとはいえ神職であるフリーデには納得のしにくい状況であるようだ。
「そうはいうけど不死者に有効な水っていうとまず聖水だから聖水モドキってのはわかりやすいんだよね。なにかいい名前でもあればいいんだけど」
「じゃあ『魔力水』でいいんじゃない? 報告書に書くにしても聖水モドキってのはちょっと俗っぽすぎるし」
口を出してきたのは魔法使いのディアであった。
「報告書って魔法学会が出してるやつ?」
「そうよ。チャールにも時々貸してるわよね。あれ、買い取ってもらうとちょっといい収入になるのよ」
「じゃあ『魔力水』でいいか。首尾よく売れたら僕にも何かおごってよね」
「おごりなんてけちくさいこと言わないわよ。共同研究者として名前入れとくし利益が出たらきっちり配分するから」
「そりゃ助かるな。じゃあ詳しい調合法をあとで教えるよ」
「お願いするわね。……っと、また近づいてくるのがいるわね。地上を移動してるみたい」
ディアが話ながらも展開していた索敵魔法に新たな存在が検知された。
「おぉ。今度は飛んでないのか。じゃあこいつが当たるな」
カールが『いい感じの枝』を乾燥させて形を整えて聖水モドキ改め魔力水を染みこませた木刀をぶんぶん振る。
「どうやらスケルトンっぽいわね。骨に霊体が取り付いて動かしてるからたぶんそれも効くわよ」
距離が近づいたことで精度の上がった索敵魔法の情報をディアが伝え、木刀を使えそうだとわかったカールがニヤリと笑顔を浮かべる。
「よし、見えた」
スケルトンが視界に入るなり木刀を構えたカールが駆け出し、シンディーが追いかける。シンディーは木刀ではなくいつもの片手半剣だ。
「先手必勝!」
気合いを入れながら振るったカールの木刀がスケルトンに命中すると、ほんの少しだけ動きを止めたスケルトンが支えを失ったように崩れてバラバラの骨となる。
「おお、これはなかなか気持ちがいい」
カールは右手の木刀を見ながらつぶやいている。
「やっぱり物理攻撃が効くとはいっても一撃とはいきませんね。補助魔法くれますか」
シンディーの攻撃はスケルトンの骨を砕いて片腕を落としているが動きを止められていない。
「いきますわよ。『神のご加護を』」
フリーデが聖なる力をシンディーの剣に与え、次の一撃でスケルトンは崩れ去っていった。
「助かったわ。ありがとう」
シンディーが礼を述べる。
「うん、こっちも止まったね」
見るとチャールが先ほど落とされたスケルトンの片腕に魔力水を振りかけていた。先ほどまでは腕だけピクピク動いていたようだ。
「まだ来るわよ。ゾンビが3……いえ、4体ね」
「多いな。すまんが攻撃魔法の援護も頼む。手前2体は俺たちがやるから遠い方2体を狙ってくれ」
「りょーかい」
「わかりましたわ」
ディアとフリーデがそれぞれ詠唱をはじめ、前衛二人が更に踏み出す。戦士組が接敵したタイミングを見計らってそれぞれの魔法も解放された。
「『爆裂火球』」
「『死霊退散』」
激しい炎と聖なる光にまかれ、魔力を帯びた武器によって打ち倒され、4体のゾンビは崩れていった。
「やれやれ、まったく不死者系ばかりだな」
カールがため息を漏らしたそのとき、横合いから矢が飛来した。
「きゃあっ!」
矢は後列に居たフリーデに命中して倒れ込む。
「うわっ、回復……って回復薬は鞄の中か」
チャールは普段なら回復薬を取り出しやすい位置にしてあるが、今日は魔力水を優先して少し取り出しにくい位置に仕舞い込んでいた。慌てて鞄をまさぐって回復薬を取り出して、フリーデの矢を引き抜いて傷口に振りかける。魔力が染みこんで回復力を活性化させ傷を癒やしていくその間に、横合いから矢を放ったスケルトンはカールの木刀で倒されていた。
「ありがとう、助かりましたわ」
意識を取り戻したフリーデの礼を聞きながら、チャールはやはり回復魔法を使えるようになるべきかと考えていた。




