2-1:洞窟に潜む魔物
『家畜が魔物に襲われるのでなんとかしてほしい』という依頼を受けた冒険者たちは村の周囲を捜索して魔物が出入りしている気配のある洞窟を見つけた。
「この足跡はゴブリンですね。大きさと動き方から見ると8……いや、9匹ですか」
地面を調べていた野伏のエルゼが報告する。
「ゴブリンだけか。他の魔物はいないのか?」
リーダーのカールがエルゼに確認する。
「普通の動物の足跡はあるけど魔物はゴブリンだけですね。ゴブリンも普通の大きさ以上の個体はいないようです」
「そういうことならそれほど苦労することはなさそうだな。依頼内容は調査だけじゃなかったよな」
「『魔物がいるみたいだからなんとかしてくれ』ってふわっとした依頼だから、なんとかしていったほうがいいわね」
カールの問いに答えたのは魔法使いのディアだった。カールは苦笑しつつ話を続ける。
「なんとかっていうならなんとかしていくか。ディア、中の様子を探れるか?」
「ちょっと待ってね」
ディアは目を閉じて呪文を唱えて集中する。
「洞窟は枝分かれが何本かあるけどそんなに複雑じゃないわね。ゴブリンたちは奥の方でまとまって寝てる……あ、まずい。気付かれた」
「魔法に気づくってゴブリンメイジまでいるのか?」
「ううん。アイツらの溜め込んでたお宝に魔法に反応する宝珠があったみたい。それが作動して目を覚ましちゃった。細かいことはわからなくってもなにかあったというのは流石にわかるみたいでみんな警戒してキョロキョロしてる」
報告を受けたカールは軽くため息を付く。
「不意打ちができたら楽だったんだけど仕方ないな。フリーデ。オレとシンディーに防御力強化を頼む。ディアは攻撃力強化……いや、敏捷性強化の方を。ゴブリンなら攻撃力はそのままでいいだろう」
「承知いたしましたわ」
「りょーかい。ちょっとじっとしててね」
魔法を使えるメンバーが攻撃役二人に向かって呪文を唱える。
「チャックとエルゼは相手が見えたら最初に弓矢で牽制してくれ。ディアは魔法で。その後はオレとシンディーが突っ込むから当たらないように離れている場所の相手を頼む。フリーデは回復呪文の待機だ」
「わたくしの出番はもうありませんでしょう? いまさらゴブリンたちに遅れを取るおつもりかしら」
「油断は禁物だよ。岩かと思ったらロックゴーレムだった事もあったじゃない」
フリーデの軽口にチャールが混ぜっ返す。最初は抜けきらなかった丁寧な口調も仲間相手にはずいぶんとくだけてきたようだ。
「半年も前の話はあとにしよう。今は奥にいるゴブリンたちが相手だ。行くぞ」
カールの号令で皆は洞窟の奥へと向かっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冒険者ギルドのカウンターでカールたちは達成報告を行っていた。
「ではこちらの未確認だった魔物に対する対応で、その正体はゴブリン9体。すべて退治したのち一日待機しても帰ってくるものがなかったので全滅もしくは逃げ去ったと見られ、村への脅威はなくなったと判断できるということですね」
「ああ。うちの魔法使いの索敵魔法でしばらく警戒してもらっていたが様子を見に来るものもいなかったということだ。一掃したと考えていいだろう」
「わかりました。ゴブリン9体の討伐は依頼主の村長さんが確認されてますね。では手続きしますのでしばらくお待ちください」
そう言うと受付嬢は書類を持ってカウンターの後ろの扉から事務室へと引っ込んでいった。それからそれほど間を置かずに壮年の男性がその扉を開けて出てきた。
「よう、調子が良さそうじゃないか。もう新米とは言えないな」
「あ、支部長。お久しぶりです」
奥から出てきたのはこの冒険者ギルドの支部長だった。
「全く成長したもんだな。最初はゴブリン退治でボロボロになって帰ってきたのによ」
「いや、あれは想定外の強敵が出てきたからで。そりゃゴブリンにも苦戦はしましたけどボロボロになったのはアイツのせいですよ」
そんなふうに会話をしているのを待合室で休んでいた一団が眺めながら会話をしていた。
「なあ、支部長直々に話しているアイツらはなんなんだ。見た感じじゃあまだ経験も浅そうだが」
「ああ、お前はこっちに来るのが久しぶりだったな。あれが勇者様肝いりの若手たちだよ。中堅どころがみっちり基本を仕込んで若手同士で組むようになってからまだ一年ぐらいだが、もう順調に実績も重ねてるのさ」
「へえ、見た感じはそれほど強そうでもないのになあ」
「まあ教育の一環とかで勇者様の配下から実力ギリギリで達成可能な依頼を選別してるらしいからな。効率よく経験積めてるんだろうよ」
「なるほどねえ。そんなことならオレも教育受けてみたいぜ。一対一ならまだ勝てそうだろ」
「お前にゃ無理だろうな。何でもアイツらが選ばれた基準は『どこか普通と違うところがあった』っていうことらしいぜ。お前はたしかに強いが普通に強いだけだろ」
一行をネタにした噂話はまだまだ続いていった。




