1-10:半回復術の真価
時間は少し遡る。勇者ディーンのパーティーは地下遺跡に巣食った正体不明の魔物の調査を依頼されてとある山中へと赴いていた。
「遺跡に入る前は魔物たちが多かったのに、遺跡の中はむしろ静かですね。やはりここを根城にしていた魔物たちがどこからかやってきた強い魔物に追い出されたのでしょう」
魔法使いのジョージがそう推測する。
「たぶんそれで間違いねえな。でっかい人型の足跡がたくさん残ってるぜ」
床を調べつつ慎重に進んでいた斥候のハックがそれを肯定した。
「そいつが最近やってきたというのも足跡でわかるのかしら」
回復役のアンジェが疑問を問いかける。
「ああ。でっかい足跡は古い小さな足跡の上に乗っかるようについているけど逆はほとんどねえ。でっかいのが追い出したあとうろついてるんだろ」
「その『でっかいの』の正体はわかんねえのか?」
重装備の戦士エドワードが尋ねる。
「オレでも流石に巨人系の足跡は区別できるほど数を見てないからわかんねえな。ただ足の大きさからするとだいたい人間の二倍ぐらいだと思うぜ」
「それはかなり大きいな。並のオークよりもずいぶん大きいじゃないか」
それを聞いたディーンもややうんざりしたような表情を見せる。
「まあ足跡からするとたぶん複数はいない。一体だけならオレ達なら問題ないと思うぜ」
「当然だな。一対一ならボクの剣技の前に敵はない」
自信ありげに言うのは戦士のフレッドだった。フレッド以外のメンバーも一体だけならば負けはないと思ってはいたが、念の為に他の脅威がないか脇道も確認しながら慎重に進んでいく。かなり奥まで進んだところで索敵魔法をつかっていたジョージが警告を発した。
「いました。此処から先の奥の広間に巨人型の魔物が一体だけです」
「魔物の種類はわかるか?」
「ちょっと待ってください。少し索敵を強くします……わかりました。一つ目巨人のサイクロプスです」
それを聞いたエドワードはヒュウと口笛を吹く。
「それはなかなかの大物じゃないか。こっちに気付いてるか?」
「いえ、むしろ奥の方にいる何かに気を取られているような……あ、ヤバいです。奥の部屋に追い詰められた人が何人かいますね」
「全員戦闘準備! 急ぐぞ」
間髪を入れずに号令して駆け出したディーンに遅れることなく全員が続き、走りながら勇者とその仲間に限定の技能を発動する。
「向こうにいるのも素人じゃあないようだな。サイクロプスのHPが少しだけど削れてるぞ」
「たしかにそうだけど余裕はないみたいね。たぶん一人がみんなを守っているようでかなりHPが減ってるわよ」
「急がないと……うわっ、まずい!」
走っている勇者一行の技能で見えている奥にいる人間二人のHPが一気に大きく減った。そして残ったうちの一人のHPもじわじわと減っていく。
「わたしが先行する。加速魔法を」
ディーンがそう言うのを予測していたようにすぐさまかかった魔法により一気に加速してサイクロプスのいる広間に到着する。
「あっちか!」
広間の奥にあった通路にサイクロプスがいるのを確認したディーンは一気にそこにかけこんだ。
『グオォッ!』
通路を抜けた先で身体を起こして一声吠えたサイクロプスに一気に肉薄する。さすがにサイクロプスのほうも気付いて振り返るがまだ隙だらけの相手に向かって剣を一閃する。
『ガァッ!』
サイクロプスが悲鳴を上げ、その右腕が半ばから切り落とされた。ディーンは奥にいた面々に声を掛ける。
「危ないところだったがなんとか間に合ったようだね」
「ディーンさん!」
奥にいたのは先ごろ修了試験を終えて送り出したばかりの新米パーティーだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
奇襲が決まったこともありあっさりとサイクロプスを討ち倒した勇者たちは負傷していた新米パーティーの手当などをしながらリーダー同士をメインに情報交換をしていた。
「とまあそういうわけでね。わたし達はこの遺跡に調査に来ていたんだよ。入口は全部立入禁止にしていたはずなんだが君たちはどこから?」
「洞窟に住みついたゴブリン退治の依頼でやってきたら洞窟の奥に通路ができていたんです。そこからゴブリンが来たみたいだったから残党がいないか調べに来たら入口を崩されて閉じ込められてしまって」
「なるほど、そのゴブリンたちがサイクロプスから逃げるため洞窟を掘り進んで山の向こうに出てしまったわけか」
ディーンとジョージといった頭脳担当が地図を広げて位置関係を確認しながらふむふむと頷いている。
「ディーン、怪我人の治療は終わりました。意識も戻りましたし少し休めば問題なく動けるでしょう」
「ありがとう。じゃあ少し休んでから報告に戻ろう。それで君たちはどうする? 一緒に来るかい?」
「いえ、オレたちも村へ報告にいかなきゃいけないし。サイクロプスがいないんなら大丈夫です」
「うん、正解だ。じゃあそっちの話はまかせたよ。一応サイクロプスの爪でも持っていくと説明が早いだろう」
「わかりました。準備します」
そう言ってそれぞれが散っていこうとしたところでディーンはチャールを呼び止めた。
「ああ、ちょっといいかな。君たちのHPの動きを見ていたがチャール君『半回復』を使っただろう?」
「ああ、わかりますか。薬瓶が割れてたし回復役も気絶してて。僕達ぐらいだとまだ普通の回復呪文や回復薬より効率悪いんですが仕方なくて」
答えるチャールにディーンは声を潜めて言った。
「実はね、シンディーのHPはわたしが見る限りはゼロまで減っていたんだよ」
「え、それじゃあ戦闘不能で並の回復呪文じゃ間に合わないはずでしたよね」
HPの概念は勇者たち以外には知られていないがチャールは以前にいろいろあって説明を聞いたことがある。
「そう、本来なら回復系でも最上級の蘇生呪文が必要なはずなんだ。でも『半回復』は効果を発揮した」
絶句しているチャールにディーンは小声で告げた。
「君の『半回復』はとんでもない呪文のようだ。だがそれだけに扱いは慎重にしてくれ。蘇生効果というのも確実じゃないかもしれないからそれをアテにした行動はやめておくようにな」
ディーンの言葉にチャールは頷くことしかできなかった。
とりあえずここで第一章終了です。




