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冬野つぐみのオモイカタ ―女子大生二人。トコロニヨリ、ヒトリ。行方不明―  作者: とは


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人出品子は懐う

 ドアが閉まる。

 つぐみの足音が遠ざかっていくのを確認すると、品子はその場にしゃがみ込んだ。

 そのままドアに背中を預け目を閉じ、先程までの出来事を反芻(はんすう)して呟く。


「何という子なのだろう」


 まさか何も持っていない普通の人間に、ここまでやられるとは思ってもみなかった。

 品子は大きく息をつく。


 もうごまかしは無理だと思った時に、「力」を使ってしまおうとどれだけ思ったことか。


 冬野つぐみの勘はかなり鋭い。

 品子が持つ、人ならざる力。

『発動』に気づかれる可能性は何度もあった。

 だが同時に自分が発動を使えば、全てを「なかった」ことに出来るのだ。

 それでも品子は使わないという選択をした。

 さらにはつぐみに危害を加えることによって、彼女の危機能力を試したのだ。

 結果、つぐみはその危機を見事に乗り切った。


「本当に、……大したものだ」


 泣きそうになっていた表情から、一転してからのあの行動。

 追い詰められて起こしたものか、それとも品子の行動も想定に含めていたのか。

 あの時の彼女は、まるで別人のようだった。


 自分と違い何も力を持ってない冬野つぐみ。

 彼女に対し、品子は協力してほしいと願っている。

 だがそれは、「普通」から切り離してしまうこと。

 彼女の平穏や日常を奪うということでもあるのだ。

 それはつまり、彼女に常に危険が起こりうることでもある。


 自分達とは無関係の人間を巻き込む。

 それが間違っているということを、品子は十分に自覚している。

 だが彼女の観察眼は、今の品子には必要だ。

 自分達がまだ気づけないことも、つぐみなら探し見つけ出せる。

 これ以上、このままの状況で止まっているわけにはいかないのだから。


 そんな品子の耳に遠くから振動音が聞こえてくる。

 閉じていた目を開ければ、机の上に置いてある沙十美のスマホが揺れている。


「あぁ。誰だか知らないが、返信しなきゃな」


 ゆるりと立ち上がる。

 ふいにつぐみの言葉が品子の頭に浮かぶ。


『先生。先生が苦しさを吐き出せるところはあるんですか?』


「――残酷だよね。それってさぁ」


 口に出してしまった言葉に、品子は皮肉な笑みを浮かべる。

 彼女から逃げ出したくて、それで力を使ってしまったのだから。


 一生懸命に言葉を紡ごうとしていた彼女の心は、隙だらけだった。

 発動に全く気付かず、彼女は品子の言葉通りに帰っていったのだ。


 小さく頭を振り、品子は気を取り直すとスマホの画面を見る。

 相手は沙十美のグループラインの仲間からだ。

 有益な情報では無いことを確認すると、返信をして再び机にスマホを戻す。


『その人達とでもいいので話とか……。いろんなものを抱え込まずに』


 困ったように見つめ、話をしていたつぐみ。


「優しいね、彼女は」


 混ざりあった感情を抱え、先程までつぐみがいた椅子に座り込む。


「あんなにひどい目に遭ったのに、その危害を加えた奴の心配なんかして。そんなひどい奴が相手なのに、そいつが傷つかないようにと、一生懸命に言葉を選んで」


 品子の脳裏に、優しく微笑む一人の女性の姿が浮かぶ。


「でもね、だめなんだよ。そんな風に人ばかり大事にしていたら。……死んじゃうよ」


 もうここにはいない、大好きだった人。

 ずっと憧れ、この人のようにありたい。

 心からそう願ったとても大切な人。

 その人を想い、品子は目を閉じゆっくりと顔を上げる。


「ねぇ、マキエ様。そう思いません? 彼女は……。あの子はあなたにとても似ています」

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