表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/35

クエスト名称:勇者の秘策


 李里ちゃんの叫びが、勝利の余韻をかき消した。


「「!?」」

 李里ちゃんの警告を耳にして、安堵の顔を見合わせていた真衣と僕は、エレシアスを消した所へ目をやった。

「……ク……クク……」

 凍結粉砕されても尚、細胞が、肉体が寄せ集まって形をつくり、その内に秘めた邪悪な魂は、しぶとく生き延びていた。

 ぼろぼろの上体だけが、そこにある。

「勇者よ……これで、勝ったつもりか……余の体は、何度も、蘇るッ!!」


 雷に焼け焦げた四腕を、黒雲へ突き出し、

「蘇れ、四天王ォ!!」

 四天王、復活の魔方陣が浮かび上がる。


「エレシアスのやつめ! もう一度四天王を蘇らせる気だぞ!」

「足掻き続けるってわけね……」

 真衣が額の汗を拭って、

「私たち相手に何度闘ってもムダ……と言いたいけど、ちょっとキツいかも……」

 さすがに疲労度がヤバい。


 回復アイテムを多用して、もはやドーピング以上の薬漬け状態なのに、ここに来てからのもう一展開には対処不可能かもしれない……!

「蘇れぇ……!!」

 黒雲へ突き出した腕をふり下した一瞬間、漆黒の光を放つ復活の魔方陣から、四天王の魂が吹き込まれた肉体が、形を成して登場した。


 だが……。

「うげえぇぇ! やつめ、不完全な四天王を生み出しやがった!」

 現れたのは、放っておいても腐り溶けてしまいそうな、ゾンビ四天王だった。


「オオオォォ……エレシアスさまぁ……永遠の眠りを……」

「……わが肉体がぁ! 腐り……もう、もう……」

「お……お辞め、ください……エレシアスさまあ……っ!」

「……われらの魂を……眠らせてくだ……くださいませえ……」


 ドゥクサス、ゼゼガン、イズリフ、ガープ。

 どろどろに腐った肉体は悪臭を放ち、それぞれが悲痛な叫びを上げて、魔王エレシアスにひれ伏す。

 肉体美を誇ったドゥクサスの腕が腐り落ち、冷美に充ちたイズリフの頬や目玉が剥がれるように溶け落ちる。

 見るに堪えない、身の毛もよだつ光景であった。

 鼻を覆うが、それでも僕は、吐き気がこみ上げて来る。

 焼け焦げた体をしてエレシスが言う。

「……黙れ……四天王よ……貴様らは、余の肉になるのだ。余の体の一部と……なれ」

 言ったとたん、四天王が叫喚し、目の前が地獄と化した。


 ドゥクサスが、ゼゼガンが、イズリフが、ガープが、魔王エレシアスの体に吸収されて、魂を喰われた。

「なんてやつなの……仲間を取り込むなんて……」

 うめくように真衣が言った。


 エレシアスに吸収される寸前……。

 ガープが、僕に助けを求めるように手を差し伸べた刹那、魂を噛み砕かれた。

 僕の心臓が、ドクンと大きく鼓動した。

「……ガープ。僕は、お前が嫌いだ。

 だけど。

 いまは、お前に同情してやる。お前よりも大っ嫌いなやつが、僕の目の前にいやがるからだ……ッ!」

 手にした賢者のセプター改㈽に、否応でも力が入る。


 魔王エレシアス自身も、体を腐らせて、

「……ゆ、しゃ……勇者……きさま、ご……と、地獄に……みちづれ、してや……る」

 知能も理性も捨てたようだ。

 そして、己の死を悟ったか、捨て身の攻撃に出た。


 黒雲を仰いだ四腕の先に、魔方陣が浮かび上がる。

 頭上高く、黒雲渦巻く中に、なにか巨大で得体の知れない物を肌で感じる。

「……くら……え…………ダーク……マター……」

 四腕をふり下ろした転瞬、


「落ちて来るぞ……空からなにか、落ちて来るぞぉ!!」

「防いで!!」

 黒雲を押し退けるように出現したのは、まさに暗黒そのもの。

 隕石だ。

 それも、真っ黒い。暗黒の隕石だ……!!


「バリディア!!」

 ドーム状に展開する白光の壁。

 そこへ降って来た暗黒の隕石が白光の壁に衝突。僕は賢者のセプター改Ⅲを天にかかげ、落下してくる隕石を受け止める。

「防ぎきれるもんじゃないっ! 押されてる! 真衣、破られるのも時間の問題だ!!」

 もしそうなったら、スタミナを回復してふたたびバリディアを唱える間に、隕石が降って来てしまう。そのときこそ、ゲームオーバーだ。


「……一度だけ。一度だけチャンスを頂戴」

 真衣は言った。

「魔王エレシアスに、トドメを刺して息の根を止める」


 白光の壁にヒビが入った。

「できるのか!? いや。やらなくちゃ……いけないのか」


「そう、やらなくちゃ。1回だけでいい、あの隕石を押しかえして。そしたら、バリディアを解除して、すぐに横へ飛んで伏せて」

「伏せる?」

「バリディアが解除された隙を狙って、魔王のやつ、一撃を打って来るにちがいないわ」

「なるほど、魔王らしい卑怯な手だ……!」


 相づちを入れる僕だが、隕石の落下パワーが強大で、押しかえせるか自信がない。

 いまでも充分にキツい。

「私も、バリディアの解除と一緒に避けるから」

「避ける? トドメの一発は?」

「投げるわ。これを」


 そう言って真衣は、ゼタドラゴンソードを見せた。

 剣を投げる。

「トリッキーだな……だけど、うん。真衣の言うことだ、信じるさ!」

 僕は渾身の力で、白光の壁を押した。

 腕がプルプル、足もガクガクふるえちゃってる。背筋がズギッと痛む。

 暗黒の隕石のパワーも半端じゃない!! だけど、

「負けるかあーーーっ!!」

 ここで潰されたら、李里ちゃんに申し訳ないぞ!!

 男の子だろ、踏ん張れぇ!!


 暗黒の隕石が、ほんのすこし、わずかながら後退したのを感じた刹那、

「真衣! 一番おいしいところを譲るから、僕たちの運命をよろしく頼む!!」

 バリディアを解除して、真横へ飛ぶ。


 白光の壁が消える一瞬前に、ゼタドラゴンソードを投擲する真衣の姿が視界に入った。

 ビュウンッ!

 うなりをたてて、風を切り裂くゼタドラゴンソードは、眩い光を放っていた。勇者真衣の、勝利への闘魂が込められていた。


 そして、ほぼ同時に。

 入れ替わるようにして、魔王エレシアスの放ったサンディアがほとばしる。

 だれもいない場所を、ほとばしる。


「ナ!?」

 これが、魔王エレシアス最後のことばだった。

 眩い光が、エレシアスの一角をへし折って、額に突き刺さった。

 貫かれてうしろへ倒れてゆき、四腕を伸ばしきって、息絶えた。


 仮りにこのとき、エレシアスに意識があるとすれば、仰向けに倒れて眺めた空に、暗黒の隕石の存在や黒雲のない、澄みきった青空を目に入れたはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ