クエスト名称:エンディングは簡素に
「真衣ぃ! 助けてくれるって、信じてたあ!」
ガチャリ、と鳥かごの錠が外れて、李里ちゃんが飛び出した。
純白のウェディングドレスに身を包んだ李里ちゃん、ドレスの裾を摘まみ上げるように端折って、こちらに駆けて来る。
「李里! 無事でよかった。本当によかった……」
手と手を取り合って喜びと感激にふるえる真衣と李里ちゃん。
どちらも、その両眼は熱い泪にぬれつくしている。
すると、李里ちゃんが僕を見た。
僕は、はっとして思い出した。
そうだ。告白だった!
「真衣ぃ、こちらの人は……?」
尋ねられて、目尻を指で拭った真衣が、
「ほら、リアル世界で、学校で……えーと。教室のうしろから、李里のことをジロジロ見てた、変態男子よ」
「変態じゃないっ! そんな紹介があるかよ!」
真衣のやつ、僕と李里ちゃんのことになると急に薄情になりやがる。
「私と保育所から幼馴染みの、羽柴優希っているでしょ。私がいつも、ユッキーって呼んでる男子」
久しぶりにフルネームで言われた気がする。
ユッキーのあだ名で呼ばれ続けて、だれも僕の本名なんて知らないだろうけどさ。
「あっ、いた! 教室のうしろに!」
と李里ちゃんは、迷惑そうな顔をして、
「チラチラ見て来る、変な人!」
「……変な人」
変態呼ばわりよりはいいけど……意味は大差ないよな……。
「それで、その変な人がどうかしたの?」と李里ちゃん。
「その変な人が、この人なのよ」と真衣。
2人の視線が同時に、僕に向けられる。
「えええ!? うそーっ!」
李里ちゃんは、おどろきに目をひらき、
「だって男の子だったのに、こっちは女の子だよ!? 髪も長いし、碧眼だし、おっぱいもあるし、どうしちゃったの!?」
「……うん、ごもっとも。びっくりして当然だよな……」
と、そのとき。
真衣が僕の背中を押しやって、
「ねえ、李里。ユッキーが、李里に言いたいことがあるんだって。きいてくれる? 私は……ちょっと席を外すから、ね?」
言って、魔王エレシアスの亡骸の方へ歩いて行く。
真衣が、空気を読んで、李里ちゃんと僕を2人だけにしてくれたのだった。
「言いたいこと?」
李里ちゃんは、おろどきながらも、首をかしげて僕を見る。
「うん……えっと。どこから言えばいいかな」
説明することがあり過ぎる。
だけど、ストレートに伝えるのが一番、相手のこころに響くはず。
僕は、ありのままの気持ちを言う。告白する。
「李里ちゃん! 僕は、真衣に召還されて、この世界に来たんだ! 李里ちゃんが魔王に捕らわれたってきいて、助けたいと思った。
ポポ村からロームル、コールドビークやナスカーサ……そして打倒魔王。ここまで来る間、僕はずっと抱いていたんだ。いま、李里ちゃんに伝えたい気持ちがある!」
「う、うん……? 伝えたい気持ち?」
おっかなびっくりな態の李里ちゃん。
僕は一呼吸おいて、
「そう。僕は、僕は……李里ちゃんのことが好きなんだ!! お付き合いしてほしいっ!!」
これ以上のストレートはないだろう。
それに完璧なシチュエーションだった。
いままでの冒険の旅、魔王との闘い。
すべてを乗り越えた僕の勇士を見て感じてくれたはずだ。
さあ、李里ちゃん。
僕の気持ちに答えてくれ!
「す、好きって……えっ、えっ!?」
混乱するのもわかる。
だが、ここでもう一押しだ。
「僕と、付き合ってほしいんだ! いや、もう、ウェディングドレスを着ているんだ、ここで僕と結婚しよう! 李里ちゃん!!」
「ええっ!?」
耳まで真っ赤にして李里ちゃんは赤面して、
「だ、だけど、付き合うとか、その、けけけ結婚とかって、」
「僕じゃダメかな!?」
勢いで押し切っちゃえと僕は畳み掛ける。
と、李里ちゃんは、勇気を出して言った。
「お付き合いは考えても結婚はできないですっ! だって……だって、女の子同士だもん!!」
一瞬、なにがなんだか理解できながった。
しかし、やがて混乱から醒めた僕は、
「え……え……ん? いや、この世界では女の子だけど、リアル世界では、」
ゲーム世界へ召還された際の美少女アバターの説明を言いかけたときだ。
「はいっ、ユッキーはフラれました! だれがなんと言おうと、ユッキーはいま、完全に、李里にフラれましたっ! 残念です!!」
そい言ったのは真衣だ。
いままで見たこともない、とびっきりの笑顔を浮かべた真衣だ。
しかも、いつの間にか気球を準備していた。
「李里、早く乗って!」
「えっ!? う、うん……でも」
僕に振り向いた李里ちゃんへ、真衣は、
「いいから! さ、早く!」
手招きして、李里ちゃんを気球に乗せた。
ニコニコ笑顔の真衣の手には、ほのかに輝く〔オーブ〕が握られていた。
僕はその〔オーブ〕を見て、ピンときた。
「それはもしかして! 魔王を倒せば入手できる、願いを叶えるオーブじゃないのか!?」
「ピンポンピンポーン! 私が願いを叶えるわ!」
言いさして、気球がふわりと浮揚した。
「あっ、置き去りにする気かよ! 待てぇ!!」
気球の籠から垂れ下がったロープにしがみつく僕。
「私の願いは、エンディングの倍速!! 叶えて、オーブ!」
意味不明の願いを言いやがった。
願いをきき入れたのか、オーブが砕ける。
「ど、どういうことだ!? そんな願いをして、どうするんだ!」
ロープにしがみついて僕は、宙ぶらりん状態で叫んだ。
眼下にひろがる大地が、もの凄いスピードで移り変わっている。
魔王城を飛び立って、砂漠になった。
「この砂漠はミナロブ砂漠じゃないのか……? あっ! ナスカーサが見える!」
これはもしかして……!!
「RPGのエンディングでよくある、いままで立ち寄った町や村、世話になった人たちに、魔王を倒したことを報告してまわるやつだ! だけど、どうしてこのエンディングが倍速で……!?」
「べぇー、だ!」
あかんべーをした真衣が、李里ちゃんと一緒に、気球の籠から身を乗り出している。
「フラれたユッキーには、最高のシチュエーションは不要でしょ? だから、さっさとこのゲーム世界から脱出するの!」
「まさか、そんな!? 李里ちゃんに、しっかり説明させろよ! チャンスは、いまだけなんだ!!」
美少女アバター作成の経緯と、リアル世界に帰還してからの僕の性別が説明できれば、李里ちゃんはきっと、僕の告白を受け入れてくれるはず!!
「残念ね! エンディングを早めたから、そんな時間はないわ!」
真衣のことばを耳にして、僕の脳裏に蘇るものがあった。
「あのとき17ゴールドを渋るんじゃなかった! 嗚呼、こんなところで時間切れ」
ここまで読み進めてくれた方、ありがとうございます。
本作品はここまでです。
とあるレーベルの新人賞に作品を応募するため、時間がないのでここで物語は終わります。
本作品がどこかのレーベルで出版され、続きが読みたい! という声があったとき、次話が掲載されるとおもいます。
そのときが来ることを願って、わたしも頑張りたいとおもいます。
ありがとうございました。




