クエスト名称:美しき四天王イズリフ
四天王イズリフは、僕たちより先に、知恵の塔を攻略したわけではない。
外壁を破壊して、〔知恵のしるし〕を横取りしたのである。
「なんて卑怯なやつだ! なんて美人なんだ!」
「ひとつ余計よ、バカ!」
真衣にどつかれた。
「〔知恵のしるし〕をよこしなさい! じゃないと」
真衣は腰を沈めつつ、ファルガサーベルの柄に手を添える。
「じゃないと? ふふっ」
冷笑するイズリフは、僕と真衣を面前にしながらも、余裕の表情を見せ、
「いいわよ。しるしの破壊命令は、勇者と雑兵を倒したあとでも遅くはないのだから」
足先でしるしを蹴って、フロアの端へと滑らせた。
イズリフは片手に両刃で細身のレイピアを持ち、優雅にもキトンで体を包んでいる。古代ギリシャの衣服だ。
イズリフの、絹糸のように艶やかな白髪ロングには、彩りの美しい髪飾りがつけてある。明らかにステータスアップのアイテムだ。
よく見れば、レイピアの柄や手の甲を覆う護拳、身にまとったキトンにも、それ相応のアイテムが鏤められている。
軽装な装備に思えたけれど、目立たないアイテムによって、その戦力を軽視してしまうところだった。
「なかなかに手強いぞ、真衣!」
「わかってるわ。ちょちょ、離れてなさい」
言われて、ちょちょは脱兎のごとく、いや、文字通りに脱兎する。
先手を取ったのは真衣。
「んんっ!」
息を止め、疾風のごとく斬り込んだ。
ファルガサーベルの大刀が鞘走る。
これをイズリフは、レイピアで刃先を左へと逸らす。
ファルガサーベルが火の粉を散らし、
「猪突は避けやすいの、知ってる?」
真衣の体ごと払いのけた。
間髪を入れず賢者のセプターを構えた僕は、
「ファディア!」
炎魔法最上を唱える。
――ぽふっ。
魔方陣から一瞬、まるでゲップのように、焦げた空気が出た。
「ぬああ! 疲労度が溜まり過ぎたせいで、即スタミナ切れだ!!」
塔の最上階まで来るだけでも疲労度が溜まり、その上モンスターも出現。戦闘を繰り返し、やっとのことでたどり着いた状況だったので、疲労回復をしていなかった。
「ヤバいよ、真衣! 『ファイト一発!』をちょうだい! ファイト三発くらい!!」
叫んだそばから、
「雑兵が、ほざくな」
真正面から、鋭く尖ったレイピアを突き込まれて、
「バリア!!」
保護魔法のランクを下げて唱えざるを得ない!
無力にも、バリアは瞬時に破壊され、
「ぎゃああああ!」
右肩にレイピアが突き刺さる。
しかも金槌で五寸釘を打ち込まれるがごとく、ガツガツと連続で突き刺される。
肩の骨がゴギッ。音を立てたのが耳に入る。
「もっと苦痛に叫びなさい。もっと、もっと!!」
イズリフの冷酷な瞳に凝視され、僕は背筋が凍る。
ヒットポイントどころか、残虐に甚振ってくる攻撃に精神が狂いそうだ。
「真衣! 助けてくれえ!」
縋りつくように目をやれば、
「待ってなさいユッキー! すぐに助けるわ!」
真衣はファイト一発をがぶ飲みしていた。
「勇者と共に貫いてあげるわ」
不敵な笑いをするイズリフに、喉元を掴まれ、
「さよなら」
冷たい息をかけられたとたん、真衣のいる方へ、力任せに投げ飛ばされた。
「ユッキー、よく耐えたわ!」
僕を餌にして、自分ひとり疲労回復していた真衣が言う。
宙を舞う僕に、すれ違いざま、
「これで回復しなさい」
ファイト一発を口にねじ入れた。
「私が相手よ、イズリフ! 今度は避けられないわ!」
真衣とイズリフの激烈な剣戟の響きを背後にして、僕はファイト一発を飲み干す。
即座に回復魔法ケルガを唱えて傷を癒やした。
2人へ向き直ったら、
「たあぁっ!!」
ファルガサーベルが火の粉を散らしてひらめけば、
「くっ、」
脇下を切られたイズリフ、
「それが全力? ンッ!」
「つぅ……」
真衣の太ももを刺し切る。
切って切られて、その戦闘の凄まじさに冷や汗が噴き出る。
「真衣、補助魔法をかける!」
叫んで僕は、守備力を上げるプロテクター、攻撃力を上げるストライクを唱え、
「パッドダウン、もう一回、パッドダウン!」
イズリフの守備力を下げる。
「倒れなさい」
レイピアを突き込むイズリフの攻撃を、
「あんたがっ!」
真衣はクロムシールド改で受けると、左足を引いて身をまわしつつ、イズリフの胴をなぎはらった。
ズバッ、と切ったとき、真衣は体勢を立て直す間がない。
「ブルリガ!!」
すかさず氷魔法を唱えて僕は、イズリフに隙を突かせない。
魔方陣から、ナイフのように研がれた氷刃が躍り出て、イズリフの体を切り裂く。
「ぐぅっ……」
イズリフの微笑に苦痛が混じる。
そこへ、必殺の一刀が一閃——
「……かはァ」
イズリフの口から、かすれた吐息がもれる。
腹部に突き立てられたファルガサーベルが、その特殊効果を遺憾なく発揮して、その体躯をたちまちに、
「キ ャ ア ア ア ア !!」
はげしく燃え上がらせた。
毒々しく絶叫するイズリフが息絶えて、灰になるまでには、そう時間は要さなかった。




