クエスト名称:変態女賢者
戦利品は、イズリフのレイピアと、キトンを肩で留めつけるピンブローチだった。
「真衣、言いたいとこがあるんだが……」
「なによ?」
真衣が口をひろげている中くらいの布の袋に〔知恵のしるし〕を入れて僕は、
「〔力のしるし〕のときは、その名の通り力で勝利したからさ、今回は、頭を使うんだろうなと思案してたけど、やっぱり力と力の勝負かよ」
「まあ、頭使ったのは塔の攻略だけだったわね。それも、ほとんどが私の回答だし」
「いいや、やっぱり僕の回答が光ってただろ。最後なんて、僕がきれいに持っていった感じがあった」
そこを邪魔されたのだから、たまったもんじゃない。もうすこし感動の余韻にひたっていたかったのに……。
「ユッキー! 勇者さま!」
イズリフとの戦闘で、物陰に隠れていたちょちょが、ひょっこり顔を出して、
「宝箱があるのら!」
青錆にまみれて半分腐っているような宝箱があった。
「宝箱に化けてるミミックじゃないのか?」
すると、ちょちょは鼻を利かせて、
「ニセモノじゃないのら!」
「ふふん? それじゃ見てみましょう」
抜け目なく、真衣が先頭に立って手をつける。
……かぱっ。
中には、魔法の書物のように鈍器にもなりうる大きな本が一冊。
「え、これだけ?」
真衣は不満そうな顔をして、その本を取り上げる。
「なんの本?」
僕の問いに、
「うーん。うす汚いし、表紙の文字が色あせちゃってるし、鍵もかかってる」
十字に巻かれた鎖に南京錠がしてある本は、中をひろげることもできず……、
「魔法の書物でもないから、あげるわ」
と真衣は、モンスター素材同等に興味もなく、僕に差し出した。
「残飯処理係りかよ、僕は……」
口を尖らせてぼやき、その本を受け取った、そのとたん。
カチャリ。
南京錠のロックが外れ、鎖が、だらりと床へ垂れ落ちた。
「な、なんだ!?」
手に持った本が突如としてひらき、ページがパラパラ捲れると同時に神々しい光があふれ出る。
魔法の書物を修得するように、宙に舞い上がった紙が、僕のまわりを舞い躍り、語りかけてきた。
――わが名は大賢者ジョフィル。賢者の道をゆく者よ、更なる智の深みを目指すならば、偽りを暴き、真実を見抜く、第三の眼を授けよう。開眼するとき、其方は大賢者になっていよう――
語り終えると、舞い躍っていた紙は本に収まって、ふたたび鎖と南京錠で固く閉じられた。
あっという間の出来事だった。
「なんだったんだ……いまのは……」
「大賢者って言ってたわよ? ユッキー、大賢者になるの?」
「ユッキー、パワーアップするのら!?」
真衣とちょちょが、なんとも奇妙な視線を僕に向けている。
と……。
茫然としていた僕は、急に、おでこに違和感をおぼえた。
「おでこが痒い! ピリピリって、めっちゃ痒い!」
頭部につけていたサークレットをもぎとるように外すと、
「ユッキー!? おでこに眼があるのら! 眼が芽吹いたのら!」
「ちょちょ、うまーい! ってか、第三の眼! まだ、閉じているってことは、大賢者じゃないってこと?」
「僕に言われても知らないよ。いきなり、おでこにできたんだから」
というか、自分のおでこを目視できないので、どうなっているのかわからない。
慌てて僕は、最終問題を出題した鏡に顔を映して見れば……。
瞳を閉じた第三の眼が、眉間に、額の中央に鎮座している。
「あ! これは紛れもなく、発眼性物質だ!」
「アホ。ゆっきーは、うまいこと言わなくていいのよ」
「ちぇっ。……にしても、このサークレット、不要になったな……」
いままで、気にもとめていなかった初期装備。きれいな水晶で装飾されたサークレットは、第三の眼の拘束具かも知れない。……僕の憶測だけど。
しかし……。
攻撃魔法は魔法使いに及ばないし、回復魔法も僧侶に及ばない。しかも、レベルが上がりにくいお荷物同然の賢者が、この第三の眼の開眼によって、大きく飛躍するのではないだろうか!?
「大賢者になれたら、僕が果たす役割も大きくなるかも!」
「そうかもね。私が持ったときには、この本はうんともすんとも言わなかったのに、賢者の職にあるユッキーが持ったら、なぜか発動したし」
勇者真衣は、しげしげと本を眺めた。
勇者は勇者で、大勇者とは言わないから、ちょっと悔しそうな表情の真衣だ。
そう言えば、この知恵の塔は『賢者の塔』とも……。
確かマジックアカデミーの卒業者に賢者いて、自ら開発した秘伝の術をここに隠したとか。
その賢者が、ジョフィルにして、大賢者さま。
そして、秘伝の術を記したのが、この本だったのか。
秘伝の術は〔知恵のしるし〕を意味していると考えていたけど、読みが外れた。
「……あ」
秘伝の術を記した本を見ていた真衣が声を上げた。
「真衣? どうした?」
「ふふ、発見しちゃった。ユッキー、いまレベルいくつ?」
「レベル? えーと」
先ほどの戦闘で、僕はレベル25になった。真衣はレベル32。
「本のうしろに、レベル30って記述してあるわ。これってたぶん、第三の眼の開眼は、レベル30になってからじゃない?」
「ええ、マジで!?」
「ほら、魔法の書物と一緒で、低レベルでも魔法は修得できるけど、扱うためには〔経験値〕が必要。簡単に言うと、ユッキーは大賢者となるレベルに達してないのよ」
「……なるほど、そういうことか」
ということは、僕はいまレベル25だから、あと5、レベル上げをしなくちゃいけない。めんどくせえ……。
すると、ちょちょがぴょこぴょこ駆けて来て、
「ユッキーはあと、大きいモンスターを84体くらい倒せば、次のレベルに上がるのら!」
気が遠くなる数字だった。




