赤魔法編
3Mの第四十八弾、赤魔法?
「恵って魔法使いの種類とすると何になるの?」
下校途中した逢歌の質問に溜め息を吐く恵。
「あのね、ゲームの話を持ち込まないでよ」
「でも気になるよ、色んな魔法を使えるから賢者とか赤魔法使い?」
逢歌の追求に恵が肩を竦める。
「賢者は、魔法を使いません。本当にゲームの影響受けすぎ」
「えー! 賢者って全ての魔法を使えるジョブじゃないの?」
驚く逢歌に恵がモバイル辞典を見せる。
「賢者って頭が良い人って事。ドラクエやFFの所為で変なイメージがついているけど魔法使いの種類じゃない。だいたいね、ジョブって言うのもある意味違うんだよね」
「どういう意味?」
首を傾げる逢歌に恵が詩莉阿を指差す。
「詩莉阿の場合、巫女ってジョブな訳、これは解るよね」
「うん、そうだよね」
逢歌が頷くのを確認してから恵が続ける。
「魔法使いの種別としては、祈祷型術者になるの」
「どういうこと? 巫女じゃないの?」
混乱する逢歌に詩莉阿が告げる。
「巫女というのは、神様に仕える役職みたいなものです」
「魔法使いの種別には、巫女さんとかは、ありえない。そこら辺は、ゲーム上理解しやすいようにしたのが誤解の始まり。魔法使いを種別すると、祈祷型と魔法理論を組み立て行使する理論型に大分類されるかな。細分化しようとすれば幾らでも出来るけど、それは、おいておく。前者は、才能とか血筋に大きく影響受けて、後者は、才能より努力が必要とされる。どちらかといえばあちきは、後者になるよ」
恵の説明に逢歌が眉を顰める。
「うーんイメージ出来ない」
「単純に言えば、魔法へのアプローチの違いだよ。例えるなら、硬い石を砕くとき、祈祷型は、ハンマーの硬さとパワーを重視し、理論型は、どう叩けば小さな力で砕けるかを重視する」
恵の補足に逢歌が詩莉阿を見ながら告げる。
「詩莉阿に大きなハンマーは、合わないと思うよ」
「例え! ゲーム的には、詩莉阿は、MPがいっぱいあるから強い無属性魔法を使え、あちきは、MPをケチって弱い属性魔法で敵を倒すって感じだよ」
恵が面倒そうに答えると逢歌が手を叩く。
「解りやすい。でも恵ってMP少ないの? どちらかと言うと凄く多そうなイメージがあるんだけど」
「MPと言うか、魔法の素養だけなら詩莉阿よりも上だよ。でも相手していたのが人間と比べ物にならない魔族だったからね、どうしてもパワー勝負は、出来なかったから論理型なの」
恵がシミジミと答える。
「ふーん、何かしっくり来ないな」
いまいち納得していない逢歌に対して恵が告げる。
「ハッキリ言ってゲームの魔法使いの種類って統一性が無いからだよ。FFで例えるなら黒魔法、白魔法、青魔法、時空魔法、召喚魔法とかあるけど、表現を変えると次みたいになるの、通常攻撃魔法、回復防御魔法、相手の技のパクリ魔法、ゲーム内時間と特殊攻撃魔法、増援魔法」
「なんですかそれ?」
怪訝そうな顔をする詩莉阿に対して肩を竦める恵。
「ようは、ゲームにおける魔法使いの種類って目的による種別みたいなもんかな。正式な事を言えば、白魔法と黒魔法って言うのは、力の源の違いなんだけどね」
「どういう意味?」
逢歌の問い掛けに恵が説明する。
「白魔法って言うのは、基本的には、自分の力や世界に満ちる力を使う物、そこには、代償は、殆どない。しかし黒魔法は、悪魔とかの力を借りるもので、力を借りる代償に魂とか生贄を求められる。時空魔法とか召喚魔法に至っては、魔法の一種類でしかなく、白魔法と黒魔法の中に含まれる訳。ゲームの魔法使いの種類って動物の種類で犬と猫と河童とブルドックとドーベルマンっていってるみたいなもんなんだよ」
「そこでどうして河童が入るんですか?」
詩莉阿の言葉に恵が呆れた顔をする。
「青魔法なんて河童意外の何に例えれば良いんだか」
「ここまで話しときながら今更だけどさ、恵は、具体的にどんな魔法使いに成る訳?」
逢歌が話を戻すと恵が苦笑する。
「今は、学生で未来は、弁護士それじゃ駄目?」
「何でそうなるの?」
逢歌の追求に恵が少し真剣な顔で答える。
「あちきは、魔法を生業とするつもりがないからだね。敢えて言うなら異界魔法使いって事になるよ」
「異界魔法って何?」
逢歌が不思議そうな顔をすると恵があっさり答える。
「普段、あちきが使ってる魔法が全て、この世界で作られた魔法じゃないからね。まー元々、魔法に異界とかあまり関係ないけど、こっちの魔法とは、辿った歴史が違うって感じかな」
「あたし達は、畏敬の念を持ってそう異界魔法使いって呼んでるけどね」
突然現れた紫影に詩莉阿が頭を下げる。
「お久しぶりです」
「本当に久しぶりだよね。恵が異界に行った直後からあってないよね?」
逢歌の言葉に紫影が頷く。
「こっちも色々と忙しかったのよ。この間の琉球の件は、感謝しているわ」
「それなんだけど、影長は、あいつを罰しなかったでしょ?」
恵の問い掛けに紫影が頷く。
「ええ、キジムナーの人工製造技術等、有益な存在として飼いならす予定らしいわ」
呆れた顔をして恵が告げる。
「あの人らしいわ。それで今回は、何のよう?」
「赤魔法って解る?」
紫影の言葉に恵が真剣な顔になる。
「ゲームの話じゃないよね?」
紫影が頷く。
「影長の話では、特別な魔法らしけど。その具体的な話は、知らないらしいわ」
「特殊な魔法の一種。正式には、血統魔法って呼ばれる事が多いね。ある特殊な血を引いた術者しか使えないって奴だけど、ハッキリ言って関わらないほうが良い相手よ」
恵の解説に紫影が唾を飲み込む。
「貴女でも使えないの?」
「白や黒と違って完全な血筋という前提条件があるから無理だね。だいたい赤魔法の使い手の血統ってなんだか知ってる?」
自分の問い掛けに紫影が首を横に振ると恵が続ける。
「大半が異世界との混血、それも上位世界とのね。ここより格上の世界の魔法の場合が多いんだよ」
「厄介ね。その赤魔法使いの捕獲の仕事がうちに持ち込まれたの」
紫影の説明に恵が嫌そうな顔をする。
「最初に言っておきますけど手伝いませんからね」
「そういうと思ってました。でもね、その赤魔法使いなんだけど狙いは、貴女みたいなのよね」
紫影の言葉に恵が眉を顰める。
「どういうこと?」
「何でも、有力組織のメンバーだったその赤魔法使いが貴女の名前を聞いて、行方を晦まして、その行方を探ると日本に来てるらしいって事よ」
紫影が一枚の写真を見せると恵が何か思い出そうとする。
「どっかで見た事があるような顔だねー」
「だから恵ちゃんの所に来たら捕まえておいてね、報酬は、たっぷり払うから」
「はいはい」
紫影の言葉に写真を見ながら適当に答える恵であった。
数日後。
「誰だったけな」
恵は、まだ悩んでいた。
「もう諦めたら?」
逢歌の言葉に恵が難しそうな顔をする。
「うーん、なんかやたら気になるんだけど、どうしても思い出せないんだよね」
「以前に会った人なんですよね?」
詩莉阿の確認に恵が曖昧な返事をする。
「多分、会ってない。会ったらあちきがこんなに思い出せない訳ないもん」
「だったらどうしてそんなに気になるの?」
逢歌の当然の疑問に恵が困った顔をする。
「それが解れば困らないよ」
そんな恵の足が止まった。
「どしたの?」
振りかえる逢歌を強引に引っ張り戻す恵。
「何するの?」
そう口にした逢歌が立っていた場所が真っ赤に染まる。
「一つ聞いて良い?」
恵の言葉に夏なのにコートで全身を格下その女が答える。
「何でも答えましょう。何が知りたいですか? 貴女を襲う理由? それとも私の魔法の秘密?」
恵が失笑する。
「そんなのその魔法を見た時点で解ってる。聞きたいのは、もっと別の事」
首を傾げるコートの女。
「他に何が知りたいのですか?」
「無関係なあたしの友達を道具にするのに抵抗は、なかったか?」
恵の言葉にコートの女は、朗らかに答える。
「おかしな事を聞きますね。襲われた理由が解ってるのでしたら、知る必要がない答えじゃないですか?」
逢歌を詩莉阿の方に押し出して告げる。
「オオオのところに行ってて。血の池のチチチの血統の奴が、性格まで遺伝して狙ってるって言えば話が通るから」
「御婆様に、そんな二つ名があったのですか。まさにピッタリなお名前です」
微笑むコートの女に悪寒が走り詩莉阿が訊ねる。
「一人で大丈夫ですか?」
「こいつをこのまま放置する方が何倍も危ないよ」
恵の言葉に詩莉阿が巫女としての勘で正しさを理解して走り出す。
「無理しないでよ」
逢歌も心配しながら去っていく。
「あらあら、あの子達は、貴女がどうして動かないのか理解していなかったみたいですね?」
「目の前にある血溜りが貴女の声一つで何百人もの人を殺す事が可能な凶器だなんて理解する必要なんてないよ」
恵がこう話している間にも自分を何重にも囲うように広がっていく血を見る。
「自分の血を混ぜる事で人の生き血を操る特殊な魔法。貴女の血族だけが用いる事が可能な異能。この血の提供者は、何処に居るの? あの外道みたいに生きるのに必要な部分だけを壷に押し込んで保管するなんて馬鹿げた事は、してないよね?」
「御婆様は、その事で後悔されていました。勝負を受けた貴女は、使い魔を使って秘匿していた壷を壊して殺し、自分の力を奪ったと。ですから、こうしてます」
苦笑し、チチチの血族の女は、コートを広げる。
恵の顔から表情が消えていく。
「あちきも後悔しているよ、生き地獄を味あわせようと生かしておくなんて事をしないで、血の一滴も残らず消滅させてやるべきだったと」
チチチの血族の女は、微笑を絶やさず告げる。
「血の力がある限り、私は、無敵。例え貴女が地上に太陽を生み出そうと死には、しませんよ」
恵は、肯定する。
「そうでしょうね。この魔法は、血を操ってるなんて単純な物じゃない。血の持ち主達の全てを代償に貴女達に莫大な力を与える。その力を使えば如何なる攻撃も防げるね」
チチチの血族の女は、勝利を確信していた。
「死にたくなければ我が一族に施した呪いを解いてもらいますか?」
「血の魔法さえ使わなければ五感が失われていく事が無いって言うのに、どうして拘るのか正直、理解に苦しむよ」
淡々と語る恵にチチチの血族の女が叫ぶ。
「この圧倒的な力を使わないなんて在り得ないわ!」
「その挙句、貴女は、もう嗅覚も味覚も無くなってるよね? 次は、視覚か聴覚、最後の触覚が無くなればもう、何も感じなくなるね」
恵の言葉にチチチの血族の女が高笑いを上げる。
「その前にお前が呪いを解く。私は、五感を失い続ける恐怖に自ら死んだ者達とは、違うわ!」
「本当に理解に困る。何であちきが呪いを解かないといけないの?」
恵の問い掛けにチチチの血族の女が睨む。
「状況が解っているの? この魔法さえ使えれば、3Mと呼ばれた貴女でも、私に勝つ事は、出来ない」
恵は、空中に円を描くとそこから小さな小瓶が現れる。
「あちきは、用心深くてね。チチチが呪いで五感を失う覚悟で襲ってきた場合の用意もしてあったんだよ。それがこれ」
「そんな小瓶で何が出来るというのですか? 血の魔法の前では、どんな魔法も無意味なのですよ」
余裕を取り戻してくるチチチの血族の女に対して恵は、小瓶の中の物を自分を囲う血に振りまく。
「何をしても無駄です。この血の魔法には、誰も……」
チチチの血族の女の頬が切り裂かれる。
「馬鹿な、血の防壁が私を如何なる攻撃からも護る筈です!」
戸惑うチチチの血族の女に恵が冷めた表情のまま告げる。
「同種の魔法は、防げないって事だよ」
「そんな訳ありません! この魔法は、今では、私しか使えない! 貴女がどんな凄い魔法使いでもその事実は、変えられない!」
激昂するチチチの血族の女に反して恵は、冷静に説明を続ける。
「さっきも言った筈。チチチの襲撃を撃退する用意をしてあると。チチチに呪いをかける時にその髪の毛を手に入れ、ホモンクルスを作った。その血肉を使って作ったさっきの液体を使う事であちきにも同じ魔法を使う事が出来る様にした。ただそれだけの話」
「小賢しい真似を! しかしあれだけでは、たいした事は、出来ないは……」
焦りを誤魔化しながら反撃しようとしたチチチの血族の女は、愕然とする。
「どうして? 何でコントロール出来ないの? 私の血の方が多い筈よ!」
叫び、必死に血のコントロールを取り戻そうとするチチチの血族の女に対して恵がゆっくり歩み寄る。
「理屈もろくに知ろうとせず、力の使い方だけを上手くなった貴女とその魔法の細部まで解析したあちきが同じ土俵に立っていると考えるほうがおかしいだよ」
「来るな、来るな、来るな!」
チチチの血族の女が振り回す血の魔法を使うために自分の体を切るナイフにかすりもしない恵の拳が腹を強打する。
一撃で意識を失ったチチチの血族の女。
「お見事な! さすがは、恵ちゃん」
紫影が拍手をしながら現れる。
「人避けは、感謝しておく。それじゃあこいつは、預けるよ」
あっさりそう言って去ろうとする恵に紫影が慌てる。
「何もしなくても良いの?」
恵は、振り返りもせずに答える。
「もう終わった。さっきの一撃でそいつの子宮を破壊した、その血族にもう未来は、無いよ」
同じ女として複雑な顔をする紫影。
「命をとられなかっただけましって事かしら?」
恵の足が止まる。
「そいつに赤ちゃんを産む権利なんて無いよ」
辛辣な言葉を吐き捨てその場から居なくなる恵であった。
不思議そうな顔をしてチチチの血族の女を回収しようとした紫影は、コートの中を見てしまう。
「なるほどね、持ち運べるように胎児を何体も仕込んでた訳ね。切れるわけだわ」
こうして一つの事件は、終わった。
夜更けのオオオ家の庭で恵が月を見上げていた。
「月も違うあの世界にあちきは、色々と負の遺産を残しているんだよね」
「残したのは、悪い事だけじゃないだろう。まあ、俺は、残されるのが嫌だったからここに居るんだがな」
オオオの言葉に恵が苦笑する。
「あんただって他人事じゃないんだよ」
「解ってるよ。だけどな、それでも自分の人生、自分の生きたい様に生きるしか無いんだぜ」
自分の返しに恵が微笑むのを見てオオオも笑顔になるが、恵が一枚のリストを見せる。
「生きたい様に生きるには、お金が必要なの。あんた本気で節制を覚えないと闇長の組織に売るからね」
リストに書かれた無駄遣いの金額にオオオが冷や汗を滝の様に流す。
「えーと、その、頑張って稼ぎますんで立て替えておいて下さい」
土下座するオオオであった。
ここで言う赤魔法は、ここのオリジナル設定。
まあ、血統魔法、所謂特別の血筋の人間にしか使えない魔法を指しています。
チチチは、恵から逃げる為、異界に逃亡して際、時間のずれからかなり前の漂流して子孫が居ました。
問題の女性以外の血族は、呪いに恐れ、多くの者が自殺して残った最後の一人が彼女でした。
次回は、白魔法を題材にしようかと考えています。
ゆっくりお待ち下さい。




