白魔法編
3Mの第四十九弾、白魔法
「今回は、前回に引き続いて白魔法について教えて」
下校時の逢歌の質問に対して恵が小さく溜め息を吐いてから詩莉阿を指差す。
「ある意味、詩莉阿も白魔法使いだから」
「巫女の業を魔法と一緒にしないでください」
クレームを上げる詩莉阿を他所に逢歌が不思議そうな顔をする。
「どゆこと?」
「前の時に少し話したけど、黒魔法と白魔法の大きな違いは、その力の出所なの。まあ、詩莉阿の場合、巫女だから、神様の力も借りてるけど、その多くは、小さい頃からの修行の賜物な訳。黒魔法って言うのは、そういうのが無い。簡単に言えば、同じ車持っていても、白魔法使いは、溜めたお金で買って、黒魔法使いは、ローンにしてもらっているって感じかな」
「黒魔法使いが凄く情けなく感じるんだけど」
不満気に言う逢歌に対して恵があっさり頷く。
「だって本当に情けないんだもん。黒魔法使いって言うのは、自分の身の丈にあってない力を使う愚者なんだよ」
「何か恨みでもあるの?」
逢歌が聞くと恵が失笑する。
「恨みあるかって?」
「うんうん」
頷き促す逢歌に対して恵が怒鳴る。
「あるに決まってるでしょうが! 力が欲しいって、制御の利かない相手と契約して、自爆するだけならともかく、周りに迷惑かけまくりで、あちきも何度もその尻拭いさせられたんだから!」
「狐つきとかも多いです」
詩莉阿もうんざりした顔をする。
「なんか地雷踏んだ?」
逢歌の問い掛けに恵と詩莉阿が強く頷くのであった。
「白魔法ねー、実際問題、今時は、マイナーよね」
オオオに仕事の話をしに来た紫影の答えに逢歌が不思議がる。
「でも、情けないんでしょ?」
「情けなかろうがどうだろうが、お手軽に力が手に入るからね。こっちの業界じゃメジャーよ」
紫影の答えにクククが眉を顰める。
「力を手に入れるということの重さを知らぬ愚かな行為です」
ケケケも強く頷く。
「そうです。力とは、自分で鍛え上げてこそ意味があります」
そんな二人を他所に恵がオオオに来た依頼をチェックしていた。
「これとこれとこれを頑張ってね」
「おいおい、俺を過労死させるつもりか?」
オオオの突っ込みに対して恵が溜め息を吐きながら、ヨーロッパの本場のチーズに舌鼓を打っているデビンを見る。
「あれが居るんだからお金が幾らあっても足りないんだよ」
「いっその事、あっちから生活費を融通させたらどうだ」
半ば本気のオオオの案に恵が手を横に振る。
「あっちの貴金属を持ち込んで金にするって方法は、あるけどそれは、なし」
「アアアに遠慮しているのか?」
不満気なオオオに対して恵が睨む。
「あのね、生活費とかの為に大量に向うの物をこっちに運んだら、世界バランスにトラブルが起こりかねないの。第一、あっちのそういった物には、魔素が大量に含まれているからそれがそれでトラブルに起こり得るから駄目なんだよ」
舌打ちするオオオ。
「面倒な事を請け負っちまったな」
「何だったら帰る。お金は、あちきが稼ぐから」
恵の言葉にオオオが強情を張る。
「女に稼いでもらうなんて恥晒しなマネが出来るかよ!」
その様子に苦笑する紫影であった。
オオオの家を出たところで恵が言う。
「それで、あちきに仕事ってなに?」
「さっき話しにあった白魔法の話。白魔法の特訓を行って何人もの人間を廃人にしてる施設があるの」
紫影の説明に恵が不思議そうな顔をする。
「ってそれって珍しい事じゃないでしょ? 魔法の特訓なら発狂死するのが普通なんだから」
「嫌な普通ね」
紫影が苦々しい顔をするのに対して恵が断ずる。
「魔法の力を手に入れるってそういう事だよ。さっきの話みたいにお手軽に力を手に入れても結局は、更に酷い死が待ってるだけだよ」
「辛辣な意見ね。それじゃあ、どうして恵ちゃんは、魔法を使うの?」
恵が失笑する。
「あちきが私情で魔法を使った所見たことある」
「付き合う約束した人が海外に行った時にメテオをやろうとした時なかったっけ?」
紫影の突っ込みを黙殺して恵が告げる。
「あちきは、魔法で生きていこうとは、思わない。覚えたのは、その力が大魔王バーマを倒すためだったしね。それでも死んだ方がましって事は、何度もあった。代償無しに力を得る術なんて存在しないんだよ」
その言葉に籠められた重さに紫影が唾を飲み込む。
「話を戻すわね。とにかくそこの死亡率が異常なの。ちょっと調べて貰えるかしら?」
「依頼料は、高めにお願いね」
恵の渋々の様子に紫影が怪訝そうな顔をする。
「オオオのギャラだけでもかなりの大金の筈ですよ。何でそんなにお金が必要なんですか?」
恵が頬をかく。
「オオオが本当にこの世界に移り住むと言うなら色々と必要なのその準備金だよ」
笑みを浮かべる紫影。
「付き合うつもり?」
恵が遠くを見る。
「それは、ない。だってオオオは、あちきに対する贖罪を忘れる事が出来ない。一緒になっても幸せになる事は、出来ないから。多分、オオオは、贖罪の為にこの世界に残り、本当に愛する人を見つける。その為の準備だよ」
「面倒な生き方ね?」
嘆息する紫影に恵が微笑む。
「あちきが選んだ生き方だよ」
数日後、恵は、山奥にある屋敷に来ていた。
「おじゃまします」
「貴方が新しい修験者ですか?」
執事風の男の言葉に恵が笑顔で頷く。
「はい。よろしくお願いします」
苦笑する執事。
「随分と余裕がおありの様ですが、直ぐに後悔する事になります」
そういって執事は、奥に導く。
「このドアを開ければ最後、もう後戻りは、できませんが宜しいですか?」
「別にかまいません」
即答する恵に嘲りの表情を浮かべる執事。
「そうですか。若い芽が摘まれるのは、残念です」
開かれた扉の先から噴出す冷気。
その部屋の中では、複数の人間が震えていた。
「もう限界だ!」
逃げ出していく人間を気にせず恵は、小さな深呼吸と共に中に入る。
「まずは、服を脱げ」
指導者らしき男の言葉に恵は、逆らわず、全裸になる。
「少しは、覚悟があるみたいだが、最初の修行は、この部屋で一時間の瞑想だ」
指差された場所に静かに座る恵。
「新人が入ったそうですね」
ここの主催者の男が尋ねると執事が頷く。
「はい。まだ年若い少女です。可哀想ですが、もう体罰を受けて、心が壊れている事でしょう」
「そうですか。しかし、そんな若い少女がどうして?」
主催者がそう疑問を述べながら扉を開けて入る。
それに合わせて逃げ出す人間が複数居た。
「あの者達には、体罰の後、再びこの鍛錬を」
主催者の言葉に執事が頷く。
主催者は、修行の部屋を見回す。
そして、平然と瞑想を続ける恵を見つける。
「あの娘は、何時から?」
戸惑いの表情を浮かべる指導者。
「二時間を越えております」
「なるほど、そこの娘、辛くないのか?」
主催者の問い掛けに恵が平然と答える。
「魔法使いですよ、自分の周囲の環境ぐらい制御できますよ」
周囲の人間が驚きの表情を浮かべる中、主催者は、当然の様に頷く。
「基礎は、出来ているみたいですね。上級者の鍛錬に移ってもらいます」
そういって主催者は、自ら恵を案内する。
その部屋は、謎の彫刻と無意味とも思える紋様に囲まれた部屋だった。
「ここで、魔法を使って下さい。そうすれば更なる高みを得られます」
主催者の言葉に恵が手を叩く。
「なるほどね、だいだいこの施設の目的が解ったよ」
「目的?」
主催者の言葉に恵が頷く。
「魔法の素質が大きい者の心を砕く為の施設だよね」
「言っている意味が解りませんが?」
主催者が問い返すと恵が床に画かれた文様を指差す。
「床に天を示す紋様がある理由を聞いても良い?」
短い沈黙の後、主催者の目付きが鋭くなる。
「複数の紋様を重ね書きしてあると言うのに理解したのですか?」
「この部屋に画かれた紋様と力の象徴となる彫像は、全て力の流れに乱す配置にされている。そこで魔法を使えば、本来と異なる形で発現する。ただ、おかしな発現するだけじゃなく、その力を倍増するように巧妙に配置してある。きっと、制御に失敗したって誤解する様にした。制御さえ上手く行けばとやればやるほど、乱れ、魔法使いの技を心を壊すって感じかな?」
恵の推理に主催者が懐から拳銃を取り出す。
「組織のスパイですね? ばれてしまっては、逃がせません。ここで死んでもらいます?」
恵は、空中に印を画き始める。
「無駄ですよ。さっき自分で説明していたでは、ないですか。ここは、魔法を乱す場所。ここで下手に魔法を使えば己の命を失う事になりますよ」
恵は、答えず印を完成させるとその中心に手を当てた。
『蛇蝎なりし汝、我が敵にその身を刻め』
刻まれた印が、黒く光った次の瞬間、それは、幾つもの曲線を画いて主催者を捕らえた。
「追尾機能も狂う筈だ」
傷を押さえながら蹲る主催者に恵が肩を竦める。
「そんな術式は、組んでないよ。魔法としては、撃ち込んだら最後、一生抜けないってだけの真っ直ぐ進むだけの魔法だよ」
「嘘を言うな! 今目の前で湾曲したぞ!」
主催者の反論に恵が指を振る。
「真っ直ぐ進んだんだよ。曲げたのは、貴方が作ったこの部屋の魔法摂理の方だよ」
目を見開く主催者。
「まさか、千を越える紋様を全て読み説き、私に当たる様に魔法を撃ったというのか?」
恵は、答えずその場を後にするのであった。
「って訳で主催者の魔法使いへの恨みを晴らす為の施設だったよ」
組織の近くにある喫茶店での恵の説明に紫影が驚く。
「魔法育成施設の主催者がそんな事を企んでたなんて。しかし、なぜ魔法使いが同じ魔法使いを?」
「あの人は、魔法使いじゃないよ」
恵の答えに目を見開く紫影。
「嘘、魔法使いじゃないのに魔法使い育成施設を作れるわけが無いわ」
「魔法を、魔法を嫌悪し、相対し続けるうちに魔法を熟知する事になったんだよ」
恵は、遠い目をする。
「可愛さ余って憎さ百倍の逆ね。複雑ね」
紫影の言葉に頷く恵。
「所で、何時まで突っ込まないの」
紫影が離れた席で女性に挟まれ、にやけるオオオを指差す。
「突っ込む必要あるの? ああ、報酬は、よろしく」
淡々と言う恵の態度に紫影がオオオに同情した。
「オオオさん、ここに恵ちゃんが居るわよ」
「嘘だろ!」
慌てて駆け寄ってくるオオオ。
「これは、違うんだ! そうだ、仕事の為の情報収集の一環なんだ!」
必死に言い訳をするオオオに対して恵が笑顔で答える。
「はいはい。彼女達へ渡すお金だけちゃんとしてればあちきは、気にしないから安心して」
「絶対、信じてない! だから……」
オオオは、この後、土下座までするが恵の態度が変わる事は、無かった。




