一点。あなたの勝ち
左の城壁には昼。右の城壁には夜。どちらも内側へ三人の受験生を閉じ、外側の六人から出口を奪っている。
同じ危機を、同じ六人が、時間を置いて二度解く。
二つの入口の間には共通の刻砂が浮いていた。開始の合図で三十粒が一つずつ落ち、安全線を越えた足跡は白く残る。
最初はリナの答案だった。
*
リナは前腕帯へ答案板を固定する。
「三人が外へ出て、城壁が開いている」
指定する景色は二つを含む一場面。閉じ込められた三人の意思は動かさない。出口と開いた壁だけを先に重ねる。
「変えない。全員、いい?」
六人の返事を聞く。
解環をかざす。
答案の一行が光り、同じ形の光像が輪の内側へ移った。
周囲の音が消えた。
三十粒の刻砂が光る。
どくん。
昼の城壁へ大きな開口部が実体化し、外側の橋が現れる。半透明の三人は外にいるが、現在の三人はまだ内側だ。
「十二まで」とリナ。
ニコが開口へ向かう直線を選ぶ。
城壁の外皮だけを光刃で切る。曲がれない進路の外へ全員が退いたことを、自分で確認して走った。
二つ目。
マヤが落ちてきた壁片の衝撃を受け止める。保持したまま、最初から立っていた石皿ごと開口の脇へ滑る。
三つ目。
イオが内側へ入り、閉じた小部屋の内外を反転する。三人が開口へ進める空間ができる。
四つ目。
ハルが小さな城壁片を投げる。距離で扉ほどに育ち、外側の橋の欠けを埋める。
五つ目。
三人が自分の足で走る。
一人が転んだ。
未来の開口はすでに白く崩れ始めている。
「戻る」とマヤ。
「衝撃を持ってる!」
触れれば転んだ生徒へ渡してしまう。
リナは規定の白線を見る。能力者が越えれば、他者の撤回不能域へ入るため安全点を失う線だ。
刻砂は二十四粒。
「私が行く」
前腕では掴めない。右腕だけで生徒を引く。
白線を越える。
六つ目。
生徒の外套を右手で掴む。左手は添えたつもりで空を切った。
ニコの刃が終わった線を踏み、身体を引きずる。
七つ目。
マヤが衝撃を外側の壁片へ渡す。壁片が本物の開口を押し広げる。
八つ目。
イオが最後に内側から出る。
三人と六人、全員が外へ揃う。
九つ目。
現在の城壁が開き、未来環境と重なる。
刻砂は二十一粒を残して止まった。
リナは白線の外で座り込む。線の向こうには、右足一つぶんの白い足跡が残っていた。
*
夜の城壁が閉じる。
次はセシルの答案だった。
紙は光らない。解環をかざしても、一行は動かない。
セシルはそれを隠さず、答案を石台へ置く。
三十粒へ戻った刻砂が、また落ち始める。
「三人の返事、四人の発動前確認、私の帰路。誰か一人が中止を言ったら戻る」
「始める?」とリナ。
「まだ。夜壁の下に、眼蓋石が二つある」
杖で一つずつ近づく。急げば右脚がもつれる。左脚、杖、支持具の順で進み、二つを手で確かめる。
片方は空洞だった。
「偽物を除く」
刻砂は二十五粒。リナの時には、もう開口が現れていた数だ。
ニコが光刃の直線を選ぶ。セシルは線上から全員が出たのを一人ずつ見る。
「走っていい?」
今度は最後まで聞く。
「いい」
光刃が夜壁を切る。
マヤが壁片の衝撃を受ける。次に触れる空の石皿を、自分で選ぶ。
イオは内側へ入る前に問う。
「私を出すのは」
「マヤ。衝撃を渡した後」とセシル。
「マヤ?」
「やる」
イオが反転する。
ハルは橋の欠けへ石を投げる前に、三人の歩幅を見る。一人だけ脚を傷めている。
「終点を半歩手前へ変える。投げていい?」
返事を待つ。
石は短い橋になる。
三人が外へ向かう。
今度は誰も転ばない。
だが最後の一人が出た時、イオが内側へ残っていた。
最短路なら、セシルは白線を越えて眼蓋石を差せる。
彼女は越えない。
「マヤ、衝撃は?」
「渡した」
「イオへ触れられる?」
「触れる」
マヤが戻り、イオの腕を掴む。
二人が外へ出るまで、セシルは杖をついて待つ。
夜壁が閉じ始めた。
刻砂は九粒。
「急いで!」とリナ。
「全員、出た?」
ニコ。ハル。三人の受験生。マヤ。イオ。
返事を一つずつ聞く。
最後に自分が遠回りの外路を歩く。
時間はかかった。
城壁は完全に開いた。
全員が安全線の外にいた。
刻砂は六粒を残して止まり、白線には足跡が一つもつかなかった。
*
裁定天秤へ四つの光が載る。
同情も恋愛も、皿には載らない。
刻砂は、リナに二十一、セシルに六を残している。白い越境痕はリナ側に一つだけある。
リナ。完遂二十五。安全二十二。再現二十一。時間と適応二十三。
九十一。
セシル。完遂二十五。安全二十四。再現二十三。時間と適応十八。
九十。
両方の皿に、合格の白光が灯った。
リナは勝ったのに、先にセシルを見る。
セシルは悔しそうに目を細め、それから笑った。
「一点。あなたの勝ち」
「譲ってないよね」
「次は時間を削る」
「お祝いより先に次の話?」
「負けたので」
双環裁定城の上で、内塔と遠庭の門が同時に開いた。




