自分の傷は、自分で読む
巨人の肩から、空中遺跡が星屑になって剥がれた。
床板ほどの石が無数に浮き、足を置かれた順に砕ける。六人は巨人の首から第二塔へ渡る途中で、前も後ろも失った。
下には谷がない。
夜だけが口を開けている。
「止まらないで!」
リナは次の石へ飛び移った。
着地で前腕帯がずれる。答案板を押さえようと左手を伸ばすが、指先は縁を外れた。
マヤが横から板を支える。
「触るよ」
「もう触ってる!」
「返事が遅い」
「助けてから聞くの、ずるい!」
言い合う間にも、背後の石が砕けた。
セシルは跳ばない。重力布の裾を次の石へ向け、杖と左脚で一歩ずつ滑る。右脚の支持具が石へ当たるたび、乾いた音がした。
「次、遠い」とハル。
「投げれば足場を作れる」とニコ。
「ここで投げたら、巨人の膝へ使う牙がない」とハルは自分で答え、袋を閉じた。
重力布へ四人が手を添える。ニコとイオが先に渡り、マヤがリナの答案板を支えた。最後にセシルが杖を滑らせる。
六人が一枚の浮石へ乗ると、進路の先で第二塔の根元がまた遠ざかった。
「ここからなら、十二で届く」とリナ。
答案板へ書く。
――六人が第二塔の根元に立ち、肩からそこまで浮石の道が続いている。
腰紐から外した解環を、紙の余白へかざす。一行が光り、同じ形の光像が輪の内側へ移った。
音が消える。
どくん。
第一の鼓動とともに、砕けた遺跡の上へ白い橋が重なった。
橋は足で踏める。現在の六人は浮石に残ったまま、その先に到着後の半透明な六人が立っている。
「発動した。橋を本物にする。変える時は言う」
「いい」と返事が重なる。
二つ目。
星火をまとった石柱が橋へ倒れた。
ニコの未来痕は左袖を焦がし、橋の中央へ立っている。ニコは自分の袖と、柱の落ちる線を見比べた。
「中央を走れば反射が来る。外側から切る」
返事を待ち、橋の縁を走る。巨大な光刃が石柱の根を裂き、倒れる向きを夜の側へ変えた。
三つ目。
切れた柱の先がマヤへ落ちる。
マヤは両腕で受けた。青白いひびが身体へ沈み、未来痕の足元にある砕けた輪と同じ形が現在の橋にも広がり始める。
「待つと橋を壊す。右の浮石へ渡す」
「誰もいない」とイオ。
マヤが浮石へ触れる。衝撃を受けた石だけが夜へ飛び、橋のひびは止まった。
四つ目。
前方で塔の入口が閉じ始めた。
イオの未来痕は扉の内側にいる。外には誰も手を添えていない。
「私は入る。ニコ、外の継ぎ目を残して」
「残す」
イオが入口へ滑り込み、閉じた小部屋の内外を反転した。塔の内側にあった床が外へ開き、白い橋の終点へ重なる。
五つ目。
橋の欠けが、ハルの一歩前へ走る。
未来痕の掌には白い裂傷があった。ハルは牙を握りかけ、袋へ戻す。代わりに足元の小石を拾った。
「長く握らない。終点は塔の縁。投げていい?」
全員の返事を聞いて、すぐ手放す。
小石は欠けを越える間だけ扉ほどに育ち、塔の縁へ食い込んだ。
六つ目。
リナの未来痕は、光る前腕を胸へ支えたまま塔を見ている。その足元では、白い橋の後端がほどけていた。
到着だけを見て、帰る道を見ていない。
「橋の後ろを残す。主要状態は変えない。全員、いい?」
一人ずつ返る声を聞く。最後にセシルが「いい」と答えた。
セシルは崩れかけた後端へ重力布の裾を向けた。現在の浮石が橋の下へ滑り込み、本物の支えになる。
「自分の傷は、自分で読む」
リナは自分の未来痕へ言った。
七つ目。
六人が第二塔の根元へ着く。
白い橋の下には、浮石の列が本物の道として残っている。答案に書いた景色が成立し、未来環境と六人の未来痕が静かに消えた。
*
第二塔の窓へ、学院の白い鳥が降りた。
嘴に命令葉を挟んでいる。
六人では撤回不能点が多すぎる。最終試行は一名を外し、五人で行え。
誰を外すかは書かれていない。
書かなくても、一番先にセシルへ視線が集まった。
魔法を持たない者。
走れず、跳べず、高所へ先に着かなければならない者。
セシルは命令葉を折らなかった。
「五人案も調べる」
「受けるの?」とリナ。
「比べずに捨てれば、学院と同じになる」
巨人の肩が動いた。
第二塔がゆっくり横倒しになる。




