止められないところを、先に言って
石巨人が立ち上がり、肩と背に刺さった三本の塔が空へ持ち上がった。
窓からこぼれた星屑が谷底へ落ち、途中で夜に変わる。巨人が首を巡らせただけで風が壁になり、六人の外套を地面へ押しつけた。
まだ一歩も歩いていない。
それだけで、未決宮の最深部は崩れ始めている。
「起き切るまで、どれくらい」とリナ。
セシルは右脚を折らず、杖へ両手を重ねた。膝をつけば、すぐには立てない。
「三度目に目を開けた時」
「いま二回目?」
「一回目」
「少し安心した」
「一回目が長いとは言っていない」
「安心、返して」
巨人の片目が半分開いた。
黄金の光が谷を横切り、塔の窓枠が一つ外れた。大きな石輪が六人へ落ちてくる。
ニコが駆け出しかける。
「まだ走るな!」
本人が先に自分を止めた。爪先は地面を擦っただけで、光刃にはならない。
「ここから走ったら、輪を切ったあとも正面へ抜ける。後ろを空けて」
五人が線上から退く。
石輪はニコへ届く前に、マヤの両腕へ落ちた。
青白いひびが肩から足首まで走り、足元の石が細かく跳ねる。
「受けた。誰にも触らないで」
「右の石冠へ」とイオ。
「そこに私が入る」
イオはもう、倒れた石冠の穴へ腰まで潜っていた。風を避けられるが、巨人が傾けば穴は閉じる。
「じゃあ左」とマヤ。
空いた岩壁へ掌をつく。抱えていた衝撃が移り、岩壁だけが谷へ砕け落ちた。
ハルは守護獣の牙を握り、崩れた場所と第二塔の根元を見比べる。
「投げれば届く。でも、塔が動いたら終点を変えられない」
「持っていて」とリナ。
「命令?」
「お願い。投げる場所を一緒に決めたい」
ハルは牙を袋へ戻した。
石冠の穴が狭まる。
「イオ、出て!」とリナ。
「外から縁を上げて。中では開けられない」
ニコとマヤが左右から石冠を押さえ、イオが這い出す。最後に靴が抜けたところで、穴はぴたりと閉じた。
「話は短くする」とニコ。
「あなたが言うと、本当に短そう」とマヤ。
六人は風を避けながら、倒れた石冠の裏を肩伝いに移る。顔を寄せた円ではない。次に立つ場所を自分の足で選びながら、声を渡す。
セシルは一人だけ、巨人の胸へ続く斜面を見ていた。
「私は高い場所へ先に行く。走れないし、跳べない。皆の魔法が始まってからでは間に合わない」
「一人で?」とリナ。
「重力布を使う。上で帰路を作る人は必要でしょう」
リナは答えず、前腕帯の答案板へ一行を書く。
――巨人が跪き、一本の塔が谷を渡る橋になっている。
まだ解環には触れない。
「止められないところを、先に言って」
リナは五人を見た。
「順番じゃなくて、いま立てる場所を決めたい」
ニコは走り抜けられる外側へ。マヤは誰にも触れず塔脚へ届く位置へ。イオは胸郭の入口が見える石冠へ。ハルは膝と谷の両方を測れる高みへ移った。
セシルは重力布を腰と右脚へ回す。
「リナは」とマヤ。
「ここにいる。未来を変えるなら言う。握り損ねたら、それも言う」
「話、長い」とニコ。
二回目の瞼が開いた。
黄金の光の下で、本物の巨人の膝鎧に白い筋が走る。胸郭の裂け目が狭まり、背の塔が谷側へ傾いた。
未来ではない。
いま動き始めた巨人が、自分の弱い場所を三つ見せた。
次に目が開けば、最初の一歩が来る。




