分かると思った
二つの成功が、空で入れ替わっていた。
左の門が開く未来では、巨鳥の白い胸郭に細い橋が架かる。右の門が開く未来では、橋はない代わりに胸骨の中央へ大きな穴が開いている。
どちらも門面へ映った非実体の候補だった。リナの未来痕とは違う灰紫色で、発動時の消音も鼓動もない。橋へ手を伸ばしても指は抜け、輪郭から冷たい光の粉が上へこぼれる。
巨鳥の胸郭自体が脈打つたび、左と右が交互に濃くなる。リナの十二の鼓動を数える音ではない。
「一つしか選べない」とリナ。
「まだ発動していないのに、宮が候補を見せてる」とイオ。
「親切?」とハル。
「未決宮に親切を期待しないで」とセシル。
胸郭は谷の上に浮いている。肋骨の隙間から、底のない雲が見えた。
左の未来なら、ハルが小さな牙を投げ、距離で橋へ育てられる。右の未来なら、ニコが直線の光刃で胸骨を割れる。
「左」とリナ。
「理由は?」とセシル。
「全員が同じ橋を渡れる」
「ニコの刃を胸郭の中で出さずに済む」
「同じ理由を長く言わないで」
「あなたが短すぎるから」
リナは答案へ書く。
――巨鳥の左肋から中央胸骨へ、渡れる橋がある。
解環をかざす。一行の光像が輪へ移る。
周囲の音が消えた。
どくん。
灰紫色の二候補が消え、触れられる白い左橋だけが現在に重なった。半透明の六人は、橋の上で互いに違う場所を見ている。
未来痕のセシルは、橋の入口ではなく右側の胸骨へ手を当てていた。
「右を見てる」とリナ。
「傷がある」
現在の右胸骨にも細い黒線が走っている。未来では大きな開口になる場所だ。
「左を選んだのに、右の傷が残ってる」
「宮は二つの未来を完全に分けていない」とイオ。
二つ目。
ハルが守護獣の小牙を持つ。
「左橋の終点、中央胸骨の白点。投げていい?」
「待って」とセシル。
未来痕のハルの足元に、右の開口から落ちた骨片がある。
「橋を作る前に、右の骨片が必要かもしれない」
「右は選んでない」とリナ。
「でも傷はある」
三つ目。
胸郭が大きく羽ばたいた。
足場が傾く。ハルの小牙が掌から浮きかける。
「投げる?」とハル。
リナは右胸骨の黒線を見る。
右の未来へ変えれば、橋は消える。けれど中央の穴から中へ入れ、骨片を取れる。
「右へ――」
言いかけた時、セシルが左橋へ踏み出した。
「待って!」
セシルは一歩で止まる。
「行けると思った」
「まだ変えるかもしれない」
「『右へ』の後は?」
「考えてた」
「先に言って」
「そっちこそ先に動かないで」
四つ目。
橋の白い縁にひびが入る。
「喧嘩は降りてから」とマヤ。
ハルは牙を握ったまま二人を見る。
「左でいい? 右へ変える?」
リナは唇を噛んだ。
「左のまま」
「返事、全員」とイオ。
今度は一人ずつ答える。
五つ目。
ハルが牙を投げる。小さな牙は飛距離に応じて長く太くなり、未来の白い橋へ重なった。本物の牙橋が左肋から中央胸骨へ架かる。
未来環境が消える。
六人は本物の橋を渡った。
*
胸郭の中央で、リナとセシルはまだ互いを見ていなかった。
「右へ変えるなら言う」とリナ。
「最後まで待つ」とセシル。
「さっき待たなかった」
「あなたが左のままだと思った」
「分かると思った」
「私もよ」
同じ言葉が、同じ意味ではなかった。
ハルが二人の間へ小牙の袋を差し出す。
「次から、思う前に聞く?」
「そうする」とセシル。
「うん」とリナ。
返事は揃った。
巨鳥の胸郭が、二つの門ごと閉じ始めた。




