三日目 1
三日目。ぐっすり寝ていると、木こりに叩き起こされた。
午前5時。まだ空が暗いこの時間に叩き起こされた事に不満を抱きつつも、木こりの必死さに私は不穏さを感じ取り、身支度をした。
「旅人も来たか」
狩人は友好的な口調でそう言ったものの、その視線は昨日よりもずっと鋭い。
「ああ……、もうこの村、終わりよ……!」
村娘が泣き崩れ、それを木こりが慰めた。だが、その表情はどこか呆然としていて、まるでこの状況が現実であると信じたくないようだった。
パン屋も暗い表情をしている。ずっとひっきりなしに、神父さんが、神父さんが、とつぶやいている。
その理由を、私は説明されずとも分かった。
「神父さんが……」
神父が、亡くなった。森の中で、獣にその身を切り裂かれて。
右肩から左脇腹まで大きく爪痕が痛々しく残るその惨状に、誰もが目を覆いたくなった。
「これは……一体……」
少し震えた私の声に、狩人は冷たい口調で告げた。
「人狼が現れた」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二十年前の人狼騒動。
その時に支払った犠牲は少なくなく、それがきっかけでこの村を出て行った者も多かったと聞く。
「この中の誰かが、人狼だ」
「この中の、誰か……」
狩人は私をじっと睨みつけるが、意外にも私に対して人狼だ、と騒ぎ立てる事はなかった。
「人狼は、この村からしか生まれないからな。だから旅人は人狼ではないだろう」
「そうですね。私はこの村の出身者ではありません」
とは言っても、どこ出身なのか私自身も知らないのですが、と続けるが、誰も特に反応しなかった。
「人狼は誰だ?俺の銀の斧で成敗してやる!」
狩人は私たちを鋭く睨みつけた。
「で、でも僕たちの中にもし人狼がいるんだったら、僕たちはもう全滅していてもおかしくはないんじゃ……」
「ああ、それも考えたんだ。だが、村長と神父さんが死んだ。二人とも、人狼にとっては脅威だった」
「もしかして、最初の事件は狂人の仕業なんでしょうか」
村娘がふと、そんな事を口走る。
「それは、考えられますね。一度、狂人探しをした方がいいかもしれません」
人狼を探すよりも、狂人を探した方が魔法陣という目印もある事だし、見つけやすいと思っての事だ。
「それならぜひ、わたしの部屋は旅人さんが調べてください。どうせ調べられるなら、同性の方がいいんですもの」
「なら、私が村娘さんの家を調べます。他の方はどうしますか?」
私の言葉に、狩人は少し考えてからパン屋宅を調べる事にした。
パン屋は村長宅を、木こりは狩人宅を調べ、村娘は教会を調べる事になった。
私は、一通り村娘宅を調べてみたが、特に変わったところはない。
空振りかな?と一度思ったが、何か違和感が拭えない。
家中を歩き回って、壁やら天井やらを調べまわったが、その違和感が分からない。
もういっその事、無視してみようかと思ったが、その時私を訪ねてきた人物によって、それが早計だったと考え直した。
「これを使ってください」
「これは……」
私は、その人物に差し出されたどこかへつながる鍵をもらった。
その人物は、それ以上は何も告げずにその場を去ってしまった。
その出来事は午前8時の事だった。
私はその鍵の使い道に悩みながらも、思い通りに行きそうなこの状況に思わず笑みを浮かべてしまう。おっと、表情管理はきちんとしなくては。
にしてもこの鍵……一体どこに使うんだ?
そう思いつつ、探していると……ふと、頭の中に考えがおりてきた。
恐らくここなら、前に村娘宅を調べた時に、木こりとパン屋はこの鍵の使い道を探し当てられなかったに違いない。
そう思いつつ、私はその考えが当たっていた事に脳内で歓喜した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
午前9時。ひとまず村娘宅の調査を中止して休憩を取ろう。
ずっと頭を使っていても、疲れるだけだ。
ひとまず、斜向かい側のパン屋宅を調べる狩人の様子を見に行った。
すると、狩人は外から帰ってきた様子だった。
「ん?ああ、アンタか……」
「狩人さん、どこかに行っていたのですか?」
私は狩人に少し驚きながらもそう聞いた。
「ああ、のど乾いたんでな、さっきまで井戸にいたんだが、そこに村娘と木こりがいたんだ」
「ああ、そうなんですね」
私は特に何とも思わなかったが、狩人は何やら疲れているようだった。
「どうしたんですか?」
「いや……昨日からあまり寝てなくてな。そんな中であの二人を見ると、なぜかまぶしすぎるんだ」
「ああ……」
なんだかわかる気がする。確か二人は恋人同士だったか。
ふと気が付いたが、昨日の行動を聞いてなかった気がする。
「そういえば、狩人さんは昨日何をしていたんですか?」
「俺を疑っているのか?」
「いえ、そんな事は!ただ、そういえば昨日の行動を聞かずに調査に行ってしまったな、と」
ギロっと狩人は私を睨んできた。私は慌てて両手を左右に振る。
狩人はひとまずその言葉に納得したようだ。
「ああ、そう言えばそうだな。俺は、ずっと家にいた。アンタは?」
「私も同じです。あまり外に出る気分でもなくて……」
「そうか」
狩人は納得したようにうなずく。
「どうせアンタも暇だろ。昨日の行動を聞いて回ったらどうだ?」
「……急にどうしたんですか?私をあんなに疑っていたのに」
「アンタが人狼である可能性はないからな。ただ、完全に信じた訳でもないからな」
「分かっていますよ」
わざわざ釘を刺す狩人に私はそう返してから、村長宅を調べるパン屋の元へ向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
午前9時半。村長宅に訪れてもパン屋の姿が見えなかったため、地下室へ向かうと案の定いた。
「!旅人さんじゃないですか!一体どうしたんですか?」
「いえ、そういえば昨日の行動を聞いていないな、と思いまして。狩人さんからも、聞いてくるように言われたので、聞きに来ました」
「ああ、そうなんですね。僕は昨日、一回だけ外に出たんです。ええっと……午前1時くらいじゃないでしょうか。なんだか、音がしたので」
パン屋は、笑顔で快く教えてくれた。私もパン屋から聞かれたため、狩人に答えた時と同じく答える。
「それにしても、音ですか」
「ええ。今思うと、あれは人狼だったのかもしれませんね。獣が駆ける音だったんです。あの時は音がするたびに怖くて……」
「あんな事があったんですから、仕方ありませんよ」
随分と危険な真似をしたらしい。よく襲われなかったものだ。
「あとそれと、家のすぐ外でガサゴソと聞こえて……。それも怖くてほとんど眠れなくて。旅人さんはどうでしたか?」
「私はそんな事がなくて……アハハ……」
まさか、ぐっすり眠れました、とは言えないが、私の反応から、なんとなく察したらしい。
さすがですね……とつぶやかれてしまった。
「そうだ、一つ気が付いた事があるんです」
「気が付いた事、ですか?」
「ええ、これがあったんですけど」
そう言って、パン屋は私を地下室の隅へと連れて行った。
「これです」
パン屋は左手に持ったろうそくでそこを明るく照らしていた。
見るとそこには、何かが焦げた跡があった。
「何かが焦げた跡ですね」
「そうなんです。多分、人狼についての資料じゃないかと思うんです」
「それはまだわかりませんが……。今日でない事は確実ですね」
私はそう呟きながら、炭を手で触った。それはすっかりと冷めていた上に、しっとりと湿っていた。
これは、朝の時点ではもう既にあったという、十分な証拠になりうる。
「ここでものなんて、普通燃やさないじゃないですか。だから、昨日のうちに燃やされたんじゃないかって思いまして」
「私は、その事について詳しくないので、あまり言えませんが、そうなんですか?」
「はい」
パン屋は、確信を持っている。どうやら、昨日のうちに燃やされた可能性がかなり高いらしい。
「僕はこのまま調査し続けますが、旅人さんはどうしますか?」
「まだ、昨日の行動について聞いてない人たちに聞いた後、もう一度村娘さんの家を調べますよ。もしかしたら、新しいものが見つかるかもしれませんし」
そう言って、私は地下室から立ち去った。
星、評価、感想お願いします!




