ニ日目
「村長は、正面から刃物で殺されている、というのが私の考えです」
「刃物で」
神父の言葉に、誰かが反応した。
「それと、衣服が乱れており、さらに痣まで……。村長は犯人と喧嘩したのかもしれません」
神父の言葉に、誰もが困惑の表情を浮かべる。
村長は優しい人物だったそうだ。だから、殴り合いの喧嘩をする人物に心当たりがないとの事。
「衣服が乱れていたというのは……どのくらいですか?」
もしかしたら、それは事件と関係ないのかもしれないのだ。それだけは聞いた方がいい。
「蓑が大きく破れていました」
なら、木こりとの喧嘩は関係ないかもしれない。神父は、私たちの言った事を覚えていたようで、木こりとは別に村長と喧嘩した人がいる、という事を言い加えていた。
「わたしは橋のあたりを見てみたけれど、誰かが入ってきたり、出ていったような感じはなかったです」
「僕は広場を調べました。けれど、何もわかりませんでした……」
パン屋は落ち込んだように言う。木こりはそんなパン屋に質問を投げかけていた。
「ナイフは?親父を刺したナイフは分からなかったのか?」
「少なくとも、広場にはなかったかな。茂みの中とか、木の上とか色々と調べたんだけど……」
「ナイフと言えばこれが……」
私は、教会で手に入れたナイフを差し出す。それを狩人は右手で受け取ったが、少しだけ見てすぐに私に押し付けた。
私はあわてて左手で受け取る。
「そのナイフじゃ、人を殺せねぇよ」
狩人は、小さな子供を諭すように言い放った。
「何でそう言い切れるのですか?」
まあ、わかっていた事だが、まったく見向きもされないのはあまり面白くない。
「それ、俺が……大体3年前くらいか?刃を取ったんだよ。だからそれで人を殺す事ができねぇっつうのは俺が一番知ってる。――いや、一番知ってるのは神父さんか?まあ、神父さんは村長を殺す事なんてできねぇよ」
剣呑な視線を向ける狩人の言葉を、私は頭に刻む。
そんな事を知ってか知らずか、村人たちは会議を続けた。
「足跡とかは?」
「それも全部雨で消えてなくなってるよ。ただ、何か変な跡は見つけたけれど」
「跡?」
パン屋の発言に、木こりは聞き返す。しかしパン屋もその跡が一体何なのか、わからないようで困ったようにうなずいていた。
実際にパン屋の先導の元ついていくと、確かに細い何かの跡があった。
しかしこの村でこんな跡を残すものを見た事がない……。
「これあれじゃねぇか?ほら」
「――もしかして、狩人さんのハンドカート?」
「そうだよ、それだよきっと!」
狩人と神父の言葉に、パン屋の表情は輝く。
狩人はハンドカートを自分の家にとりに帰った。
すぐに狩人はハンドカートを広場に持ってきた。そして、ハンドカートにかけられている布を勢いよく引っぺがす。すると、ハンドカートの台車部分には血がついていた。
「血……!」
「でもこれ、獣の血ではないのですか?」
神父が私の言葉に反応するが、狩人はやや顔を青ざめさせながら、その可能性を否定する。
「俺はいつも、ハンドカートを倉庫に仕舞う前には必ず洗っているんだ。だからこの血は、獣の血なんかじゃねぇ」
狩人は、茫然としたように言う。
「つまりこれは……」
木こりの言葉に、誰もが黙った。その続きを言わなくとも、察する事は簡単だったからだ。
私は、狩人のハンドカートの存在は知らなかった。昨日ハンドカートを使ったと言っていたが、それは早朝の話。そして今日は狩りをしない予定だったために、私がハンドカートの存在を知る機会は限りなく低くなる。
だからこそ、犯人が遺体をハンドカートで運んだとなると、私は少し犯人として考えづらくなるのだ。
「そのあとで言いだしづらいんだが、オレは親父と神父さんの手紙を見つけました。でもこれは最近でも一か月前のものなんだ……」
「私は村長とよく手紙でやり取りはしていましたからね」
「ちなみに神父さんは、この中に人狼がいるとすれば、誰だと思います?」
「さあ、よくわかりません。でも必ず神の御目は真実を見通しています」
そう言って、木こりの問いをはぐらかした。
そして、私はこの事件の犯人が誰か、なんとなくわかってしまった。
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その後も調査を行った。
私は木こりに村長宅の地下室を案内してもらった。
ただし、あまりにも書物の量が多すぎるため、誰か助けを呼んだところ、村娘が手を挙げてくれた。
神父は、今まで出てきた情報をまとめてくれるらしい。
この村で文字をかけるのは、死んだ村長と神父、それから少しではあるが木こりも文字を書けるらしい。
私も文字を書けると言ったところ、感心されてしまった。
狩人は倉庫を調べてみるらしい。
ハンドカートが恐らく村長殺害に使われたのだ。調べてみるべきでは、と言ったところ素直にうなずいていたのには少し驚いた。
パン屋は村娘宅に調べに行こうとしたが、村娘は嫌がった。それの妥協案として、木こりも一緒に村娘宅を調べる事になった。
村娘は少し嫌そうな表情をしていたが、最終的には折れた。
村長宅の地下室を調べていると、床に魔法陣らしきものが描かれていたり、興味深い資料がたくさんあったりした。
その中でも、最も興味深かった記述がこれだ。
「てるてるについて……」
私はその内容をよく見ようと、右手を本に近づかせる。
「てるてるですか?」
「はい、こんなものが……」
村娘は私の声に、一度自分の手を止めてこちらによって来る。
そして、ともにてるてるについてが書かれた書物を覗き見た。
てるてるとは、狂った神の加護を受ける存在らしい。処刑された場合、てるてるの処刑に賛同した全員の首が飛び、てるてるは生還する。この村にはいた事がなかったらしいが、恐ろしい存在だ。
狂った神への信仰心さえあれば、誰でも加護を授かりてるてるになる事ができる、と書かれている。
「これは……怖いですね。でも、まさかこんなところにてるてるなんて」
村娘はそう言って笑った。
どうやら、あまりこの本の内容を信じていないようだ。
私はひとまずその本から離れ、他にいい情報がないか探す。
「順調ですか?」
地下室で探し物をしていると、地下室の入り口にパン屋がいた。
穏やかな笑みを浮かべる好青年だが、彼は村娘宅を調べていた筈だ。
なぜここに?と思っていたのが分かったのだろう。彼は私から妙に視線を外しながら答えた。
「一通り調べ終わったからですよ。どうでしたか?何か見つかりました?」
「そうですね。人狼についての事しか見つかりません」
私が答えてようやくこちらを見たが、すぐに視線が外される。その視線の先に村娘がいる事を、私は知っている。
「パン屋さん、今はわたしの家を調べているんじゃないの?」
やや責める口調をする村娘に、パン屋は肩をすくませた。
「すぐに戻る予定ですよ。さっきは狩人さんのところに行ってきたんだ。次は神父さんのところに行くつもりです」
慌てたように言って、すぐにこちらに背を向けたパン屋。
一体何がしたかったのだろう……と不審に思いつつも、私は探し物の続きをした。
すると、手書きで占い結果らしきものをまとめたメモが出てきた。
もしこれが本当なら、村長は占い師だったらしい。
私はその内容を読み、驚く。
そこには村人全員の名前と、横に恐らく占い結果なのだろう、村人と書かれている。
その下には、この村には、人狼はいなかった。だが、怪しい動きをしている者がいる。詳しく調べてみよう。とも書かれていた。
そう言えば、と昨夜の事を思い出す。村長と木こりは村娘の事で喧嘩をしていた。
もしかしたら、この怪しい人物とは、村娘の事ではないのだろうか。
だから木こりも、パン屋の行動を咎めなかったのだろうか。
「ん?」
何か挟まっている。これは……20年前の人狼事件について?
そこに書かれているのは、人狼が出没したが、それを何とか村総出で撃退した事、その時に亡くなった人物と行方不明になった少女のについてが書かれている。
「ああ、これですか。この時、わたしの両親は亡くなったそうです。幼すぎて、何も覚えていませんが」
「そうですか。それは――」
何を言っていいかわからず、つい口ごもってしまった。それを村娘は見て、くすっと笑った。
「まったく気にしていませんよ。ただ、両親は一体どんな人たちだったんだろう、とたまに考えたりはしますが」
若干の気まずさを払うように村娘は笑った。その姿に、私は強いな、と思ってしまったのは秘密だ。
そして手元の資料に目を落とす。
その視線の先には、行方不明の少女の特徴が書かれており、黒髪、青目で左利き、右腕に赤いほくろが二つ並んでいる。
ふうん、と思いながら、私はその資料を閉じた。
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そこで午後6時の鐘の音がなった。
日没の時間だ。
今日の調査はここまでだろう。
一旦全員で集合した。謎に木こりが疲れていたような気がしたが、どうしたのだろうか。パン屋の頬もなんか赤いような……。
「何か進展はあったか?」
木こりが皆に訪ねる。私はひとまずてるてるの事について話す。
木こりはその内容自体は知っていたらしいが、他の村人はあまり知らなかったようだ。
その内容に一番顔をしかめていたのは狩人だった。
「それは厄介だな。下手に処刑ができねぇ」
殺人を犯した者は処刑。それは、この国の法で決まっている。
だがもし、てるてるが殺人犯だったとしたら?
現状、てるてるかどうかを判別する術はない。
神父も同様に知らなそうな事から、ここを脱出して教会を頼ったとしても、意味がないかもしれない。
村娘は狂人についての情報を共有した。
どうやら狂人は、よく占い師を騙る事が多いらしい。だから、偽物の魔法陣は、狂人の証になるらしい。
その事に、木こりの表情は強張ったが、すぐに思い直したように顔を元に戻す。
「ねえ、木こりさん、パン屋さん。折角わたしの家を調べたんだし、成果を聞かせなさいよ」
村娘が少し怒ったように言うが、二人は気まずそうに顔を見合わせた後、何も見つからなかったと言い、膝を地面につけて謝っていた。
ただ単に、この事件をきっかけに若い女性の家に入りたかっただけかもしれない。だが、絶対零度の村娘の視線にさらされている二人を見て、さすがに少しだけ可哀そうに思ったのは内緒だ。
そのまま、今日はお開きになった。
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夜8時。夕食を食べ終えた。明日もまた、事件の調査のため、動き回る必要がありそうだ。だから、早めに寝るとしよう。
そう考え、私は夢の世界へと旅立った。
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