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最後に勝ったのは  作者: 七海飛鳥


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1/6

一日目~二日目

その村には、ある日突然人狼が生まれる。


そんな恐ろしい言い伝えがあるその村に、偶然通りかかったのは幸か不幸か。


なにもない、言い伝えさえなければ何の変哲もない田舎村。

私が今夜、その村に滞在する事になったのは、突然の大雨によって橋が流されてしまったからだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「大変でしたねぇ」

腰の曲がっている老人が、私をいたわるように優しく声をかける。


彼はこの村の村長だ。一人息子と一緒に暮らしている。私を快く泊めてくれた、いい人でもある。


「そうですね。でも村長さんのおかげで助かりました」

「いえいえ。困ったときはお互い様、ですから」

そう疲れを労わるように言って、村長は穏やかな笑みを浮かべた。


「こんな遅くまで、老人の長話に付き合わせてしまってすまないねぇ。儂はここらでお暇するとするかのぅ」

「村長さんの話はとても面白かったですよ。また聞かせてください。では、おやすみなさい」

私の言葉に、村長は小さく笑顔で頷くと、この部屋から出た。


教会から聞こえる鐘の音が、8時を知らせた。


長い黒髪をひもで縛った私は、村長から聞いた話をメモしたものを、手帳に整理した。




8時半の鐘が鳴った。


ずっと集中していたが、ふとそれが切れ、窓の外に視線が向かう。

激しい雨音の中、足音がかすかに聞こえた気がしたからだ。

ふと窓の外を見ると、そこには暗い茶髪でヘーゼルの瞳の好青年――パン屋がいた。


こんな雨の中、一体どこに行くのだろうか?


そんな疑問が頭を横切ったが、それよりも手帳の情報を整理したい。

私は左手にペンを持ち、再び作業に戻った。



作業が終わり、持ってきた本を手に取る。

最近はやっている恋愛小説だ。夜を過ごすのに、こんな娯楽がなければ、退屈してしまう。


そう思いつつ本を読んでいたところだった。

ガタン!という音とともに人間の怒鳴り声が階下から聞こえる。

それと同時に、10時を指す鐘の音が聞こえた。

気になって下に降りてみると、村長と村長の一人息子の木こりがつかみあいながら言い争っているのが見えた。



「どうしたんですか!?喧嘩はやめてください!」

「親父!いい加減にしろよ!」

「お前こそいい加減にせえ!あの娘は駄目だと何度言ったらわかる!」

「あの子はいい子じゃないか!何がそんなに気に入らないんだ、親父!」

大声で叫び、椅子をなぎ倒しながら喧嘩をやめない。

これは、直接割って入るしかなさそうだ。


「ちょっと、やめてください!二人とも怪我しますよ!」

「……チッ、命拾いしたな、親父」

「客人よ、こんなところを見せてしもうてすまないなぁ」

私の存在に気づいたからか、二人とも冷静になってくれた。


木こりは村長に憎まれ口を叩いていたが、村長はこちらに人好きのする笑みを浮かべて詫びた。


「いえ……」

「儂はこれからやる事がありますから。では」

やや早口でそう言い終わると、村長は家の奥に引っ込んでしまった。

老人なので、若い木こりとの喧嘩で怪我を負っていないかと心配したが、どうやら杞憂だったらしい。


「はあ、まったく」

木こりは、いらいらしながらもコップを二つ取り出し、エールを注ぐ。木こりは右手で私にコップを差し出した。


「ちょっと愚痴に付き合ってください」

木こりはそう疲れたように言って、倒れた椅子を起こす。

私はその椅子に座って、了承の意を示した。

木こりは、それを見て私の反対側に座った。



それから1時間半。随分と木こりと話し込んでいたら、村長がマントを羽織っていた。


「こんな雨の中、外に出るのですか?」

「ああ……少しな。もう夜も遅いですから、客人は気にせず眠ってくだされ。お前もじゃ」

村長は先程の喧嘩の面影もないほど穏やかに告げ、足早に家を出て行ってしまった。

雨具を着ていったし、この村は小さい。心配するような事もないだろう。



私は、その後少し読書をして、眠りについた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



二日目。


なんだか外が騒がしい。

ふいに起こされた事をやや不満に思いつつ、私は窓を開けて広場を見る。

すると、広場の中心に人だかりができていた。


私は、気になってその人だかりの方へ向かった。


「どうして……」

「ああ、神よ……!」

「村長が、村長が……!」

「死んでいる……!?」

そこには、昨夜まで、元気だった村長が変わり果てた姿で見つかった。

村長は仰向けで倒れており、左側が特に赤く見えた。



驚きで一瞬固まってしまったものの、私は慌てて村長宅に戻り、木こりをたたき起こす。


かなり不満そうだったが、私の必死な表情に思うところがあったのだろう。家を出てすぐに見える人だかりの真ん中に、自分の父親の姿を認めた彼は、涙を流して嘆いた。


「親父!何で!何でこんな事に!」

悲痛な面持ちを浮かべながら、木こりは村長の遺体に駆け寄った。

誰もが、その姿に沈痛な表情を浮かべる。


私は、そんな中少し気後れしつつもこう言った。


「村長さんを殺したのは、この中の誰かです」

「……」

私の言葉に、誰もが黙り込む。

最初にその沈黙を破ったのは、木こりだった。


「何だよ。オレが!オレが親父を殺したって言いたいのかよ!」

「いえ、違います!でも、村長さんは明らかに誰かに殺されているじゃないですか!今、この村の外から誰も入り込めないし、中から外に出る事もできない。だから――」

「そういうアンタが犯人じゃないのか」

私の説明を遮るように言ったのは、黒髪でグレーの瞳を持つ偉丈夫――狩人だった。

私はその言葉に、肝が冷えた。


「いえ、私は違います!そもそも、なんで私が村長さんを殺さないといけないんですか!」

「よそ者のアンタが一番怪しいだろ」

「でも、私がやったという証拠は?ないでしょう!?」

声を裏返しながら、私は必死に否定するが、誰もそれを信じてはくれない。


「まあまあ狩人さん。もしこれで犯人が旅人さんじゃなかった場合、僕たちはこれから殺人犯と過ごす事になりますよ。きちんと調べましょうよ」

「チッ」

パン屋のおかげで、狩人はひとまずは引いてくれたようだ。私はパン屋に礼を言って、これからみんなでこの村を調査する事にした。



「俺はアンタの手荷物を調べる」

真っ先に、狩人にそう宣言された。繊細なものもあるため、人にいじってほしくはなかったが、ここで拒否したら自分が殺人犯にされてしまう。

それだけは嫌だ。


「僕は、みんなが昨日何していたか、聞きたい」

「そうだな」

パン屋の意見に、木こりは賛成した。


「オレは、8時に階段から降りてくる親父を見たぜ。それから9時は村娘に会いに行く途中で神父さんと出会って、10時に家に帰ったんだ。その時親父と喧嘩してな……それを旅人さんに仲裁された」

「そうですね、あってます」

「そのあとは、旅人さんと11時半まで話してて、そこで親父が外出たのを見た」

木こりの言葉に、私は昨夜の事を思い出しながら大きく頷く。


「わたしは9時に木こりさんに会いに行ったわ。それから10時に家に帰ったら、パン屋さんが家に来たの。30分くらいして帰ったわ。11時に一度寝たんだけど、物音がして起きたの。その時、12時の鐘の音が鳴ったわ」

「村娘の言っている事は正しいですね。実は僕、9時半に村娘と木こりがあっているところを見たんです。そのあと村娘の家に行って……。11時半、家にいたら外で足音が聞こえた気がしたんです。それから、村娘と同じく12時に物音を聞きました。ただ、12時半にも音を聞いていて……」

ダークブロンドに茶色の瞳を持つ美少女――村娘の言葉にパン屋が肯定する。パン屋の次に口を開いたのは狩人だった。


「俺は罠の確認に行った後、神父さんと話したな。そのあと、パン屋が家から出かけたのを見たな」

「私は、狩人さんと会話した後は一度も外に出ていないですね。ただ、村娘さんが聞いた物音はきっと、私が本棚を倒してしまった音だと思います……。すみません」

白髪に青い瞳の老人――神父が申し訳なさそうな表情で謝るが、誰も気にしていなかった。

その時、狩人の様子がおかしいように感じたが、気にせず私はこう提案した。


「それぞれ、調べたいところを調べましょうか。狩人さんは、私の手荷物を調べたいんですよね?あまり雑に扱わないでくださいよ」

「分かったよ。そういうアンタは何を調べる気だ?」

「私は教会を。他の皆さんは?」

狩人からの質問に私は簡潔に答え、他の人たちにも目を向ける。


「誰か、親父の遺体を調べてくれないか?オレ、どうしてもだめで……」

嗚咽交じりの声。木こりは涙を流し、父親の死を悲しむ。村娘が優しく寄り添い、神父が村長を調べると、声を上げた。


「わたしは……橋の方を見てくるわ。万が一があるもの」

村娘は、外から人が入ってきた可能性を潰してくれるらしい。


「オレは、家を調べる。もしかしたら、親父が何か残しているかもしれねぇしな」

「僕は、広場を調べてみます。何も見つからないかもしれないですが……」

パン屋は自信がなさそうだがそれもその筈、雨は早朝まで降っていた。きっと、証拠があったとしても洗い流されているだろう。


殺人犯は速やかに処刑されなければならない。

私たちは、12時までそれぞれ調べる事にした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



教会は、日々神父が掃除しているからか、埃一つ、砂一つ落ちていない。それが、彼の信心深さを象徴しているようで、妙に気持ち悪かった。


祭壇の上には腕の半分ほどの大きさの神像があり、それが妙に生々しかった。

どこか見覚えがあり、気になって目に入ってしまうため、一応持ち歩く事にした。


私はまずは礼拝堂を隅から隅まで調べてみた。

すると、タンスの中にナイフを見つけた。装飾はシンプルだが、銀でできている。恐らくこれは教会の儀式に使われるナイフだろう。


そのナイフの刃は丸められており、とても人を殺せそうにないが、あまりにもそのナイフの刃が丸められたのが最近のように思う。


結局、神像とナイフ以外は何もめぼしいものはなかった。

だが、懺悔室には何か見つかるかもしれない。私は、そこも調べる事にしたが、やはり掃除が行き届いていて何の証拠も見つからない。

落胆した気持ちがそのままため息として漏れでる。


真っ暗な懺悔室を照らすろうそくは、怪し気にこの部屋を照らしていた。


「あ」

私が短く声を発した時だった。

扉がノックされ、外から神父の声が聞こえる。


扉を開くと、案の定右手にろうそくを持った神父がいた。穏やかな微笑みを浮かべながら、神父は口を開いた。


「旅人さん?狩人さんが聞きたい事がある、と。今大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

狩人が私に聞きたい事について、心当たりがある。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おう、来たか旅人。聞きたい事があるんだが……」

「もしかして、謎のオブジェについてですか?」

「ああ。恐らくそれだ。なあ、これはなんだ?」

そうして狩人が持っていたのは、私が一番触ってほしくない代物だった。


「それ、とても高価なんですよ。すぐに渡してください」

「何だ?やましい事でもあるのか」

私が焦ったからだろう。狩人は私に疑念の目を向けてきた。


「大体王都で一年暮らす事ができる金額ですよ、それ」

そう言った途端、狩人は私にそのオブジェを押し付けてきた。さすがに、そんな高価な代物を手に持つのは緊張するらしい。


「これは、王都で買った芸術品ですよ。最近王都で流行っているそうです」

受け取ったものが壊れていない事を確認しながら、軽く説明しながら、私は丁寧にカバンにしまい込む。


「他に聞きたい事は?」

「これについてはどうだ?神父さん、村長は何で殺された可能性が高いんだったか?」

「ナイフですね。それも正面から」

そして狩人が取り出したのは、サバイバルナイフ。


「けれど、私がやったという証拠にはなりませんよね?」

「だが俺たちだって村長を殺す動機がない!それにアンタがきてから村長が死んだんだ!」

私は必死に否定するが、狩人はどうもそれを信じてくれない。


私が困り果てていると、12時の鐘の音がなった。

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