終礼で
メイドのお仕置きには、大きく分けて3種類ある。
1つ目に朝礼や終礼での鞭がある。当日の小さな粗相に対してのお仕置きは、まとめて終礼で行われる。終礼以後に粗相があった場合は、翌日の朝礼に持ち越される。どちらの鞭も一人一発だけと決まっていて、事務的に短時間で行われる。朝礼への遅刻もこれに含まれる。
2つ目は、準備室でのパドルである。応接間の隣にある物置のような小部屋で、聞き取りや説教が必要な時に行なわれ、通常は革パドルで5発が決まりである。どちらの場合も、スカートを上げ、下着の上から叩かれる事になる。
そして、最も厳しいのが、執務室でのお仕置きである。大きな失敗をしたり、小さな粗相が続いた時には就業後に執務室に呼び出され、厳しく叱責とお仕置きを受ける事になる。ここでは下着も下ろされ、平手で何十回も叩かれる。その後にパドルや鞭が追加される場合もあり、痛みと恥ずかしさは相当なものとなる。
玲奈のお仕置きから数日が経った頃、紗希は初めて終礼でのお仕置きを受ける事になる。
「では、今日のお仕置きは…」
神崎は、ひと通りの連絡事項を終えた後、いつものように対象者を呼び出した。
「本日のお仕置きは……」神崎がリストを確認する。
「由香里さんと香織さん、そして紗希さん。前に出なさい」
「「「はい……」」」
三人のメイドが列から出てきた。紗希と、二人の先輩メイドの由香里と香織だ。由香里と香織は紗希より半年早く入った新人で、既に一度ずつ終礼の鞭を受けた経験がある。しかし紗希にとっては全く未知の恐怖だった。
「理由を述べなさい」
「はい」由香里が一歩前に出る。
「私は午前中の清掃で花瓶を倒して割ってしまいました。申し訳ありませんでした」
香織も続く。
「私はお茶出しの際にお客様の名前を間違えてしまい、恥をかかせてしまいました。申し訳ありませんでした」
「私は……」
紗希が口を開こうとしたとき、神崎の氷のような視線が向けられ、思わず言葉に詰まる。
「紗希さん」
紗希の名前を呼んだだけなのに、まるで雷に打たれたような衝撃を感じた。心臓が早鐘を打ち始める。震える声で答えた。
「私は……午後の給仕でグラスを落として割ってしまいました。申し訳ありません……」
紗希の言葉は最後まで言い切れなかった。グラスを落とした時の光景が鮮明によみがえり、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。
「わかりました」神崎は冷たい表情で頷いた。
「全員壁に向かって立ちなさい」
三人は言われるままに、壁に向かって並んだ。左側から由香里、香織、紗希の順番で立っている。
「スカートを腰の上まで上げなさい」
この言葉に紗希の身体が硬直した。周りのメイドたちの視線を感じる。特に前列に並んでいる先輩メイドたちの視線が刺さるように感じられた。他の二人が従順にスカートをたくし上げている間、紗希は動けずにいた。
「紗希さん、早くしなさい」
神崎の叱責が飛ぶ。
(みんなの前でスカートをまくり上げるなんて…恥ずかしいけど…これがメイドの掟なんだ…)
意を決して、スカートを持ち上げ始めると、背後から他のメイド達の視線を感じ、恥ずかしくてどうにかなりそうになる。
「……すみません」
震える手でスカートを引き上げると、白い肌に映える淡いピンク色のショーツが露わになった。紗希は耳まで真っ赤になった。
「いいでしょう」
神崎は満足そうに言った。
「これから順番に鞭で打ちます。紗希さんは初めてですので、一番最後にします」
「はい…」
最後に回される事に少しだけほっとするが、先に由香里と香織が打たれるところを目撃することになるのだ。恐怖が長引く事に今更気づいた。
神崎はまず、左端の由香里の背後に歩み寄った。彼女の背中は緊張で小刻みに震えていたが、毅然とした態度で立っていた。
「では始めます」
神崎が革製の鞭を振り上げ、空気を切る音が部屋に響いた。ヒュッという風切り音に紗希の背筋が凍る。
パシン!
乾いた音と同時に、由香里のお尻に鞭が振り下ろされた。
「くっ…!」
痛みに思わず肩が跳ねた。
「二度としないように」
「はい…」
由香里は短く答え、素早く後ろの列に戻った。次は香織の番だ。緊張で青ざめている香織の背後に、神崎が近づいた。
「いきます」
神崎が鞭を振り上げた。今度は隣に立たされている紗希もしっかり見ることができた。鞭が空中を切り裂き、香織のお尻に命中する瞬間を。パシン!という音が響き渡る。香織の体が揺れたが、歯を食いしばり耐えた。小さな下着では隠しきれない部分に、鞭の跡が赤く浮かび上がる。
「今後は注意してください」
「はい…」
香織も即座に返事をして後ろに下がった。ついに紗希の番だ。
「では紗希さん」
「はい」
紗希は精一杯の声を出して答えたが、恐怖で声が裏返ってしまった。恥ずかしさで頭がクラクラする。
紗希は震える足で必死に立ち、神崎の鞭を待つ。スカートを持ち上げている手が汗ばみ、滑りそうになる。心臓が胸の中で暴れ回り、呼吸が浅くなっていた。
神崎が鞭を握り直す音が聞こえた。紗希は目を閉じた。怖い。でも逃げられない。恐怖で全身が固まった。
「では、いきます」
紗希は全身に力を込めた。
ヒュンッと鞭が空気を切り裂く音がして、次の瞬間、
パシィン!!
大きな音をたてて、神崎の鞭が、紗希のお尻に振り下ろされた。
電流が走ったような激痛が紗希のお尻を襲った。
「痛あいっ!!」
思わず悲鳴を上げてしまった。しまったと思った時にはもう遅い。羞恥心が込み上げてくる。しかし、痛みはさらに追い打ちをかける。皮膚が焼けるように熱く、鼓動に合わせてズキズキと疼いた。
「二度と繰り返さないように」
神崎の冷静な声が耳に入る。紗希は何も答えられず、ただその場に立ち尽くしていた。鞭を受けたばかりの赤い跡が、痛みとともに存在感を主張している。周囲のメイドたちの視線を感じた。きっと可哀想に思われているだろう。それとも呆れられているのか。
「スカートを戻し、後ろへ下がりなさい」
神崎の命令に従いながらも、紗希は泣きそうになった。痛みよりも恥ずかしさが大きい。しかし泣いてはいけない。泣いたらもっと情けなくなる。
最後尾に戻ると、先に鞭を受けた由香里と香織が心配そうな顔で見てきた。特に香織は小さく首を振りながら同情の表情を見せた。紗希は弱々しく微笑み返したが、内心は震えが止まらなかった。
「以上です。解散」
神崎が宣言すると同時に、他のメイドたちがほっとした表情で退室していく。紗希も急いでその流れに乗ろうとしたが、まだお尻の痛みが続いていた。思わず顔をしかめながら歩いていると、「紗希ちゃん」と小さな声で呼び止められた。
振り向くと、そこにはメイドリーダーの真美が立っていた。いつもの厳しい表情ではなく、少し柔らかい表情をしている。
「大丈夫?初回だから大変だったわね」
紗希は涙を堪えながら頷いた。
「最初はみんな通る道だから。これからもっと厳しい罰もあるでしょうけど、頑張ってね」
そう言って真美は紗希の肩を軽く叩き、去っていった。
紗希は部屋に戻りながら思った。この館で生きていくためには、まだまだ学ぶことがたくさんある。そして痛みと共にあるのがこの職場なのだ。お尻の痛みはまだ続いているけれども、それは自分なりの成長の証なのだと信じたいと思うようになった。
その後、夕食を終え部屋に戻ると、同室の詩織がいつものように声をかけてきた。
「紗希ちゃん、お風呂に行こうよ」
詩織の誘いに、紗希はためらった。
「詩織ちゃん、私、今日はお風呂はちょっと…」
打たれたお尻はまだ熱を持ち、ひりひりと痛むし、赤く刻まれた跡を見られるのも恥ずかしい。思わずお尻に手を当てながら、紗希は言い淀んだ。
「お仕置きの後こそお風呂だよ。たくさん叩かれた後は冷やさなきゃだめだけど、一発くらいなら大丈夫。それに、ここの大浴場は温泉だから、打ち身によく効くんだから」
「え、そうだったんだ。でもやっぱり恥ずかしいかも…」
「大丈夫だよ!みんなしょっちゅうお仕置きされてるんだから、誰も気にしないよ」
「そ、そうかな…」
「そう!それに今日はフルーツ牛乳の日だよ。早く行こうよ。」
詩織に半ば引きずられるように、紗希は大浴場へと向かった。
夕食後の大浴場は、すでに多くのメイド達で混み合い、まるで修学旅行のようである。
脱衣場の隅の方で服を脱ぎ、鏡にお尻を写してみると、くっきりと赤くミミズ腫れのような跡が刻まれていた。
(こんなに…やっぱり恥ずかしい……)
「紗希ちゃんは肌が白いから、跡が目立っちゃうのかもね。でも大丈夫だよ。温泉の力で、絶対薄くなるから。早く入ろう!」
詩織に促され、大浴場へと足を踏み入れる。身体を洗い、恐る恐るぬるめの湯船に浸かってみる。最初は打たれた跡が少ししみたが、体全体が温まる頃にはすっかり痛みは薄らいでいた。
「ああ、気持ちいい…」
「温泉は癒やされるね。極楽…」
紗希と詩織が温泉を堪能していると、一緒にお仕置きを受けた由香里と香織が目に入った。二人とも、お尻にうっすらと赤い跡をつけていたが、仲間たちと楽しそうに談笑している。誰も特に気にせず、いつも通りの様子に、紗希は安堵した。
「詩織ちゃんの言う通りだったよ。温泉、最高だね!」
「そうでしょ!紗希ちゃん、元気になったみたいで良かったよ」
風呂上がりには、使用人食堂で、フルーツ牛乳を楽しんだ。この屋敷では、毎晩日替わりで乳製品が配られる。毎日の食事も無料で美味しいし、待遇は手厚く、お仕置きさえ無ければ最高の職場に思われる。
紗希と詩織が食堂でおしゃべりを続けていると、数人のメイドが話の輪に入ってきた。
「紗希ちゃん、初めての鞭だったよね、大丈夫?」
「はい、もうすっかり元気です。でも、私だけ大きな声あげちゃって、恥ずかしいです。みんなちゃんと我慢してたのに…」
「初めてなんだから、あれくらい普通だよ。」
「そうそう。泣き出す子もいるんだから」
「私ももう少しで泣きそうでした…」
「でも、神崎さん、一瞬焦った顔してたよね!『初めての子にやり過ぎたか!?』みたいな」
「ええっ!あの冷静な神崎さんが?」
「一瞬だけね。紗希ちゃんが泣かなかったから、大丈夫って判断したんじゃないかな。すぐ元に戻ったよ」
「それは貴重な姿だったね。よく見ておけば良かったよ」
「ほんとだねー」
「私も見たかった!」
「紗希ちゃんは気付いた?」
「痛くてそんな余裕ありませんでした……」
若いメイド達のおしゃべりは、尽きる事が無かった。
その夜以来、紗希は奇妙な充実感をおぼえていた。あの恥ずかしく苦痛な体験が、彼女をメイド集団の一員として迎え入れてくれたような気がしたのだ。
翌日、紗希は昨日のお仕置きの興奮でなかなか寝付けず、起きるのが辛かったものの、しっかりと身支度を整えた。お尻にはまだうっすらと赤い跡が残っていたが、痛み自体は昨夜の温泉のおかげでほとんど消えていた。
紗希は鏡を見ながら、少し複雑な気持ちになった。これで自分もこの館のルールを理解した一人になったのだと思うと、少し誇らしいような気もした。
朝食のために食堂へ向かうと、昨夜一緒に話をしていたメイドたちが声をかけてくれた。
「おはよう、紗希ちゃん!もう大丈夫?」
「おはようございます。はい、もうすっかり。昨日は本当にありがとうございました」
紗希は微笑んで答えた。昨日まで少し遠慮がちだった彼女たちが、まるで親友のように接してくれるのが不思議だった。
「ねえ、昨日の紗希ちゃんの声、すごかったよね!」一人のメイドが冗談めかして言う。
「やだあ!忘れてください~」
紗希は顔を赤らめて手を振ったが、心の中では少し嬉しい気持ちがあった。
「でもね、私たちも初めての時は同じようなものだったんだよ」別のメイドが優しく言った。
「そうだよね。玲奈先輩だって、最初の頃はよく泣いてたらしいよね」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。今は凛々しくて憧れちゃうけどね」
「そうなんだ。意外ですね」
「まあ、そのうちに慣れるよ」
「うんうん。それより、今日も頑張ろう!」
「はい!」
こうして紗希は、他のメイドたちとの会話の中で、自分が徐々に受け入れられていることを実感した。これまで少し壁があったように感じていたが、それが取り払われた気がした。この館のルールであるお仕置きが、逆に彼女たちの絆を深める役割も担っていることに気付いたのだった。




