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玲奈の失敗

そんなある日のことだった。

その日、普段は几帳面な先輩メイドの玲奈が珍しく大きなミスをしてしまった。夕食の支度中にオーブンの温度設定を誤り、メインディッシュの肉料理を焦がしてしまったのだ。


「大変申し訳ありません!すぐに作り直します!」


玲奈は慌てて厨房に戻ったが、高級牛肉は残り僅かで時間も限られていた。結局その夜のディナーは一部メニュー変更を余儀なくされ、厨房内は緊迫した空気に包まれた。


混乱の中、神崎や料理長の機転でなんとか切り抜け、30分遅れで無事にディナーは終了した。夕食後、片付けをしている時に神崎が玲奈に近づいた。


「玲奈さん」


いつもの冷静な声だが、どこか厳しさが感じられる。


「はい……」


玲奈の顔が青ざめた。


「今日の失敗の責任は重大です。就業後、私の執務室へ来なさい。」


「……承知しました」


玲奈は深々と頭を下げたが、その指先は震えていた。



「待って下さい!」

そこへ料理長の斉藤が、とっさに助け舟を出してきた。


「厨房で起きた事は全て、料理長である自分の責任です。オーブンの火入れを玲奈さんに任せたのは俺の指示です。だから、処分なら自分が…」


「…確かに…斉藤料理長、今回の件はあなたの査定にも影響するかもしれません。」


「自分はそれで構いません。だから玲奈さんには…」


「それと玲奈さんの件は話が別です。玲奈さんは調理師免許を持つ、正式な厨房付きのメイドです。特に調理に関してはちゃんと責任を取る必要があります。そして、メイドの粗相には相応のお仕置きが伴う。これは貴族の館の掟です」


「…で、でも…」


「玲奈さんはわかりましたね」


「はい」

玲奈は力強く頷いた。


「私の失敗です。私がお仕置きを受けるのは当然です。斉藤料理長、かばって頂いてありがとうございます。」

玲奈は深々と頭を下げた。


就業時間が過ぎて執務室へ向かった玲奈はなかなか戻ってこなかった。やがて消灯時間を過ぎた頃、彼女が泣き腫らした顔で執務室から戻って来るのを偶然見かけた紗希は驚いた。いつも完璧な先輩がこんな姿になっているとは……


「詩織ちゃん……」


「あっ!お仕置きを終えた玲奈先輩が帰ってきたみたいね」


「何があったのかな?」


「それは…」

詩織は意味深に言葉を濁すが、紗希の不安そうな顔に、声を殺して話し始めた。


「大きな失敗をした時は執務室でお仕置きされるんだよ。神崎さんは厳しいけど公正だし、玲奈先輩もそれを分かって納得していたみたいだし」


「でも、いつも冷静な玲奈先輩があんなに泣いて…かなり厳しく叱られたのかな?」


「そうだろうね。執務室でのお仕置きは特別なんだよ」


「どういうこと?」


「普通の朝礼の鞭や、準備室でのパドルとかは下着の上から打つでしょ?」


「うん」


「でも執務室では、下着を下ろされて、直接お尻を叩かれるの」


「ええっ!?」


「神崎さんの膝の上にうつ伏せに乗せられて、むき出しのお尻を何十回も平手で叩かれるんだよ」


「そ、そんな子供みたいなお仕置きを受けるなんて…」


「だからみんな本当に嫌がるんだけど……それが貴族に仕えるメイドの伝統的な罰なの」


「じゃあ玲奈さんも……?」


「そうだろうね。多分すごく痛くて恥ずかしかったと思うよ」


「でも……どうしてそんな……」


「重大なミスの場合、体で覚えさせる必要があるんだって。もちろんその後は必ず反省文と再発防止策を書かされるんだけどね」


「そんな……私だったら耐えられないかも……」


「うん……私ももう絶対に執務室でのお仕置きは受けたくないなぁ」


「え!? 詩織ちゃんは執務室でのお仕置き、受けた事があるの?」


「…うん、紗希ちゃんが入る少し前にね」


「い、痛かった?」


「うん。お尻を出すのはすごく恥ずかしいけど、途中から痛すぎてそれどころじゃなくなっちゃった。」


「そんなに…!」


「普段の鞭は1発だけだし、パドルも5発までだよね」


「うん」


「でも平手では何十回も叩かれるの。最初はそれほどじゃなくても、回数が増えると痛みも重なって、大泣きしちゃうくらい痛いんだよ」


その夜、ベッドに入ってからも紗希はなかなか眠れなかった。玲奈先輩の泣き顔が頭から離れない。もし自分が同じ状況になったらどうなるんだろう……


紗希は布団の中で震えた。あんなに恥ずかしい思いをするなんて考えただけで恐ろしい。でも玲奈先輩のように重大なミスをすれば避けられない運命なのだ。それにしても……執務室でのお仕置きというものがこれほど厳しいとは思わなかった。


翌朝、いつも通り朝食の準備を始めると玲奈が姿を現した。昨夜の泣き腫らした顔には見えないほど普段通りの表情だったけれど、どこか疲れているようにも見えた。でも彼女は黙々と仕事をこなし、失敗は絶対にしないという強い意志のようなものを感じさせた。しかし、どんなに冷静を装っても、昨夜のお仕置きの事を繰り返し思い出してしまう。



昨夜の就業後、玲奈はすぐに神崎の執務室を訪れた。どんな厳しい罰も甘んじて受け入れる覚悟であった。


(今回は平手で叩かれた後、鞭で打たれるかもしれない …怖いけど、しっかりと受けよう)


「今日は、本当に申し訳ありませんでした。」

玲奈は、執務机の席に着く神崎の向かいに立ち、深々と頭を下げた。


「玲奈さん、顔を上げなさい」

神崎が静かに告げる。


恐る恐る顔を上げると、厳しい表情の神崎が玲奈を見据えていた。そして、机の隅には鞭が置かれていた。それを見て、玲奈は鞭でも打たれる事を覚悟した。


恐怖で体をこわばらせる玲奈に、神崎は言葉を続ける。

「今回の失敗は、多くの人に影響がありました。何より旦那様方に多大なご迷惑をかけてしまいました。」


「…はい…」


「料理長の機転で、なんとか別のメニューに変更することはできました。しかし、旦那様は夜のご予定が一つ変更になり、奥様は食後の服薬の時間が遅れてしまいました。賢一郎坊ちゃまは夕食の時間が延びた事で、予習の時間が無くなり、家庭教師の先生に叱られてしまいました。」


「賢一郎坊ちゃまが…」


「そしてまだお小さい坊ちゃんは肉が食べたいと駄々をこねてしまい、お行儀が悪いと教育係からお仕置きをされました。」


「ああっ、坊っちゃんが私のせいで…私、皆様に直接お詫びを…」


「それには及びません。」

必死で訴える玲奈を、神崎は静止した。


「一介のメイドのお目通りは許されません。先ほど、私が改めて謝罪に伺い、旦那様からのお言葉を頂きました。」


「だ、旦那様から…!?」

解雇の通知では、と玲奈は身構えた。


「失敗は誰にでもある事です。今日の失敗を糧にして、明日からの仕事に励むように、との事です」


「そ、それじゃ…」


「旦那様は寛大なお方です。私達使用人は、そのお気持ちに全力で応えなければなりません。」


「はい、必ず。明日から、常に全力で励む事を誓います」


玲奈の決意に、神崎は満足そうに頷いた。


「旦那様はお許し下さいましたが、二度とこの様な事が無いように、戒めとしてお仕置きが必要です」

厳しい表情で告げる。


「はい。どんな罰も受けます」


「良い覚悟です。ではこちらへ」


神崎は立ち上がり、部屋の隅にある椅子を、部屋の広い場所に移動させ腰掛けた。


「あなたはここでのお仕置きは三度目ですから、作法はわかっていますね。」


「はい。」


「ここへ来なさい。」

神崎は自らの膝を指し示した。


「はい。」

玲奈は素直に頷くと、椅子に座る神崎の右側に速やかに歩み寄った。


そして、躊躇なく自ら下着を太もものあたりまで下ろし、神崎の膝の上にうつ伏せに乗った。その後、自分でスカートを背中までまくり上げ、裸のお尻を差し出した。


この一連の流れる様な動作に、神崎は驚いた。ここでのお仕置きは、少女達にとってかなりの恐怖と恥ずかしさが伴う。それは何度受けても薄らぐものではなく、お仕置きの体勢をとるのにかなり時間がかかるのが常である。玲奈の態度には、大きな反省と覚悟が見てとれた。


「では始めます」

神崎の右手が高く上がった。次の瞬間—


パァーン!


鋭い音と共に、玲奈の白いお尻に赤い手形が浮かび上がる。


「んっ……!」


思わず短い声が漏れたが、玲奈は歯を食いしばり、唇を噛み締めた。全身に力を込め、羞恥と痛みに耐える。


パァーン!パァーン!


続けて二発、三発と容赦なく平手が落ちる。柔らかな肌に次々と赤い痕跡が刻まれていく。


「くっ……!」


痛みに背筋が反り返りそうになるのを必死で抑える。が、どんなに我慢しようとしても、痛みのあまり体勢がずれそうになってしまう。


「まだまだ反省が足りないようですね」


神崎の冷徹な声が響く。その言葉に玲奈は顔を歪めながらも答えた。


「……そ、そんな事は……申し訳っ…ありませんっ…!」


必死で体勢を立て直す。


「良い心がけです」


パァーン!パァーン!


さらにお尻に五発目、六発目の平手が降り注いだ。


ビシッ!バシィッ!


これまで以上に強烈な一撃に思わず涙が滲む。しかし声をあげることはしなかった。羞恥心よりも職業意識の方が勝っていた。玲奈の頬を一筋の涙が伝ったが、決して泣き叫ぶことはなかった。プライドと責任感が彼女の体を支えていた。そして、お仕置きの恐怖を乗り越えなければならないという強い意志が、彼女を一層輝かせていた。


厳しい平手が50発ほど振り下ろされた後、神崎は手を止めた。


「……もう十分でしょう。終わりです。立ちなさい。」


玲奈は肩で息をしながら、震える足で立ち上がり、次の指示を待った。鞭で打たれる事を覚悟していた。


神崎はゆっくりと立ち上がり、玲奈の肩に手を置いた。

「今回のお仕置きはこれで終わりです」


「え…!?でも…」


玲奈は机の上に置かれた鞭と神崎の顔を交互に見た。それを見た神崎は少しだけ穏やかな口調で玲奈に告げた。


「それを使うつもりでしたが、今回は鞭は使いません。今日の玲奈さんの様子から、鞭は必要無いと判断しました」


玲奈は驚きのあまり、言葉に詰まってしまう。


「とにかく、お仕置きは終わりです。服装を整えなさい。」

神崎はきまり悪そうに背を向け、椅子を片付け始めた。


「あっ!は、はい」


スカートで隠されているとはいえ、下着を下ろしたままである事に気づき、急いで下着を上げ、乱れた服を整えた。


神崎は、元の執務机に戻り、穏やかに告げた。

「あなたはここで働きながら、独学で調理師免許を取得した努力家です。今日の痛みを忘れずに、明日からの仕事に励んで下さい。」


「はい」

玲奈は瞳に涙をためて強く頷いた。


「それと…今日のお仕置きの態度は大変立派でした。よく頑張りましたね。」

神崎は、珍しく穏やかな笑顔を浮かべて、玲奈をねぎらった。


「あ、ありがとう…ございっ…ます…私っ…」

神崎からの意外な言葉に、言葉が続かない。

張り詰めていた緊張が溶け、堰を切ったように玲奈は泣き出した。泣きじゃくる玲奈に、神崎は優しく告げた。


「あなたの明日からの働きに期待しています。部屋に戻って、ゆっくり休みなさい」


「…はい…ありがとうございました…」


玲奈は深々と頭を下げて泣きながら執務室を後にした。玲奈は自分の部屋に戻り、鏡でお尻を見た。赤く腫れ上がっていて、触るとジンジンと痛む。


(こんなに……)

思わず溜息が出る。しかし同時に強い決意も湧いてくる。これで終わりではない。明日からの仕事で挽回しなければならないのだ。


翌日から、玲奈は今までにも増して精力的に仕事に励み、周りのメイド達にも良い影響を与えた。

特に見習いメイドの紗希は、羨望の眼差しを向けていた。


(玲奈先輩はすごいなあ。あんなに厳しいお仕置きの後なのに。私も頑張らなくちゃ)


しかし、その厳しい執務室でのお仕置きを、紗希も遠くない未来にに経験することとなる。そしてその前に、すぐに終礼での鞭を経験することを知るよしも無かった。


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