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初めての情事

木曜日の午後、神崎は約束の場所である小さな公園の噴水前に立っていた。初秋の陽射しが心地よく、風が少し冷たい。

約束の時間より早く着きすぎて落ち着かない気持ちを抑えるために、深呼吸を繰り返した。


「神崎君!」


明るい声に振り返ると、小百合が小走りに駆けてくる姿が見えた。

普段のメイド服ではなく、淡い水色のワンピースを着ている。髪もいつもより丁寧に整えられていて、飾りのついた髪留めが可愛い。


「ごめんなさい、待たせたかしら?」

小百合が息を弾ませながら尋ねた。


「いいえ、僕が早すぎただけです」

神崎は慌てて答えた。


小百合は微笑むと、「じゃあ行きましょうか」と言って公園の中へと案内した。


二人は公園をゆっくりと散策した。

小百合は屋敷の外の世界について楽しそうに話す。神崎も普段屋敷では見せないような笑顔で相槌を打った。特に小百合が野草や小さな花々に詳しく、一つ一つ説明してくれる様子は新鮮だった。


公園の中央にある花畑に辿り着くと、小百合は嬉しそうに駆け寄った。

「見て!きれいでしょう?」


彼女の後を追って花畑に立つと、様々な色のコスモスが一面に咲き乱れているのが見えた。小百合はしゃがみ込んで一輪の花に触れている。


「ここは私が好きな場所なの。昔はよくここで遊んだわ」

小百合が振り返って言った時、秋風が彼女の髪を優しく撫でた。その姿に神崎は思わず見惚れた。


「小百合さん」

神崎は意を決して声をかけた。


「え?」

小百合が立ち上がる。


「僕は……」

神崎の鼓動が早くなる。


「僕はずっと……小百合さんのことが……」

言葉が喉につかえる。


小百合は静かに待っている。その優しい眼差しに神崎は勇気を得た。


「ずっと好きでした。屋敷に来てすぐの頃から……」


思い切って告白すると同時に、小百合の目が大きく見開かれた。


一瞬の沈黙の後、小百合はそっと微笑んだ。


「私もよ」


その言葉に神崎の胸が熱くなった。


「…い、いつから……?」

神崎が訊ねると、小百合は頬を赤らめて答えた


「ずっと弟のように可愛いと思っていたわ」

小百合は恥ずかしそうに視線を落とす。


「でも男の人として意識したのは……先週の非常階段での時からよ…」


彼女の言葉に神崎は驚いた。

あの夜の出来事が小百合の心に影響を与えていたのか。神崎にとっても小百合のキスは特別な意味を持っていた。


「あんな時にキスするなんて……我ながら大胆だったと思うわ」

小百合は頬を染めながら告白した。


「でも、貴方の涙を見たら、愛しくてたまらなくなって…」


「小百合さん……」


神崎は小百合の手を取った。彼女の指先は少し冷たかった。


「僕たち……お付き合いできますか?」


小百合は照れくさそうに笑いながら頷いた。


「ええ……喜んで」


次の瞬間、神崎は小百合を抱きしめた。

花畑の香りに包まれながら、二人は静かにキスを交わした。神崎の腕の中で小百合は身体を預け、二人の距離は完全にゼロになった。


花々の間を吹き抜ける風だけが二人の周りを通り過ぎる。言葉はなくても互いの気持ちが伝わってくるような甘い時間だった。


「神崎君……」

キスの合間に小百合が囁いた。


「ずっとこうしたかったの」


神崎はさらに強く小百合を抱きしめた。

「僕もです……」



公園を出た二人は、少し離れた町へと歩き出した。秋の陽は傾き始め、街灯が一つまた一つと灯りはじめる。小百合が不意に神崎の腕をつかんだ。


「ねえ、この先に素敵なホテルがあるの。行ってみない?」


神崎の鼓動が高鳴る。それはつまり……そういうことだろうか。戸惑いながらも小百合の提案に頷いた。


ホテルのフロントでチェックインする際、神崎は極度に緊張していた。小百合は慣れた様子で手続きを済ませ、鍵を受け取る。

エレベーターの中で二人きりになると、小百合が神崎の手を握った。


「大丈夫よ、怖がらないで」

彼女の優しい声に、神崎の心臓の鼓動が少しだけ落ち着いた。


部屋に入ると、広々としたダブルベッドが目に入る。神崎は思わず顔を赤らめた。


「あの……僕はこういうの……初めてで……」

正直に告白すると、小百合は微笑んだ。


「わかってるわ。私も久しぶりだから」

そう言うと彼女は神崎の頬に優しくキスをした。


小百合が先にシャワーを浴びに行く間、神崎はソファに座って何度も深呼吸を繰り返した。初めての経験への期待と不安が入り混じる。


しばらくしてバスローブを羽織った小百合が戻ってきた。濡れた髪と火照った肌が妙に艶かしい。


「次は神崎君の番よ」

促されるまま浴室に向かう神崎。鏡に映る自分の顔は緊張で強張っていた。


シャワーを終えて部屋に戻ると、小百合は窓際に立っていた。間接照明に照らされた彼女の横顔は神秘的に美しく、思わず見惚れる。


「来て」


彼女が神崎を招き寄せると、そのままベッドへと導いた。


ベッドサイドの柔らかな照明の下、小百合は神崎を優しく抱きしめた。


「初めてなんだから、焦らないでね」


そう言って彼女は神崎の髪を撫でる。その温もりに包まれながら、神崎は徐々に緊張が解けていくのを感じた。


小百合の導きで二人の時間が始まる。


「大丈夫よ……そう……」


経験豊富な小百合のリードに身を任せながらも、神崎は必死で応えようと努力した。



その後、二人は汗ばんだ身体を寄せ合って横たわった。小百合は神崎の頭を胸に抱きしめながら囁く。


「すごく良かったわ……」


「本当に?」


「ええ。初めてなのに一生懸命で……とっても可愛かった」


その言葉に神崎は照れくさそうに笑った。


「小百合さんが優しく教えてくれたからですよ」


「ふふ、上手くできてたじゃない」


小百合は神崎の額にキスを落とした。


神崎は小百合の髪を撫でながら尋ねた。

「あの……こんなこと聞いたら変かもしれないんですけど」


「なあに?」


「小百合さんって……男性経験は…たくさんあるんですか?」


少し恥ずかしそうに尋ねる神崎に、小百合は優しく答えた。


「そうね…人並みにはあるかも。でも全部恋人として付き合った人達だけよ。最後に別れて以来だから、2年振りくらいね」


「そうなんですか……」


「心配しないで。今は神崎君だけなんだから」


茶目っ気たっぷりに答える小百合に神崎は安堵した。


「神崎君も初めてとは思えないくらい、ちゃんと出来てたわ。これからはどんどん上手になるでしょうね」


「そうですか……自信がつきます」

神崎は照れ笑いしながら答えた。


小百合の優しい言葉に神崎は頷きながら、彼女の胸に顔を埋めた。


「愛してます、小百合さん」


「私もよ、神崎君……いえ…怜司くん」


小百合はそっと囁いた。


その後二人は次回の約束を交わして帰路についた。


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