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執事への道

翌朝から神崎は田所執事の指導のもと、執事としての基礎を学び始めた。


「まずは屋敷内の全体像を把握することから始まります。人員の配置、備品の管理、そして何よりも重要なのが……」


田所は厳粛な面持ちで神崎を見た。

「九条家の伝統と掟です」


掃除、給仕、外交儀礼と一日が飛ぶように過ぎていく。神崎は教師になるための勉強で鍛えた集中力を発揮し、急速に知識を吸収していった。


その夜、田所は書庫で神崎を待っていた。

「これが最後の課題です。最も古い家訓録です」


重厚な革表紙の本を手渡される。

「これを熟読し、明日までに要点をまとめなさい」


神崎がページをめくると、「メイド管理法」という章が目に入った。


「これは……」


「貴族の屋敷には伝統的なメイドの躾があります」

田所の声が低くなる。


「良家に仕える者は身だしなみだけでなく……心も清くある必要があります。それを保つためのお約束があるのですよ」


神崎は息を呑んだ。


「執事を志す君には、それを知ってもらう必要があります。まずは私と行動を共にし、実際に見ることから始めましょう」



翌日、神崎は早速その「伝統的な躾」を目撃することとなった。


その日、神崎は初めてメイドの朝礼へ見習い執事として出席した。

田所の後ろに控え、大勢のメイド達の前に立ち、朝礼の進行を見守っていた。


「…連絡事項は以上です。そこ!和美さん、真理子さん!」


田所はこっそりとおしゃべりをしていた二人を指差した。

「二人とも、前に出なさい」


和美と真理子が恥ずかしそうに前に出てくる。

和美は若くて勝ち気な顔立ちの少女で、真理子は年長で物腰柔らかな女性だ。しかし両者ともに蒼白になっていた。


「二人とも分かっているでしょう?」


田所は懐から細長い鞭を取り出した。普段は書類を持つのと同じ手が、今は厳しい体罰の道具を握っている。


「メイドたるもの常に謙虚さと勤勉さが求められます。おしゃべりに興じている暇はありませんよ」


「申し訳ありません!」二人は同時に頭を下げる。


「謝罪より実行が大事です。壁に向かって立ってスカートを上げなさい」


神崎は息を呑んだ。この奇妙な光景が貴族の屋敷では「普通」なのか?


「神崎君」


不意に名前を呼ばれて我に返る。


「執事たるもの目を逸らしてはなりません。これが貴族の屋敷における秩序維持の方法です」


二人は壁に向かい、恥ずかしそうにスカートの裾を上げると、下着に包まれたお尻を差し出した。


田所は二人の背後にまわると、鞭を持つ右腕を振り上げた。


そしてヒュンッと風を切る音が響き、下着の上からとはいえ露わになったお尻に向けて鞭が振り下ろされた。


ビシッ!ビシッ!


「ッ!」「くっ!」


乾いた音とともに若いメイドが悲鳴を漏らす。続けて二撃目。


「申し訳ありません!」


年長の真理子は耐えるように顔を歪ませる。

計五回の罰が二人に下されると、田所は鞭を収めた。


「これから気をつけなさい」


二人が去っていく背中を見送りながら、田所が神崎に向き直る。

「これが基本的な躾です。この場では下着の上から。執務室でのお仕置きは素肌にも及びます」


「それは……酷すぎませんか?」


思わず漏れた言葉に、田所の表情が厳しくなった。


「貴族の屋敷では百年以上続くしきたりです。神崎君」


彼の目が鋭くなる。


「貴方もいずれこのしきたりを実行しなければなりません」


神崎は黙って拳を握りしめた。これが執事としての道なのか—まだ答えを見つけられない。


その夜、神崎は衝撃的な体験をする事になる。



夕暮れ時、厨房で洗い物をしている小百合に神崎は目を留めた。


彼女は屋敷に来て7年になるベテランメイドで、神崎より一つ年上。明るく気さくな性格で、後輩の面倒見がよくみんなから慕われていた。


神崎も新人時代から何かと助けられ、そんな彼女に密かに惹かれていた。


しかし夕食後、事件が起きた。


小百合が客人に出すべき高級ワインを不注意で床にこぼしてしまったのだ。幸い客は怒らなかったものの、そのワインの価値を知る者なら到底許されないミスだった。



その夜、田所が神崎を呼んだ。

「これから小百合さんにお仕置きを行います。記録係として同席しなさい」


執務室では、小百合が田所の執務机の前でうつむいていた。緊張で震えているのが分かる。


「今宵の罪は重い」

田所が冷徹に言い放つ。


「高価なワインを台無しにしたことだけでなく、あれは貴族の賓客に対する侮辱も同然です」


小百合は必死に頭を下げる。

「申し訳ございません!私の不注意でした!」


「不注意では済まされません」


田所は執務机から鞭を取り出し机に置いた。それを見た小百合の顔から血の気が引く。


「まずは平手から始めます。膝に乗ってスカートを上げなさい」


神崎は言葉を失った。


自分の想い人が今から受ける屈辱を目の当たりにする自信がない。しかしこれも執事見習いとしての義務なのか—葛藤の中、彼はペンを握りしめた。


小百合は震える手でスカートの裾を持ち上げると、椅子に座る田所の膝の上にうつ伏せになった。その姿を見た神崎の胸が締め付けられる。


田所は何のためらいもなく彼女の下着を引き下ろし、白いお尻を露わにした。


「!!」


神崎は生まれて初めて直接目にする女性のお尻に激しく動揺してしまう。


「目をそらさずに、見習いとしてしっかり記録するように」

田所の声には一切の情けが感じられない。



そして最初の一打——


バチン!


室内に乾いた音が響き渡った。


「あぅっ!」


小百合の口から悲鳴が漏れる。


バチン!バチン!バチン!


容赦ないは平手打ちが続いた。神崎は目の前の光景から目を逸らしたかった。しかしそれは許されない。


「もっと細心の注意を払うべきでしたね」

田所の言葉が平手を打ち付ける音と共に響く。


「はぃ……すみま……せん……!」

小百合の声は途切れ途切れになり、涙が溢れ出し頬を伝う。


十回を超えたあたりで小百合の白いお尻は赤く染まっていた。それでも田所の手は止まらない。


バチン!バチン!バチン!バチン!


「っ!くっ!も……もう……許して……」


小百合の懇願に対しても田所は顔色一つ変えなかった。


神崎はペンを握りしめたまま固まっていた。この衝撃的な光景に何を感じればよいのか分からない。


想い人の痛みに対する憐れみか、執事という立場に対する恐怖か、それとも貴族社会の理不尽さへの怒りか。


三十回を過ぎたところで田所はようやく手を止めた。小百合のお尻は真っ赤に腫れ上がり、痛みのほどを物語っている。


「立ちなさい」

田所の冷たい声が響く。


小百合は震える足で立ち上がった。赤いお尻を隠そうとする彼女の姿に神崎は耐えられなくなった。


「あの……田所さん」

思わず口を開いてしまう。


「なんですか?」

田所が初めて神崎に目を向けた。


「その……彼女も反省しているようですし……」


「黙りなさい」

田所の厳しい声が飛んだ。


「執事としての心得を忘れたのですか?これは規則通りの罰です。議論の余地はありません」


神崎は言葉を飲み込んだ。自分の弱さに苛立ちを覚えながら、彼は記録用の紙に手を伸ばした。


「次は鞭打ち五回です。机に両手をつきなさい」

田所が宣言すると、小百合の体が再び硬直した。


小百合が言われた通りに机に両手をつくと、鞭が空気を切る音と共に、一発目が既に赤く染まったお尻に振り下ろされる。


ビシッ!


「くっ!」


神崎は自分の胸が締め付けられるのを感じた。この屋敷で執事として生きるということは、このような瞬間も受け入れなければならないということなのだ。


田所の鞭が容赦なく振り下ろされる。。


ビシッ!ビシッ!


小百合の嗚咽が部屋に響く。


これが執事の道なのか——まだ答えを見つけられないまま、神崎は目の前の残酷な現実を記録し続けた。


「これで終わりです。服装を整えなさい」


田所の言葉に小百合は涙を拭いながら、下着を上げスカートを戻した。

「今日の痛みを忘れないように、明日からの仕事に励みなさい」


「はい…ありがとうございました」

そう言って一礼し、小百合は執務室を後にした。



「さて、神崎君。記録はちゃんと取れましたか?」


「…は、はい…」


そう言って神崎は記録用紙を田所に手渡した。そこにはお仕置きの理由や方法、回数、小百合の反応などが事細かに記録されていた。


「…いいでしょう。初めてのお仕置きでかなり動揺していたようですが、よく書けています」


「…はい…」


「君のような若い男にとっては、刺激が強すぎたかもしれませんね」


「………」


「しかし、いずれ慣れます。まずは経験を積んて耐性をつける事です。そのうち、女性のお尻を見ても何も感じなくなります」


田所の言葉に神崎はなんと答えて良いかわからなかった。


「今日はかなり疲れたでしょう。もう戻って休みなさい」


「はい…失礼致します」


それだけ言うと、神崎は複雑な思いを抱えたまま執務室を後にした。



自室へ戻る途中の廊下で、神崎は小百合と鉢合わせた。彼女は俯き加減で歩いており、神崎を見ると一瞬足を止めたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「あら、神崎君」

予想外の明るい声に神崎は戸惑った。


「……小百合さん」

気まずさから言葉が続かない。

神崎の苦悩する表情に、小百合は驚きながら声をかけた。


「難しい顔をしてどうしたの?」


「…どうって…僕は……!」


感情が高ぶり、うまく言葉にできない神崎に、小百合は少し考え込んだ後、優しくささやいた。


「…もし良かったら、少し非常階段でお話ししない?」


「え!?僕と……?」

神崎は驚いたが、断る理由も見つからず頷いた。



非常階段は、使用人達によく逢引に使われているが、今夜は人気もなく静まり返っている。


非常階段に着くと、二人は階段に並んで腰掛けた。小百合は壁に寄りかかりながら神崎に問いかけた。


「神崎君、大丈夫?なんだか思い詰めているみたいだけど…」


「それは……」


神崎は言葉につまったが、抑えきれない感情がこみあげてきた。


「こんな事が……こんな扱いが……あってもいいんですか?あんな……あんな目に遭わされて……!」


声が震える。


「確かにミスはしました。でもあんな罰を受ける程のことなんですか?」


「神崎君?」


小百合が驚いた表情で神崎を見つめる。いつも冷静な彼が、こんな風に感情を表に出すのは珍しい。


「貴方は初めて見たから驚いたでしょうね。私は7年ここで働いているけど、お仕置きは何度も受けているわ」


「なぜ……なぜ辞めないんですか?」

神崎は震える声で尋ねた。


「私はこの仕事が好きなのよ」


笑顔で答える小百合に神崎は食い下がる。

「でも……!あんな……あんな目に遭うくらいなら……!」

神崎は思わず拳を握りしめた。


小百合は神崎に近づき、彼の震える手に触れた。


「大丈夫?どうしたの?」


神崎の目から涙が溢れ出した。小百合は驚いて彼の肩に手を置いた。


「神崎君?泣いてるの?」


「……すみません……」


神崎は顔を背けた。想い人の前で涙を見せるなんて情けないと思っていたが、もう抑えられなかった。


「神崎君」

小百合は優しく彼の手を取った。


「私は大丈夫だから。いつもの事よ」


「でも……僕は…こんな事をしなければならないなら、僕は執事になんてなりたく…!?」



その時小百合の手が神崎の頬に触れ、彼女は彼の唇に自分の唇を重ねた。


突然のことに神崎の思考が停止する。唇に触れる柔らかな感触。非常階段の闇の中で、二人の影が一つになる。



数秒間の短いキスの後、小百合はそっと離れ、神崎の顔を覗き込んだ。


「ダメよ、神崎君」彼女の声は穏やかだが強い。


「メイドのために泣いてくれる優しい貴方なら、きっと素敵な執事になれるわ」


神崎は茫然として小百合を見つめている。唇に残る感触と小百合の言葉が頭の中で交錯する。


「小百合さん……」神崎の声がかすれた。


「僕は……」


「それにね。私達メイドはみんな自分の意思でこの仕事を選んでるの。別に、借金のかたに売られてきたってわけじゃないのよ」

小百合は冗談めかして笑う。


「お仕置きの事だって、始めに説明されて納得してるの。だから貴方が苦しむ事は無いのよ」

小百合の言葉に神崎は少しだけ心が軽くなるのを感じていた。


「そうだ、今度二人でどこかに遊びに行かない?」


「え…?」


突然の小百合の言葉に神崎は戸惑った。


「たまには屋敷の事を忘れて、気分転換しましょう。どうかしら?」


憧れの小百合からの誘いに、神崎の胸は高鳴った。


「…はい…僕で良ければ……」

それだけ答えるのが精一杯だった。


そして二人の休みが重なる来週の木曜日に、近くの公園で待ち合わせる約束をした。


「さぁ、そろそろ戻りましょうか。夜も更けてきたわ」

小百合は立ち上がり、非常階段の手すりを握った。


「寝坊したら、また叱られるちゃう」

小百合はいたずらっぽく微笑んだ。


階段を降り始めようとする小百合の背中に、神崎は思わず叫んだ。


「小百合さん!」


振り返った彼女の瞳は月明かりに照らされ輝いていた。


「…神崎君…また明日」


神崎は答えず、ただ頷いた。そして二人は別れ、それぞれの部屋へと向かった。神崎の唇にはまだ小百合の感触が残っていた。



小百合と別れた後、神崎は自室に戻りベッドに倒れ込んだ。

今夜起こった出来事が頭の中で渦巻いている。小百合の赤く腫れたお尻。田所の冷徹な平手打ち。そしてあの意外な口づけと外出の約束。


「あれは…小百合さんはどういうつもりで……」


独り言が部屋に虚しく響く。


神崎は机に向かい、今日の出来事を記録したページを見返した。小百合へのお仕置きの詳細が克明に記されている。

執事見習いとして初めての体験だったが、次第にこのような仕事にも慣れていかなければならないのだろうか。



翌朝、目を覚ますと頭が重かった。昨夜の出来事が鮮明に思い出される。特に小百合の唇の感触は消えない。


それでも目まぐるしく毎日は過ぎ去り、約束の木曜日が訪れた。

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