久しぶりのお仕置き
翌日から、またいつも通りの日常が始まった。二人は完全に公私のけじめをつけ、それぞれの仕事に励んだ。
そんなある日、屋敷では多くの来客を招き、晩餐会が催された。
晩餐会は華やかに行われていた。天井から吊るされた豪華なシャンデリアの下、数十人の客人たちが談笑し、上質な料理に舌鼓を打っている。紗希はメイドの一員として忙しく動いていた。
「お飲み物をお持ちしました」
ワイングラスと料理を乗せた銀盆を捧げ持った紗希がテーブルに近づく。その時、一人の老人が突然咳き込み、紗希の動きが一瞬乱れた。幸いグラスは無事だったが—
「きゃっ!」
紗希がバランスを崩した瞬間、彼女が運んでいたメインコースの皿が傾いた。銀盆の端に載っていた料理が溢れ、美しい刺繍の入ったテーブルクロスにぶちまけてしまったのだ。
「申し訳ありません!」
紗希は慌てて頭を下げる。彼女の顔から血の気が引いていく。上席で行われていた主賓のスピーチが中断され、全員の視線がこちらに注がれた。
「まあ……」
「新人かしら?」
好奇の目と不満げな囁きが聞こえてくる。紗希は震える手でナプキンを取り出し、染みを拭こうとしたが—
「お客様、少々お待ちください」
澄んだ声が響き渡った。神崎がスッと近づき、紗希の前に歩み出る。
「大変申し訳ございません。当家のメイドが失礼致しました」
彼は紗希に一瞥もくれず、冷静に話し続けた。
「代わりのテーブルをご用意いたしますので、皆様はこちらへ」
神崎は優雅な手つきで新しいテーブルへの案内を始めた。彼の指示に従い、他の使用人たちが素早く準備を整える。その間、紗希は俯いたまま立ち尽くしていた。
その場が収まると、神崎は紗希の近くへ歩み寄り、厳しい声で告げた。
「紗希さん、君はもう下がりなさい。そして、就業後に執務室に来るように」
「…はい…申し訳ありませんでした…」
紗希は震える声で謝罪し、会場を後にした。
晩餐会は無事に終了し、来客達は皆帰路についた。後片付けが終わり、終業時間になり、紗希は神崎の執務室を訪れた。
紗希は震える手でノックし、許可を得て入室した。神崎は机に向かい仕事を続けており、顔を上げないまま冷たく告げる。
「少し待っていなさい」
紗希は言われた通りにデスクの前に立ち、緊張で硬直している。神崎が書類から目を離し、ようやく彼女を見た。その目には一切の私情を見せない執事の冷静さがあった。
「紗希さん」
彼は椅子から立ち上がり、大股で歩み寄る。
「お客様の前で失態を犯したことについて、説明しなさい」
紗希は唇を噛み締めた。
「はい……私の注意不足でした……」
「そうですね」神崎の声が鋭くなる。
「あなたはメイドとして致命的なミスを犯しました。どんな理由があっても、お客様の前でのあのような失態は許されません」
彼は言葉を選びながら厳しく諭す。
「この屋敷の名誉に関わることです。主人である九条家の評判に傷をつける行為だったことを認識していますか?」
「はい……本当に申し訳ありませんでした……」
紗希の目に涙が浮かぶ。神崎は彼女の頬に伝う涙を見ても表情を変えない。
「このような失態に対してはどういう対処が必要かわかっていますね?」
紗希はゆっくりと頷く。神崎は長年屋敷を支えてきた老執事から代々引き継がれてきた厳しい指導方針に則って行動する。
メイドたちの指導において感情的にならず公正に対処することを徹底していた。
「ここに来なさい」
椅子に腰掛けた神崎は、自らの膝を指差した。その意味をよく理解している紗希は、震える足で神崎の右側に歩み寄った。
彼女は膝の上にうつ伏せの姿勢になるよう促される。
紗希がおずおずと言う通りにすると、神崎の手が彼女のスカートの裾を持ち上げた。
神崎の手がゆっくりと下着にかかり、躊躇なく引き下ろした。彼の手付きには一切の迷いがない。紗希の白く小さなお尻が明るい室内にさらされる。
(は…恥ずかしいっ…!…怜司さん……)
深い関係になり既に裸を見せているのに、執務室という日常的な空間、着衣なのにお尻だけ露出して膝の上という至近距離で見られている現状、あらゆる事が紗希の羞恥心をかきたてた。
そんな紗希の心情に構わず、神崎は冷静に告げる。
「では、今日の失敗のお仕置きとして、50発叩きます。しっかりと反省しなさい」
「…はい……」
バシッ!
紗希が目を閉じると同時に、神崎の平手が彼女のお尻に振り下ろされた。最初の一打は加減されていたが、紗希の身体は驚きと羞恥で震えた。
バシッ!バシッ!ビシッ!
二度目、三度目と平手が落とされる。紗希は唇を噛み締めて耐える。神崎の腕は一定のリズムで動き、紗希の肌が徐々に紅潮していく。彼は一切の感情を表に出さず、淡々と「教育」を行っている。
「このような失態を二度と繰り返さないと誓いなさい」
「誓いますっ……」
「口先だけでなく、行動で示すことです」
さらに五打、十打と続けられる。紗希の声が次第に震え始め、小さな嗚咽が漏れるようになった。しかし神崎の表情は変わらず冷静で、そこに上司としての責任だけが見える。
30回を過ぎたあたりで、紗希の我慢の糸が切れた。
「うぅっ……もう許してください……!」
紗希の声に涙が滲む。神崎は手を止めず、「あと20回です。しっかり受け止めなさい」と冷静に言い放った。その声音には全く私情が含まれていない。
「あぁっ……!」
打撃の強さが僅かに増した。紗希の身体が無意識に逃げようとするが、神崎の左手がしっかりと彼女の腰を押さえつけている。
「動かないで」
35回目。紗希の肌は赤く染まり、痛みのあまり呼吸が乱れる。
「もうっ……ごめんなさい……ああっ!」
紗希の懇願が途切れた。涙が床に落ちる。神崎の表情は依然として冷徹なままだ。
40回目を過ぎる頃には、紗希の泣き声が大きくなっていた。
「ごめんなさい……本当に……もうしませんから……!」
紗希の震える声が執務室に響く。しかし神崎の動きは止まらない。
「45回」
紗希の全身が小刻みに震える。
神崎の声には微かだが確かに何かの感情が滲んでいた。
彼は最後の5回を特に強めに打ち込んだ。紗希の肩が大きく震え、「あぁあっ!」という悲痛な叫びが上がった。
「50回。終わりです」
紗希は嗚咽を漏らしながらうつ伏せの姿勢のままだ。
「さあ、立って。服装を整えなさい」
神崎の言葉に紗希はゆっくりと立ち上がり、涙を拭いながら下着を戻し、スカートを整えた。
下着を上げる際に、紗希は違和感を感じて息を飲んだ。内腿に伝う熱い感覚……間違いなく濡れている。神崎による厳格な「お仕置き」の最中、彼女は痛みと共に奇妙な感覚も覚えていたことに気づいた。羞恥と混乱で顔が火照る。
「紗希さん」
神崎の低い声に紗希は飛び上がりそうになった。まさか気づかれたのか。彼女は慌てて表情を取り繕い、「はい」と応える。
「今日の痛みを忘れずに。二度と同じ過ちは犯さないように」
「はい…ありがとうございました…失礼します…」
紗希は一礼し、執務室を立ち去ろうとドアへと向かいノブに手をかけた。
その時、背後から音も無く神崎が近付き、紗希の腕をぐっと掴んだ。
「えっ!?」
「紗希さん、こちらに来なさい」
神崎は有無を言わせず紗希の腕を引き、執務室の奥の神崎の部屋へと連れ込んだ。
「あ、あの…」
戸惑う紗希をよそに、神崎は後ろ手に部屋の鍵をかけた。
紗希が連れて行かれたのは、普段は立ち入ることが許されていない神崎の個室だった。質素だが品のある調度品が並ぶ空間に足を踏み入れると、扉が閉まる音がやけに大きく響いた。
「怜司……さ……ん?」
言葉が途切れがちになるのは、紗希自身、この状況を理解できなかったからだ。執務室での厳格な態度からは想像もつかない行動に、心臓が早鐘のように打つ。
紗希が何も言えずに立ち尽くしていると、突然、神崎の逞しい腕が彼女を捉えた。強い力で抱きしめられ、呼吸すら困難になる。
「……っ」
息を詰める紗希の耳元で、低く掠れた声が響いた。
「……すまない」
その声に含まれるのは、先ほどの執事としての厳格さではなく、一人の男としての深い懊悩だった。神崎の腕がわずかに震えているのが伝わる。
「どうして……謝るんですか?」
紗希は混乱と困惑で思考がまとまらない。さっきまでの毅然とした姿勢から一転した神崎の態度に戸惑いながらも、密着した身体を通じて伝わる体温と鼓動に、別の意味で心拍数が上がってしまう。
「紗希……」
神崎の声には苦渋の色が滲んでいた。
「あのような……冷たい態度……執事として君を罰するためとはいえ……心が……」
神崎の声が途切れ、しばらく沈黙が流れた。紗希はその腕の中で静かに息を潜める。彼女の心臓は激しく鼓動し、先ほどのお仕置きとは異なる種類の緊張で身体が強張っていた。
やがて神崎がゆっくりと紗希を解放した。少し距離を取った二人の視線が交差する。紗希の瞳には困惑と微かな恐怖、そして何かを悟ったような表情が混在していた。神崎の顔には先ほどまでの冷徹さは消え去り、複雑な感情が浮かんでいる。
紗希は小さく息を吸い込み、意を決したように口を開いた。
「怜司さん……どうして?謝らないで……」
彼女の声は震えていたが、そこには何かを理解しようとする真摯さがあった。
神崎は目を細め、紗希の姿を見つめる。その表情からは先ほどまでの上司としての仮面は剥がれ落ちていた。
「先ほどの……あれは……」
言いかけて神崎は言葉を詰まらせた。
紗希はその続きを待つかのように神崎の瞳を見つめたまま黙っている。二人の間に流れる空気は張り詰めている。紗希の頬が赤く染まり、視線を伏せてしまった。
神崎は深く息を吐き出すと、ゆっくりと言葉を選んで話し始めた。
神崎の声には苦悩が滲んでいた。
「君をあのような方法で罰するのは……私にとっても耐え難かった……」
紗希は息を呑んだ。そして次の瞬間、ふっと微笑んだ。その笑顔には微かな痛みと、それを乗り越えるような強さが宿っていた。
「怜司さんは何も間違っていません」
紗希の声は落ち着いていた。
「私は九条家の…貴族のメイドです。メイドとして当然の罰を受けただけです」
紗希は顔を上げて真っ直ぐ神崎を見つめた。その眼差しに一片の曇りもない。先ほどの涙の跡が残る頬に浮かぶ笑顔は儚くも美しく、神崎の心を射抜いた。
「だから……お仕置きされて当然なんです。悪いのは……失敗をした私なんですから」
神崎は一瞬言葉を失ったが、すぐに柔らかな表情に変わり、そっと紗希の頬に手を伸ばした。その温もりに紗希は思わず目を閉じた。
紗希の言葉に神崎は心が軽くなるのを感じていた。
「ありがとう…」
優しくささやきながら、神崎は紗希に口づけた。
神崎の手が紗希の頬から離れると、彼は優しい眼差しで彼女を見つめた。
「紗希……」
低い声に込められた気遣いに、紗希の胸がきゅっと締め付けられる。
「実は……これを用意していたんだ」
神崎はベッドサイドの小さな引き出しからプラスチックの容器に入った塗り薬を取り出した。
「仲野先生からもらっておいたんだ。打ち身には効果があるから…」
神崎の口調は断固としていたが、その目には優しさが宿っている。
「僕に……君のお仕置き後のケアをさせてくれないか」
紗希は言葉を失い、頬が赤く染まっていくのを感じた。神崎の申し出に心臓が激しく鼓動する。
「ですが……そんな……」
「命令ではないんだ。君の許可が必要だけど…」
神崎は紗希の目をまっすぐ見据えた。紗希はしばし逡巡した後、小さく頷いた。
「お願い……します」
神崎は安堵の表情を浮かべると、ベッドへと彼女を導いた。
「うつ伏せになって楽にして。まずは濡れタオルでよく冷やそう」
紗希は指示された通りに神崎のベッドに横たわった。清潔なシーツの感触に少し安心するが、これから起こることを考えるとやはり恥ずかしさが募る。
「スカートを上げてもらう必要があるけど……」
「はい……」
紗希はためらいがちにスカートの裾を持ち上げた。神崎の視線が自分のお尻に向けられていると思うと全身が熱くなる。
「下着を下ろすよ…」
神崎はゆっくりと慎重に紗希の下着を下げた。痛む肌に触れぬよう細心の注意を払い、指先が布地を滑らせていく。
「……っ!」
紗希は思わず息を飲んだ。下着が完全に下ろされ、外気に触れた肌がひんやりと感じられた瞬間、彼女は自分の下半身が異常に濡れていることに改めて気づいた。
「あ……」
紗希の喉が乾く。下着が肌から離れるとき、透明な糸のようなものがわずかに引き延びるのを感じた。神崎の視線を感じて顔から火が出そうになる。
「紗希……」
神崎の声には驚きよりも優しさが滲んでいた。
「これは……」
言葉を探しあぐねている神崎に、紗希は真っ赤になって身を縮めた。
「み、見ないでください……!こんなの………!」
紗希の声が震える。涙がこぼれ落ちる。
「恥ずかしい……こんな時に……どうして……」
彼女の身体は恥辱と混乱で小刻みに震えていた。神崎は静かに彼女の背中に手を置いた。
「紗希……泣かないで」
温かい手のひらから伝わる安心感に紗希の震えが少し和らぐ。
「こんなことで恥ずかしがらなくていいんだ」
神崎の声は柔らかかった。
「僕も……同じだから」
「え……?」
紗希は涙に濡れた瞳で振り返った。
「僕も……君を膝に乗せて叱っていた時から、内心では興奮してしまっていたんだ」
神崎は自らの下半身に視線を落とした。つられて紗希も目をやると、確かにズボン越しに膨らみがわかる。
「怜司さんも……?」
紗希の声が驚きと安堵で少し落ち着きを取り戻した。
「ああ……執事として冷徹に振る舞おうとしても……男としては別の気持ちがあった」
神崎は紗希の濡れた内腿に視線を落としながら続けた。
「…僕達はもう、ただの執事とメイドではいられないみたいだ」
紗希の目に新たな涙が浮かぶが、今度は安堵の涙だった。
「怜司さん……ありがとうございます」
「まずはケアをさせてほしい。痛みを和らげたい」
神崎はタオルに水を浸し、絞りながら言う。
「大丈夫……何も恥ずかしいことはないよ」
紗希は小さく頷き、再びうつ伏せになった。神崎の手が優しく紗希のお尻に触れる。痛みと恥じらいが混ざり合う中、紗希は神崎の温もりに包まれていくのを感じていた。
神崎はタオルを絞ると、そっと紗希の腫れた部分に当てた。冷たさに紗希は最初びくりとしたが、すぐにその心地よさを感じ始めた。
「冷たくて……気持ちいいです……」
紗希の声はまだ少し震えていたが、徐々にリラックスしてきたようだ。神崎は何度もタオルを冷水に浸しては絞り、優しく紗希の肌に当て続ける。冷たいタオルが熱を持った部分を鎮めていく。
「こうやって冷やすと早く回復するはず。痛むところがあれば言ってくれ」
「大丈夫……です」
紗希は目を閉じて答えた。神崎の手つきは驚くほど繊細で優しく、痛みよりも心地よさの方が勝ってきた。
「…今まで何人ものメイドをお仕置きしてきた」と神崎は静かに語り始めた。
「執事として当然のことだと思っていた」
紗希は息を殺して聞いていた。タオルが彼女の肌から取り除かれると同時に、新しい冷たい布が当てられる。
「でも……」神崎の指先が微かに震えた。
「今回は違ったんだ」
「違い……ですか?」紗希が小さく尋ねる。
「ああ……」神崎の声には珍しい躊躇いがあった。
「君を膝に乗せている間、ずっと……」言葉を探すように彼は沈黙した。
「ずっと……?」紗希の好奇心が覗く。
「ずっと……心が乱れていた」神崎は正直に告白した。
「君を罰しながらも……君の反応に興奮してしまったんだ」
紗希の頬が赤くなる。
「怜司さんも……」
神崎は紗希の髪をそっと撫でた。
「誓って言うけど、こんな感覚になったのは君だけだ」
タオルの冷たさと神崎の言葉の熱さに紗希の感覚が研ぎ澄まされる。
「お仕置きする時……」神崎は真剣な眼差しで続けた。
「常に緊張感を抱えているんだ。強く打ちすぎて怪我をさせてもいけない。かといって弱すぎて罰として効果が無ければ意味がない」
紗希は初めて聞く神崎の苦悩に胸が痛んだ。
「バランスを取るのが難しい。力加減もそうだし……自分の気持ちのコントロールも…だから普段は…その…」
神崎は言いにくそうに言葉を続ける。
「…欲情するような余裕は全く無いんだ!」
「え…!?」
思いもかけない神崎の言葉に、紗希は思わず体を起こして神崎を見つめた。
「つまり…お仕置きに乗じて誰にでも変な気分になってるわけじゃないって事を…君に…知って欲しくて……」
紗希は驚きのあまり目を見開いた。神崎が恥ずかしそうに言葉に詰まる様子を見て、彼女の中にあった神崎へのイメージが少しずつ変わっていく。
「そ、それじゃあ……」紗希は慎重に言葉を選んだ。
「今回が特別……ってことですか?」
神崎の耳まで赤くなり、彼はタオルをぎゅっと握りしめた。
「そういう……ことだ」
紗希の心臓が早鐘を打ち始めた。こんな神崎の姿を見るのは初めてだった。いつも凛々しく冷静な執事の一面を知ることができて、どこか親近感を覚える。
「この先も執事としてメイドにお仕置きする事になるけど…」
神崎の言葉に紗希は優しく微笑んだ。
「怜司さんの事、信じてます」
「…ありがとう…」
神崎もほっとしたように微笑んだ。
タオルによる冷却で、紗希の赤みが和らいできた。痛みも随分と軽くなっているが、それでもまだヒリヒリする感覚はある。
「そろそろ薬を塗ろうか」神崎は薬の容器の蓋を開けながら言った。
「はい……」紗希は小さな声で答える。再びうつ伏せになると、神崎の指が薬を取るために動くのが感じられた。
冷たい感触が肌に触れる。神崎の指先は驚くほど優しく、紗希の赤みの残る部分を丁寧になぞっていく。紗希は目を閉じて深く息を吐いた。
「……もっと強く塗ってもいいんですよ?」
彼女の言葉に神崎は微笑んだ。
「いや、こういうものは優しく塗るものだよ」
薬は少量ずつ取りながら塗られていく。痛みと恥ずかしさの中にも確かな愛情を感じる時間だった。
「どう?」
紗希は少し考えてから答えた。
「だいぶ……楽になりました」
「よかった……」
紗希が感じた痛みは嘘ではなかったが、それ以上に神崎の愛情が彼女を救ってくれた。お仕置きの後のケアという名目の行為を通して、二人の絆はさらに強くなったように感じられた。
「これでおしまい……」
神崎の手が離れた瞬間、紗希は安堵の溜息をついた。しかしそれは終わったという安心感だけでなく、どこか寂しさも伴っていた。
「ありがとうございます……怜司さん……」
紗希はゆっくりと起き上がりながら言った。
「いや……こちらこそ……」
神崎も立ち上がると、紗希に手を差し伸べた。
「今日はもう休んだほうがいい。明日には良くなっているだろう」
神崎の眼差しは優しく紗希を見つめていた。紗希はその手を取り立ち上がると、そのまま神崎に抱きついた。二人はしばらく無言で抱き合った。互いの存在を確かめ合うように。
紗希は神崎の胸に顔を埋めながら思った。この人が側に居てくれれば、どんな痛みも乗り越えられるだろうと。そして今夜だけは……この暖かな時間に溺れていたいと思った。
「…紗希…考えたんだけど…」
神崎の言葉に紗希の胸が跳ねた。彼女の肩に置かれた神崎の手に力が入る。
「……もう隠しておくのは無理だと思うんだ」神崎は静かに言った。
「君への好意があからさまに出てしまっているし……いつまでも秘密にしておくのは難しい」
「はい……」
紗希も薄々気づいていた。最近の神崎の態度の変化は周囲も敏感に察しているかもしれない。
「明後日の全体集会で発表しようと思っている」
「えっ!?」
紗希の声が裏返る。
神崎は真剣な目で紗希を見つめた。
「噂が広まってからでは遅いんだ。僕たちの意思で正式に伝えるべきだと思う」
紗希は神崎の決意を感じ取り、反論する言葉が見つからない。
「紗希……怖い?」
「……はい…嬉しいけど…みんなになんて言われるか…」
「正直な気持ちだね」神崎は優しく微笑んだ。
「でも信じてくれ。僕は君を守る」
神崎の言葉には揺るぎない自信があった。紗希はゆっくりと頷く。
「わかりました……」彼女は決意を固めたように言った。
「怜司さんと一緒に頑張ります」
「ありがとう」神崎は紗希の頬にそっと触れた。
「僕たちなら大丈夫だよ」
部屋に静寂が流れる。二人は窓から見える月明かりを見つめながら、これからの道のりについて思いを馳せていた。




