惨状
「どういう事だ……これは……!」
フィルが騎士団庁本部をめちゃくちゃにした少し後、王城より来た集団がいた。
第3王子とその護衛の二人である。
そしてその後ろには特別監査隊と呼ばれる組織の者達がいた。
めちゃくちゃにされた騎士団庁本部を見て、彼らはそれぞれ匂いと魔力の濃さに顔を歪ませる。
その集団の中には、フィルが何かになる前に宿舎から飛び出した者もいた。
時は少し遡り、フィルがボコボコにされていた時に隣にいた抜け出した所に遡る。
彼は騎士団庁本部のすぐそこにある王城へと駆け込んだ。
しかし騎士団内での揉め事を王城の者達が対応するはずもなく、渋々帰ろうとしたそのとき、彼はある人物に声をかけられた。
第3王子のゴーディハイムだ。
護衛の二人も付いている。
「とても焦ったように衛兵に詰め寄っていたが、いかがなされたのかな?」
王族とは貴族という権力が集中した存在のトップ。
とても軽々しく平民に声をかけるものではないと、男は思っていた。
事実騎士団にいた貴族は全員そうだった。
ごく稀にいる親切な貴族は大体どこかしらへ左遷させられたりいなくなってしまう。
それゆえにこの国の貴族の認識を間違えていた。
ハイゼラード王国の貴族は基本平民に対しても人間として接する。
騎士団がおかしいだけなのだ。
「ぁ……ぅ……」
「! 大丈夫か!」
安心したのか、その男は急に泣き出した。
まるで地獄から抜け出した子供のように。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。話はちゃんと聞きますから」
「……実は……」
男はゴーディハイムに事情を話した。
フィルという男が副騎士団長の犯した愚行の責任を取らされていること、それによりいじめを受けていることなど洗いざらい話した。
それを聞いたゴーディハイムと護衛の二人は耳を疑った。
そして、
「っ、そのフィルという者の名前は、フィル・パットンか……!?」
「え、は、はい、そうです……」
「どういう事だ……」
「第3王子……どうなされたので……?」
「フィルは、フィルは私のクラスメートだ!」
「なんですって……!」
「アイツが騎士団に入ったのは知っていたが……」
「フィルなら確かにすぐに名前をあげると思って気にしていなかったが……確かに全く話を聞かなかったわね」
フィルの実力はこの場にいる誰よりも理解している3人。
フィルというゼニスとフリーナの次ぐ実力を持った人間が何故名前が上がらないのか、今までになんとも思っていなかった。
だが今回改めて知らされたことで彼らは気づく。
フィルの功績が騎士団の上層部に取られている。
ということに。
「前々から騎士団が腐敗していたと言うのはある程度理解していたが……そこまではだったとは……! デザリア、ミリア。君たちは特務監査隊隊長に掛け合ってくれ。私は父上に特務監査隊を動かすよう言ってくる! 君はここで待っててくれるかい?」
「は、はぁ……」
鬼気迫る様子でゴーディハイムが護衛の二人に命令を下す。
そしてゴーディハイムが優しい表情で男に、ここで待つように伝え、すぐに王城の方に駆け出した。
「なんだったんだ……」
男が呆けて、何が起こったのか脳を整理する。
ゴーディハイム第3王子がフィルと同級生で、クラスメートだった。
そんな話は噂でも、当人からも聞いたことはない。
そのことを言えばフィルもあんな事をされることは無かっただろうに。
フィルは、今どうなっているのか、そんなことを男が考えていると騎士団の方からドォォォォォン!という爆発音という音が聞こえた。
「な、なんだ……!?」
「っ、何事か……!?」
近くにいた衛兵達も異常な事態に驚く。
「一体……何が……」
「すまない、遅れた」
ゴーディハイム第3王子が数人の男達を引き連れて戻ってきた。
彼らは特別監査隊と呼ばれる王家直属の部隊。
彼らの存在はほぼ公にはされておらず、その存在を知るものは王家とそれに近しい者だけ。
「……あれはいったい……」
「わかりません……ただ急に爆発したとしか……」
「っ、嫌な予感がする……お前達、急ぐぞ! 君も、ついてきてほしい。何が原因かはわからないがあの規模となると間違いなく数人は死んでいる……」
それに、ゴーディハイムの懸念はそれだけでない。
あれが、もし、副団長とその取り巻きによるイジメによって精神的なリミッターが外れたフィルが起こしたものなら……という不安がよぎる。
行く最中に何度か爆音が鳴り響く。
「っ……この魔力……!」
3人は騎士団庁本部の中でフィルの魔力が暴れているのを察知した。
ゴーディハイムと護衛の二人が足を早める。
バン!と騎士団庁本部の門を開けた時にはその魔力は消え失せ、パチパチと燃える建物と多くの死体だけが残っているのみ。
「どういう事だ……これは……!」
辺りに魔力と血と肉が撒き散らされている。
「誰か、誰かこの状況を説明できる者は!」
ゴーディハイムが周りを見ながら言う。
しかし誰も手を挙げない。
「誰か!」
その声に手を挙げる者が一人。
レンだ。
「……アイツが……フィルが団長と貴族出身の団員達を……殺していました……」
その言葉にゴーディハイムと護衛の二人は狼狽する。
「そんな……フィルがそんなこと……!」
「嘘だったら容赦しねぇぞてめぇ!」
デザリアが激昂してレンの胸ぐらを掴む。
「アイツが、アイツがそんなことをするはずねぇだろうが!」
「で、ですが本当なんです! 俺だってまだアイツがあんなことをしたなんて信じられない……」
「っ……」
「デザリア、落ち着け。気持ちは分からんでもないが、今それをしたところで何も変わらない」
「……はい……」
デザリアがレンを下ろす。
「くそぉ!」
やり場のない怒りにデザリアは地面を殴る。
ドォン!と地面が軽く凹む。
やり場のない怒りを抱えているのはミリアも、ゴーディハイムも同じだ。
「…………調査を進めろ。それと騎士団の不正についてもだ。現状の騎士団で生き残っている責任者は誰だ?」
「わ、わたしです」
ゴーディハイムが周りを見ながらいうと、出てきたのは灰色の髪をした中年の男性だ。
階級章を見ればどうやら中隊長だった。
「中隊長……?」
「え、えぇ。私以上の責任者は全員フィルに殺されてしまって……1番立場が高いのはもう私しか……」
どうやら中隊長は平民出身でフィルにも気を掛けていた人物だそう。
あの場にいたものの、隊長以上の立場の中で唯一生き残っていた者だ。
何故隊長以上の者が他に生き残っていないのか。
なんの因果関係か他の者達は全員、フィルをいじめていた貴族出身の団員。
偶然と言い切るにはできすぎている。
あり得ないだろう。
ではフィルが自らを虐めていたものを自らの意思で殺した?
それこそあり得ない。
フィルは悪口を言うことはあってもそのような行動に出ることはない。
どんな悪人であろうと慈悲を持って接していた。
それがゴーディハイムが見たフィルという男だった。
「そうか、では中隊長。君を暫定の騎士団長に任命する。父上からはある程度の裁定権はもらってるから大丈夫だ。それと……君!」
「は、はい!」
「名前は?」
「レンです」
「そうか。ではレン。少し来てくれるか?」
「わ、わかりました」
ゴーディハイムと護衛の二人、そしてレンは調査を特務監査隊に任せて王城へと向かった。




