不当
その後魔物を殲滅したフィルは魔物の素材をいくつか持って帰り、騎士団に渡し、その後休息に入った。
(それにしてもあの魔物の巣の魔物…………平時とは比べ物にならないほど強かった。やっぱりなにかが起きているのか……? あぁくそ、久々の戦闘で体力を使いすぎた……)
フィルは先の戦闘で体力を消耗し過ぎたため、その場で寝た。
翌々日。
フィルは騎士団庁本部に呼び出されていた。
「統括司令部からの出頭命令?」
「そうだ。先日我が軍が犯した失敗と、その後の動きについての参考にな」
「はぁ……まぁ僕で良いのなら行きますが」
「そうだ。さっさといけ」
いつもとは違って、変の高圧的な態度をとってこない騎士団長。
ほんの少しの違和感をよそに、フィルは統括司令部へと向かう。
少しして隣の部屋から入ってきたのは騎士団長の息子。
ニヤニヤと人を舐め腐った顔をしている。
「あーあ、ばっかだなぁあいつ」
「はっ、所詮は蛆虫平民だったと言う訳だ。ワシの騎士団の箔に泥を塗るような平民ぞ」
「親父、それで? あいつが呼ばれたのはどんな理由なんだ?」
「騎士団が犯した失敗は、あいつが考えなしに魔物の巣へと突撃、我が騎士団へ大きな被害をもたらそうとした……そこを我ら騎士団長と服騎士団長が魔物を制圧した。そういう筋書きだよ
「おぉ、さすが。でも流石にボロが出るんじゃないか? あそこにいた団員どもは平民だが数は多かったぜ?」
「大丈夫だ。すでに金は握らせて他言無用と言いつけてある……あぁ、一人受け取ろうとしなかったら愚物もいたか。だがあいつは今懲罰房にいる。漏れる心配はないさ」
「さすが親父! これであいつの評判はさらに下がり、それを止め魔物を制圧した俺たちの功績がどんどん増えると。最高じゃないか!」
「そうだろうそうだろう!」
彼らは今までにも、何度かフィルから功績をむしり取っている。
とは言え今までは、せいぜい魔物の素材の数がやや増減したりと言った事なのだが、今回こうも大胆に彼らが行動を起こしたのには理由がある。
フィルが呼び出された統括司令部。
つい先日そこの長官が変わったのだ。
それが彼らが行動を起こした理由だった。
その長官は騎士団長の従兄弟、つまり身内だ。
騎士団が何か問題を起こした際に介入する統括司令部。
しかし騎士団に対するリミッターの役割を果たすはずの組織の長が、騎士団の暴走の中心人物の身内である。
これが意味する事は、騎士団がある程度暴走しようとそこで処理が出来るのだ。
例えば、今回の件であれば、副騎士団長が行った行動を全てフィルに着せる事だって……。
騎士団長が席から立ち、窓の外に出る広がる王都を見てニヤリと笑う。
「ふっふっふ、あいつは今頃こう思ってるだろうな」
わけがわからない。
「貴様は一体何をしでかしたのかわかっているのか」
一体何故自分は怒られているのか。
何故自分は目の前にいる司令長官に怒鳴られているのか。
何故自分は司令長官の護衛二人に軽蔑した目で見られているのか。
「貴様が魔物の巣と接触し刺激した事で騎士団は甚大な被害を覆うところだったのだぞ!」
違う、それは副騎士団長がやった事だ。
自分じゃない。
「騎士団長と副騎士団長の活躍で魔物は殲滅、事なきを得たが……貴様は重大なミスを犯した!」
何を言っているんだ……?
魔物を殲滅したのは僕だ。
何故騎士団長がやった事になっている……?
「なにか反論はあるか!」
「っ……僕はやってません!」
実際やっていない。
やったのは副騎士団長だ。
フィルは知らなかったが、相手は騎士団長の身内。
そんな反論が受け入れられるわけもなく。
「うるさい! やったやつは皆そう言う!」
「本当です! 信じてください!」
「だまれ! お前がしたことは王国の民を危険に晒す事だ!」
「本当に……僕は……!」
「このっ!」
護衛の片方が腕を振り上げる。
「やめろ。お前の手が汚れる」
「……ちっ」
もう片方の護衛に止められ殴ろうとしてきた護衛は腕を止める。
なんとか殴られずに済んだが、それは大した問題ではない。
「いったい……なんで……」
「お前は謹慎処分とする。騎士団庁本部で反省するんだな」
「ま、まって……!」
しかしその言葉が司令の耳に入る間も無く、フィルは護衛に司令の部屋から追い出された。
「ふん、国賊が」
護衛に軽蔑した目を送られ、フィルは意気消沈のまま騎士団本部へと戻る。
フィルは重い体を鞭打ちながら騎士団庁本部の騎士団長の部屋へと向かう。
「失礼、します」
「おぉ! よく帰ってこれたなぁ? 反逆者くぅん? がっはっはっはっは!」
下品な笑みを浮かべながら声をかけてくる騎士団長。
それをニヤニヤと眺める副騎士団長。
「やはり、あれはあなた達が……!」
「おっとぉ、ここで暴力沙汰になればお前は騎士団を除名だ。そんな事はお前の望むところではあるまい?」
「うっ……」
「そうだ。騎士団をやめたくなかろう? なら俺たちの言うことを聞けばよい。いいな?」
「……はい……」
「なに、お前の仕事場は用意してやってる。せいぜいそこで反省するんだな!」
フィルは騎士団をやめたくない。
そこにどんな理由があるのかわからないが、フィルの騎士団への熱意は本物だった。
学院時代は騎士団に入って活躍したいと、そう漏らしていた。
憧れの騎士団をやめるなんてあり得ない。
フィルはそう思っていた。
その心がすでに限界を迎えつつあると知らず。
その後フィルはやってもいない事への反省文、釈明文を書かされる事になった。
フィルが家に帰る頃にはすでに日は落ちていた。
「はぁ……」
度重なる心労で、フィルは心も体もボロボロだった。
「おかえり……」
「ただいま〜!」
玄関に入るとメルディアがそう言ってくれる。
メルディアとはもう結婚も考えてある。
フィルの初恋の相手であり、最愛の人。
彼女のためにも、今騎士団をやめるわけにはいかないのだ。
「フィル、ごめんね。ちょっと今日学院の研修がなんでか夜にあって今からでも学院にいかなくちゃいけないんだけど……」
「いいよ、行っておいで。僕は勝手にご飯食べてくるから」
「ありがと。それじゃぁまた明日」
メルディアがそそくさと家から出て行く。
「はぁ……今日のご飯ぐらいは食べられるか」
今回の冤罪の件で、フィルは懲戒処分を受けており、3ヶ月の給料が全て払われない事になっている。
手持ちのには私兵団で稼いだ分の残りがまだあり、3ヶ月ぐらいなら耐えられるだろうとフィルは踏んでいた。
「…………ご飯食べにでも行くか……」
フィルは家を出て近くにあるバーへと向かう。
「らっしゃい」
「おっちゃん。いつもので頼む」
「あいよ」
バーのおっちゃんは慣れた手つきでいつも飲んでいる物を出してくれる。
出てきたカクテルをグビッとフィルが飲む。
「なんだ、フィル。なにかあったのか?」
「いや……ちょっと職場でね」
「ほーん、何かあったらうちの息子にいえよ」
「いやいや、レンばかりに頼っちゃうと……ね」
このバーのおっちゃんはレンの親父なのだ。
そしてレンは騎士団にくる前は官僚として王城に務めていた。
レンはそこそこ立ち回りがよく、上に気に入られておりレンが今の騎士団について上に報告すれば1発なのだ。
だがレンも騎士団に入ったことでそれが難しくなった。
上に報告したことがバレれば何をしでかされるか分かったものではない。
何かしらの刺客を送り込まれる可能性だってある。
「はぁ……」
「なにか、悩みでもあるのですか?」
「へ?」
隣の席に誰かが座り、フィルに声をかける。
酒によって視界がおぼつかないフィルが隣を見る。
「失礼、わたしはロイエー・アトファーディーと言うものです。なにか、事情がありそうだったので声をかけさせてもらいました」
「あぁ……実は職場でね……」
その女は常に柔和な笑みを浮かべており、どこか安心する。
フィルは見ず知らずの女に自分が先程体験した理不尽な出来事について話す。
女は自分のことのように心を痛めたように悲しげな表情を浮かべる。
「なんと……恐ろしいことを……」
「何故僕があんな目に合わないといけないんだ……! 僕は何もやっていないのに……!」
アルコールで感情が高ぶったフィルが大きな声で怒鳴る。
周りに客はいないので変に注目を浴びる事はなかったが。
「本当にそうですねぇ……」
「君も……そう思うだろ……!」
「ですね。でもそんな事があったのなら友達に助けを求めなくて良いのですか?」
「…………いや、アイツらに僕のこんな姿見せたくない。アイツは俺なんかより色々できるやつなんだ。心配を掛けたくない」
フィルはゼニスと長い付き合いだ。
だいたいのことは分かり合えるし、理解できる。
だが、だからこそ、フィルはそんなゼニスに迷惑をかけたくないと考えていた。
「…………なるほど、では自分で解決するしかありませんネェ……」
「そうだね……また明日から辛いだろうけど頑張るよ」
「……そうだ。あなたに良いものをあげますよ」
ロイエーと名乗った女はポケットから紫色の球体を取り出す。
「これはある種の精神安定剤のようなものです。私も良く飲んでいますがなかなかに美味しくて良いですよ? あなたも飲んでみますか?」
フィルはその魔力を放った球体を眺める。
酒を飲んでいない時ならば断っただろうが、今は酔っている。
正常な判断が下せないまま、フィルはそれを手にとる。
引き込まれるような魔力を持ったそれをフィルは口に入れる。
「……っ、美味しい……」
「でしょう? 実はそろそろ販売するお菓子の感想をお聞きしようと思ってまして、ちょうどいいのです食べてもらったんです。お味はいかかがですか?」
「……ちょっと酸っぱくておいしい」
「でしょう? 私共が作ったお菓子は無料で差し上げます。ぜひ販売したら買ってくださいね?」
「あぁ……」
「それでは、またお会いしましょう。フィルさん」
そう言って柔和な笑みを浮かべたままロイエーは代金を払って店から出て行った。
その笑みの意味を理解する者はいない。
「…………明日からまた頑張るか……おっちゃん、僕はもう帰るよ」
「おう、またこいよ〜」
フィルも代金を支払って店から出て行いった。
そして━━━。
そう言えば




