勲章授与式
「はぁ、緊張する……」
「こういうのは流石に初めてかい?」
「当たり前だ。こんな経験一回たりともしたことがない」
「ふふっ、だろうね」
控室で制服を着てレインと話していると控室の外から声が聞こえた。
『それでは、此度の叙勲者を発表する。叙勲者は壇上へ』
「はぁ……気はのらねぇが行ってくるか」
「行ってらっしゃい」
時は少し遡り一昨日、マゼンタと戦ってから三日が経った頃だ。
「はぁ……勲一等……何それ」
王城の医務室で回復魔法を掛けながら少しずつ身体を治していって、もうすぐで完治と言ったところに、レインから知らされた。
「勲一等とは我が国に功績をもたらした、あるいは国防の一躍を担う活躍をしたものに与えられる勲章だよ。数ある勲章の中でだとだいたい真ん中ぐらいかな」
「へぇ……なんでそんなものを」
「そりゃ君が悪魔を討伐したからに決まってるじゃないか。人工の悪魔とはいえ悪魔は悪魔。放置すれば王国が滅亡する可能性すらあったんだよ?」
「でもマオルナはともかくマゼンタを逃がしちまったしなぁ……」
「いいんだよ。それは逃したんじゃなくて、相手に撤退を選ばせたって事だから」
「ひでぇ方便だ」
「それともう一つ褒美があるから楽しみにしていてね」
「叙爵以外で」
「当たり前だよ」
叙爵以外にものがもらえるのならもらおう。
金でもいいぞ?ゴードンおじさんよ。
「それで、あの後はどうだった?」
「そうだね。まず騎士団に人たちが主導で君たちが向かって言った山の周辺を包囲、一般人が近づかないように伝達してくれていたよ。最初の建物の付近は近隣住民には一回避難指示が出て今は再建に取り掛かっているところだよ」
「…………その建物再建費用っていくら?」
「うーん、軽く大金貨500枚くらい?」
「うへぇ……それ壊したの私なんだけど……ポケットマネーから足りるかな……」
「大丈夫だよ。マゼンタが壊したって事にしたから」
「おぉ……ってそれ大丈夫なのか……?」
「王族特権ばんざーい」
「ダメなやつだなこれ」
ありがたいけどもよ。
「まぁそもそも仮に君が壊してたとしても緊急予算が組まれるタイプだから問題ないんだけどね。一応だよ」
「まぁありがたいのはありがたいな……」
「まぁよくやったね」
レインが頭をポンポンと撫でてくる。
くすぐったい。
やめろよ、と言いたいが、別に悪い気はしない。
そして本日。
「それでは、叙勲者を発表する。叙爵者は壇上へ」
ゴードンおじさんが壇上の台でマイクに向かって喋る。
それに合わせて私は控室から出て壇上へと登っていく。
学院の講堂はどうやらこういう国家の行事おいても使うことがあるらしい。
ゴードンおじさんの前に言って、ゴードンおじさんの言葉を待つ。
「リーシャ・フォートレス」
「はい」
「此度、貴公が成したのは、王立学院に現れし世にも珍しき悪魔を討滅し学院の秩序と平和を守り、また多くの知恵を我らに共有し技術の発展に尽くし、そして先日再び起きた悪魔騒動において敵を撤退に追い込んだという働き。誠に見事である」
「ありがたき幸せ」
「それに際し、王家より貴公へ勲章と、とある褒美を授けることとなった。受け取ってくれるかね?」
「謹んでお受けいたします」
「此度の働きを称し、リーシャ・フォートレスに勲特一等と、名誉子爵、そして王立図書館への無制限使用権を授けるものとする。
ちょとまてーい。
なんですかぁ?勲特一等って。
あと名誉子爵ってなんだよ!普通に叙爵されてんじゃねぇか!?これ!
「(ちょ、ちょっとおじさん。名誉子爵って普通に貴族だよな!?私叙爵はしないって言っただろ!)」
「(確かにそう言ったの。だが名誉子爵はあくまで権限や発言力が子爵と同等なだけで叙爵をせずとも与える事に出来るちょっとした称号のようなものなのだよ。貴族としての責務もないしの。だからリーシャが言ってた条件にはちゃんと合致してる!)」
「(あああああああああああああああ!)」
ヒソヒソとすぐ目の前にいうゴードンおじさんを見て小声で叫ぶ。
クソ嵌められたぁ……
「(ほれ、早く拝命すると言わんか。さっき受け取ると言った以上ここで拒否するのはよろしくないぞ?)」
「(ぐぬぬぬ……)」
「つ、謹んで拝命いたします……」
だが、良いこともある。
最後の報酬だ。これが私にとっては非常に重要なものとなる。
そう。王立図書館への無制限使用権。
王立学院で特筆すべき成績を取った生徒に与えられる権利。
これがあれば王立図書館に入って私の前世について何かピンと来る書物があるかもしれない。
これでまた一歩目的に近づけただろう。
まぁ……これがあるなら仕方ないとするか。
特に仕事も無いみたいだし。
ゴードンおじさんが台の上に置いてあった勲章を私の制服の左側、ペリースがついているところの上に手ずから勲章を授与してくれる。
「見事であった」
「あ、ありがとうございます」
いくら見知った人だったとは言え王族と分かり、しかもこんな至近距離だとなかなかに気まずい。
はよおわらねぇかなぁ。
「皆の者、この国を守った若き英雄に拍手を」
ゴードンおじさんの言葉を皮切りに席のあちこちから拍手が鳴り始め、講堂全体が割れんばかりの拍手で包まれた。
「はは……きまず」
こうして勲章の授与は終わった。
もう夜も近いし王立図書館には明日以降。うんそうしよう。
ウラル帝国、某所にて。
月明かりが覗く裏路地にそれはいた。
「はぁ……はぁ……全く…………して……やられてしまいましたね……」
全身に傷跡が残り、特に目立つのは左肩から右脇腹にかけて大きくついた傷跡だ。
先日リーシャと戦い全身に大怪我を多い疲労困憊の状態ながらもなんとか逃げてきたマゼンタである。
天然の悪魔は自然回復で多少の傷はすぐに治るが、あの刀で傷つけられた傷は全くと言って良いほど治っていない。
止血こそしたもののそれで精一杯だ。
「くぅ……ぐふ……」
「随分と手酷くやられたようだな。マゼンタよ」
マゼンタが歩いていると前から歩いてきた老人にそう声をかけられる。
その老人は真っ黒に染まった司祭の服のようなものを着ている。
「……!司祭様……すみません。命令を果たせませんでした……」
「良い良い。我らの計画に支障をきたすほどのことでは無い」
「はっ……」
「時に……おぬしが戦ったリーシャという女。なかなかに強いのだな」
「えぇ……とても人間とは思えぬ強さでした。しかもあの悪魔殺しの刀まで持っていようとは……」
「なんと……!あの刀が……!?」
司祭と呼ばれた老人も驚いている。
事実あの刀は数千年見つかっていなかった、存在するかも怪しい物品。
もう破壊されていると誰もが考えていた。
「あの刀……勇者以外が使うと魔力と生命力を奪い、使用者を蝕む妖刀だ……アレを使えるということは……」
「我らにとっての最大の敵。勇者であると……」
使用者の魔力と生命力を奪うことで力を増す妖刀。
そんなものを振れるものは、かつて悪魔を異界に追いやり、その刀にて悪魔の大半を討伐したと今でも伝えられる勇者のみ。
「あの女は……勇者の生まれ変わり……!道理で人とは思えぬ力を持っていたわけですね……」
「だが奴の力はかつてのものとは比べものにならないほど落ちている。転生して間もないのであろう」
「なれば今ならば……」
「あぁ、我らでも対処は可能であろう。マゼンタよ。これより計画を次の段階へと進める。お主も準備せよ」
「わかり……ました」
「《大聖治癒》」
司祭と呼ばれた老人がマゼンタへ治癒魔法をかける。
すると悪魔殺しの刀につけられた傷を含め一瞬で回復した。
「その身体では何かと不便であろう。治癒しておいた」
「ありがとうございます。司祭様」
「うむ。それでは行ってこい」
「はっ」
マゼンタは司祭へ礼をしてその場から立ち去った。
老人は月明かりをのぞみながらネックレスを手に取り、それを月明かりに通す。
そこには膨大な魔力の塊があった。
「魔王様……いずれ貴方様も……」
そう言って老人はどこかへ消えていった。
これにて第一章第一幕は終わりです
次からは第一章第二幕になります
ぜひ読んでください




