事後処理
「…………そうか、ガルマもいなかったか」
あの後騎士団と魔法師団が、王命の謹慎期間中の許しのない外出をさせた事を名目に、バンデルシア侯爵邸へ突入した。
だが屋敷の中では使用人が数人いただけで、肝心のガルマはいなかった。
私は今父さんとある二人と一緒に王城にある一室のベッドで座っている。
「他に関係のありそうな事はあったか?」
父さんがそう聞いているのは黒い髪に白髪混じりの鎧をきたおじさん。
そして燃えるような赤い髪でところどころ肌が見える形のローブを着た、見た目だけなら妙齢の女性だった。
この前言ってた学生時代の同級生で、鎧を着ている騎士団長の方がデザリア・フォン・ムトラーゲン、魔法師団長の方がミリア・フォン・サザード。
って言ってた。
「いいえ、コレと言ったものは全く。少なくとも魔法で調べた限りはなかったわ」
「あぁ、こっちも同じだ。物的証拠などは全く残っていない」
どうやらガルマ侯爵は雲隠れしたらしい。
まぁ息子があれだけやらかしたらこの国に居づらいのは分かるが、何かそれだけでは無いような気がする。
「そして気になるのはバンデルシア派閥の貴族の動向だ。公爵が一名、伯爵が二名、子爵が一名行方不明になっている」
「うぅむ…………」
「消えたのはバンデルシア侯爵を筆頭とした貴族派の幹部たちだ。侯爵と一緒にどこか逃げた可能性もある」
まだこの国にいる貴族派の貴族たちは今王国の監視下に置かれ、今まで行ってきた悪行について尋問されている貴族もいる。
「図らずともゴードンの思惑通りになったな……」
「そうね。実際アイツら貴族派って私に妾になれって言ってきたり本当にウザかったわ。そんなに私結婚してないように見えるかしら……私」
「まぁ……お前らがくっつくのは意外だったな。学生時代お前らずっと喧嘩ばっかりしてたし」
「……まぁ色々あったのよ」
デザリアとミリアは夫婦らしい。
苗字が違うのは仕事の関係上前の苗字のままのが楽だからだそうだ。
子供も二人いるらしい。
「だが、それ以上に気になるのはマゼンタ・アトファーディーという何かの名前らしい単語のことだ。どういうことかわかるか?」
デザリアが私に聞いてくる。
「…………あ、ちょっと待って」
収納魔法陣からマオルナの身体から出てきた真珠のような物体を取り出す。
「マオルナを倒した時にコレが出てきたんだ。魔力を通してみたら、どうやら魔力はそれに類するものを保管する容器みたいだ」
「ほう、つまり?」
「普通こんなものが人間の体内にあるはずがない。だから誰かが意思を持ってか、何かがこの中に入ってマオルナにコレを飲ませたんだと思う。そしてそれが原因でマオルナは悪魔化したと考えている」
「そうか……良いことを聞いた。協力感謝する」
「…………なるほど、人工的な悪魔ならありえるか……」
「どうかしたのか?ゼニス」
「あぁいや、お前たちも分かっていると思うが、悪魔ってのは本来倒したら身体が崩れて粉末状になるのは分かっているだろ?」
「確かにそういえばそうだ」
「でも今はまだ残っているだろう?」
今マオルナの死体は魔法師団の魔法技術研究課で調査をしている。
人間が悪魔になった例こそ無いに等しいものの、悪魔はごく稀に現れる生物らしい。
とはいえ、先の大戦で悪魔が大量発生する前に現れたのは80年前とのことだから、現在の技術で調べれる事など被害ぐらいだったという。
「えぇ、確かに残っているわ。どこも腐食もしていないし不思議なぐらい綺麗な状態よ」
「やっぱりな。天然物の悪魔じゃなく、人工の悪魔だったから……という可能性がある。それに一つ気になる話もあるしな」
バンデルシア侯爵邸の警備にあたっていた衛兵の証言だ。
その衛兵曰く、マオルナが脱走する2日前にいかにも胡散臭い男がバンデルシア侯爵邸を訪ねてきたらしい。
見た目は普通の人間のそれだったが、どうにも気になっていたようだ。
「なるほど……そいつの見た目は出してもらったか?」
「えぇ、バッチリです」
魔法で衛兵の脳から直接イメージした画像を出す魔道具で出てきた絵を見せてくれた。
飄々とした感じだが、どうにも相手を舐め腐っていそうないけすかない顔をしている。
なんとなくレインを感じる。
「なるほど……こいつがマゼンタ・アトファーディーという可能性は大いにあるな」
「えぇ、すでに重要参考人として指名手配しているわ」
一体コイツが本当に関係しているのか、もししていたとしてなんの目的であんな事をしたのか、皆目見当つかない。
「…………はぁ」
「リーシャ、明日はどうするんだ?」
「行くよ。みんな心配するしな」
「そうか、まぁ少しの間王城に一室借りといたから、辛かったらここに逃げ込むんだぞ?」
私をなんだと思ってんだこの親父は。
「まぁそうさせてもらうよ」
「それじゃぁ安静にしておけよ」
そう言って父さんたちが部屋から出る。
「ふぅ…………」
ベッドの頭の部分を窓からの景色が見えるくらい、まで上げ、もたれかけながら外を眺める。
色々失ったものもあるがなんとかなった。
この景色を守れたことを今は喜ぶべきかなのか。
「はぁ……ん?」
ふと視界の端に何かを見つけた。
ここからだと少し魔力が見えるぐらいでしかないが何か異様な雰囲気だ。
何よりあの魔力球に残っている魔力を波長が似ている
六キロほど先の建物の屋上に何かがいる。
「なんだ、アレ」
何か人のように見える。
だが一瞬で消えた。
「…………逃げたか」
少なくとも半径三十km圏内にはいないだろう。
なかなか厄介な事に首突っ込んでしまったかなぁ。
など考えながら、そのまま眠りに落ちた。
「ふっふっふ……いやはやまさか彼が負けてしまうとはねぇ。その情報は本当なのですか?」
遥か遠くの山沿いの建物に奴はいた。
「えぇ、密偵からの情報だと、確実です」
椅子に座ってふんぞりかえる、飄々とし相手を舐め腐ったような顔をしている男、マゼンタ・アトファーディー。
マオルナにあるものを渡し、悪魔にしたとリーシャが目している当人だった。
そんな彼を前に一人平伏す男がいた。
「そうですか……ありがとうございます、ゴアさん。もう行っていいですよ」
ゴアと呼ばれた男はそう言われて立ち上がり、部屋の外へ出ていった。
「さて……彼らの調子がどうなっているのか見ておかなければ」
マゼンタは立ち上がり、部屋の奥にある地下へ続く階段を降りる。
その先にいたのは幾人の悪魔だ。
全員肌には黒の鱗のようなもの、顔にはツノがが生え、関節部にも似たようなものが生えていた。
目は全員虚で、まるで人形のような印象を受ける。
その中に一人、でっぷりと太ったちょび髭の悪魔がいた。
ガルマ・フォン・バンデルシアである。
彼もまた、マゼンタによって悪魔化されていた。
「ふっふっふ。なかなかどうして壮観な眺めですねぇ」
魔力を消す術式が発動してある建物にて潜伏し、悪魔の魔力を消して操作から逃れてきたのだ。
他にも4人、貴族派の貴族がいた。
だがこの場にいる悪魔の数は数十名にも上る。
マゼンタという男は人間を悪魔化することを何度もやってきた。
「さてさて、彼女の様子でも見に行きますか」
彼が地下室から出て行き、屋上へと続く階段を上る。
そして屋上に出ると遥か先に王城が見えた。
「リーシャ……と言いましたか……なかなかに面白そうな人間ですねぇ。一体どれほどの強さで、
私の計画にスパイスを入れてくれるのか、楽しみですね」
余裕の表情を浮かべながら、屋上で風に当たるマゼンタ。
しかし、彼が王城の一室で背もたれにもたれかけているリーシャを眺めていると、突然彼女がこちらを向いてきた。
「……っ!」
万が一にでもバレないように魔力は最小に留めていた。
だが、それでも気づかれた。
急いで室内へと入り魔力を遮断したマゼンタは中にいた人たちに声をかける。
「みなさん、ここが見つかりました。みなさん今すぐ逃げますよ。何も証拠となりうるものは残さないように!」
しっかり教育を受けているのか、テキパキと動き数分で荷物を全部持ったは、地下室に集まる。
そこでマゼンタは彼らと、直立不動の悪魔たちを一緒にどこかへ転移させる。
マゼンタ自身はまだやることがあるため残るが、それでもここから離れなければならない。
自分がかつてここまで焦った事はない。
自らを焦らせるような存在などいないとたかを括っていたからだ。
故に彼は気づかなかった。
部屋の角で禍々しい紫の魔力を帯びた球が転がっているのを。
そうしてマゼンタはその建物から姿を消した。




