クラン、そして……
「さて、今からクランについてみんなに説明するわよ」
今日は授業がいつもと比べて早く終わったかと思えばメルディアがクランについて話し始めた。
「クラン?なんだそれ」
「それを今から説明するの。クランっていうのは例えば魔術クランみたいに魔術が好きな人が魔術について研究したり、雑談したりするグループみたいなものね。コレは学年とかクラス関係なくどこにでも入れるわね。魔術クランだけじゃなく、付与魔術に特化した付与魔術クラン、攻撃魔法の研究に特化した攻撃魔法研究クラン、みたいに色々あるわよ」
そう言ってメルディアに渡された一枚の紙。
クランの名前と軽い紹介が書かれている。
パッと見ただけでも20ぐらいはあるか。
「あんまり居ないのだけれど自分でクランを作るっていう選択肢もあるわね。私たちもクランを作ったわね……まぁ戦争の影響もあってか、構成員が誰も入らなくなって潰れちゃったけどね。明後日のクランの紹介をする学年集会までに入るのならどこかに入った方がいいわね。あ、もし、クランを作る時は学院長に報告……なんだけどそれは私だからいつでも言ってね」
「ふむ……そうだな……あんまり入ろうと思う奴はないな……」
だって大体クランでの活動内容が出来ることばっかりだしそれなら適当に理論まとめて論文書いた方が早い。
「私は裁縫クランとかちょっと気になるけどなぁ〜」
「そういえばルナって割と昔から裁縫やってるよな、下手だけど」
「下手は余計なお世話よ!」
他の奴らは何かピンと来たのはあるのだろうか。
アフナとマティスはなんというか剣客クランに入りそうだ。
実際刀を腰に下げてるし。
あとは……キナあたりは全般魔法クランとかに行きそうだな。
魔法が好きみたいだし。
「僕もあんまり入ろうと思うクランはないね」
レインもどうやら入るクランはピンと来ないようだ。
「ふぅん……じゃぁ先生も言ってたしクラン作ってみようかな」
なんの気無しに言った一言をクラスメート達は聞き逃さなかった。
「リーシャちゃん!それ本当!?」
「うわぁ!びっくりしたぁ!?」
1番席が遠いはずのキナが一瞬で私の隣にやってきた。
「リーシャちゃんがクラン作るなら私絶対に入る!」
「いや、まぁ別に良いけど……」
「だったら私も入ろうかなっ!せっかくなら英雄の娘さんとお話できる関係なのにあんまり戦闘とかの話をする事無かったからね」
「じゃぁ俺も入ろう」
後ろの席に居たアフナとマティスが私の目の前に飛び降りてくる。
「あ、あのぉ……私も入って良いでしょうか……あ、すみません、平民のくせに出しゃばって……」
そんなにオドオドしなくてもいいぞー。
「俺も入りたい!せっかく父さんの知り合いが英雄で、その娘さんがクラスメートなんだから色々教えてもらえそうだし!」
おぉ、なんかわらわらと集まってきたぞ。
「う〜ん……先生?別にクランに入る入らないって自由なんですよね?」
「まぁ自由ではある……が、今後のために入る生徒が大半だ。活動内容によってはそれが進路に影響したりもする」
「ふむ……」
正直私はあまり入るメリットが無い感じがするのだ。
軽く卒業してその後世界各地を放浪しながら前世を探す、そんな感じに思っているものだ。
「でも勿体無いよ!せっかくリーシャちゃんものすごく強いしなんでも出来るのに!この制服だって全部リーシャちゃんがしてくれたでしょ!?」
「ま、まぁな」
「そんなリーシャに頼みがあるんだけどさ、その古代の魔法の技術とか、戦い方を僕達に教えてくれないかい?」
「そりゃまたなんで」
「このクラスはAクラス、少なくともこの国の中では優秀とされて入ってきた人たちだ。故に前のような輩に狙われる事も無いとは言えない。その時に制服を着ている保証なんてどこにも無い。僕みたいな王族は基本的にどこに行くにも制服を使う事が多いけど公式の場だったりすると流石に正装に着替えるからね」
「あ〜まぁそうか……確かに戦い方を教えても別に良いっちゃいいか……」
「それに、もし君に何かあった時に僕達が守れるようになりたいしね」
((((それって“僕達”じゃなくて“僕”が守りたいだけじゃね……?))))
何を考えたのか知らないが私とレインを除いてクラスメートの心が団結した雰囲気だった。
「じゃあクランを作るのも良いかもな……」
「でしょ?」
「でも活動内容は何にする?」
「英雄についてのお話を聞く!って思ったけどそれもうあるのね」
父さんと母さんについて語り合うらしいクランが既にあるようだ。
まじでぇ?
父さんと母さんは私達にあんまり昔の話しないし、私もあんまり聞こうと思わないから全然知らないけど、色々逸話とか残ってそうだな。
「まぁ別にそんな急かして決めなくても明後日の学年集会が終わる時までに決めたら良いからね」
「明後日は何かあるのか?」
「さっき伝えたんだけどなぁ……そこで全クランの紹介を講堂でするからその時までにって事よ」
「なるほど……分かった。じゃぁ暫定で、私のクランには誰々入るつもりなんだ?」
全員が手を上げた。
「ルナは裁縫クラン行かないのか?」
「お姉ちゃんが作るならそこに入る」
「(シスコン……)」
「なんか言った?お姉ちゃん?」
「イエ、ナニモイッテナイデス」
ルナってほぼ同い年なのになんか私にべったりなんだよなぁ。
なんかしたっけ。
壊魂症を治したりする前からべったりだったし壊魂症を治したから懐いてるとかそんなわけでも無いしなんでだ?
別に好かれるのは良いけどここまでだとな。
「ま、じゃぁ一旦このクラスの全員が入る感じ?」
「そうだね」
「学年集会までに入りたいクランが変わったら特に引き留めもしないから言ってくれよ」
「じゃぁ一旦まとまった感じかな。リーシャはクランはもう作るの?」
「うん、他のは特に入ろうって思うところ無いし」
「おっけ〜分かった。じゃぁ申請は通しておくね」
メルディアが紙に何かをスラスラと書き留める。
「それじゃぁみんなまた明日ね」
メルディアが荷物を持って教室から出て行く。
『は〜い』
そして2日後、つまり今日は学年集会がある。
「さ、もう全員いるわね」
メルディアが出席を確認する。
「結局他のところに行きたいっていう人居なかったな」
「そりゃぁ、あの英雄の娘が作るクランだからね。現に他の学年からも入りたかったって言ってる人が何人か出ているぐらいだからね」
「う〜ん……まぁ、気にしないでおこう」
「ははは……」
「それじゃぁみんな、講堂に行くわよ」
メルディアに連れられて講堂に行き、席に座る。
「すぅ……すぅ……んお?」
おっと、気づいたら寝てた。
もうそろそろ終わりそうだな。
入りたいものが無いからって思いっきり寝てた。
まぁ実際入るものないから……なぁ。
ふと隣の座っているレインを見ると間抜けな顔で寝ていた。
「ふふっ、おもろい顔。おいレイン。起きろ〜」
レインのほっぺを指で突いて起こす。
「ツンツン」
「ん?……あぁ、もう終わりか……ふぁ〜、おはよ」
「おはよ」
「ふごぉ」
急にレインがガックリした。
どうしたこいつ。
体調でも崩したか?
『それではみなさん!少しの間いろんなクランを見ていってください』
講堂で何かを喋っていた生徒がそういうとみんなが席を立ち上がり、壇上に上がって行く。
「おし、せっかくだから見てみようぜ」
「良いね」
「お前らも好き勝手見てきて良いからな?」
「分かった〜!」
キナが返事する。
こいついっつも元気だな。まぁ良い事だけども。
この学院の講堂の壇場は妙に広い。
だから20個ぐらいのクランのブースを立てても大丈夫なようだ。
壇上に上がると最初にブースが設置してあったのは攻撃魔法研究クランだった。
「みなさ〜ん!攻撃魔法研究クランはいかがですか〜!」
ブースの上に置いてあった紙には『攻撃魔法の発動術式の効率化』と銘打った論文みたいなものがあった。
「ちょいちょい、コレなんだけど、気になるところがあるんだが言っても大丈夫か?」
ブースの端っこの方で暗い表情で俯いて、座っている少女に声をかける。
「え、あ、はい!ってリーシャさん!?本物!?」
「まぁ本物だぞ」
「り、り、リーシャさん、一体何用で……」
「あぁ、この術式の効率化を書いたのって誰だ?」
「わ、私です!何かおかしいところでもありましたか……?」
「あぁいやそういう感じじゃなくてな。私の知る限りではあんまり攻撃魔法を効率化する人とか見た事ないしなぁって思って」
「やっぱりそうですよね……皆さんは私と違って魔力がいっぱいありますから……攻撃魔法を効率化するなんて事見向きされなくて当然ですよね……」
お、おう……なんかものすごいネガティブ思考だな……、って私はこんな事が言いたいんじゃなくてだ。
「いや、攻撃魔法を含めた魔法を効率化するのは誰にとってもありがたい事だ。事実攻撃魔法だって効率化した方が良いさ。実際私もあんまりしなくても助かっていたがそろそろ手を付けてみようかなと思ってたところだし」
「ほんとうですか……?」
「あぁ、本当だよ」
「ありがとう……ございます……!」
「さて、例えばだがこの魔法術式、確かに今までより消費する魔力が減っている。およそ3割減程度といったところか」
魔法陣を見よう見まねだが展開してみる。
「着眼点は良いな。基本的に重ねがけや、重複することで消費する魔力は増える。が、その魔法陣の中に活性魔法陣を仕込むことで消費する魔力の総量が少なくとも発動するようにしているのだな」
「は、はい……すごいです……幾らこの説明をしても誰にも理解されなかったのに……」
「まぁ活性魔法なんて知ってる人は少ないだろうからな。父さんと母さんは知ってたけど、王都に来て買った魔法の本でも活性魔法はあまりメジャーじゃないと書いてたしな。よくこんなものを組み込もうと思いつけたな」
「魔力って魔力の通り道ですんなり進めれば進めるほど効率が良いですよね。それなら魔力をもっとすんなり通せるようになったら抵抗も減って発動しやすくなるんじゃないかって思ったら思いの外成功しちゃって……私の家が農家で溝に溜まった泥だとゆっくり流れてるのに対して水だとすんなり流れるなぁってのを見て思いついただけだから誰にも出来るんですけどね……」
「いや、それを魔力にも使えるのでは?と想像できたのはお前だけだ。でなければもっと昔に効率化された魔法陣ぐらい日常的に使われてるさ。だからそう自分を卑下することは無いよ」
「本当ですか……!」
「あぁ、本当だ。でも、この魔法陣はもう少しだけ改良、もっと効率良く出来る」
魔法陣を展開しながら少しずついじっていく。
「例えばこういうふうに、魔法陣の四方にある円をちょっと大きくして少し内側に寄せると、魔力の通り道が増え、さらに中に少しだけ魔力増強の効果がある魔法陣も出来るからそれでさっきの効率化と同じようなことをすると、よし完成だ」
「うそ……魔力効率と威力がどっちも3倍……!?」
「そうだ。魔法の威力や効率は魔法陣の模様がそれぞれがどう組み合わさるかで決まる。だから柔軟な発想というのが鍵になる。お前はその発想ができる人間だ。コレからも面白い魔法とか作れるかもしれないな。私から言えるのはコレぐらいだ。偉そうに語ってすまんな」
「い、いえ!大変ためになるお話をしてくださってありがとうございます!」
「良いってことよ。それじゃぁまた今度な」
「今度……?」
何かわかっていない様子だがまぁそれは良いだろう。
彼女の理論は私はともかく、今の時代の魔法技術的には革新的な内容だ。
効率化の出来ていない魔法が多い中、アレだけの効率化を1人で見つけられた彼女はいずれ名を轟かせる魔法術師になったりするかもな。
まぁ未来のことなんざ分からないから、落ちぶれるか成り上がるかは彼女次第といったところだ。
「それにしてもわざわざ言って良かったのかい?」
「何が?」
「あんな内容のものなら論文を出したりできて名声も上がるになぁって」
「そんなめんどくさいことしねぇよ。そんな事するぐらいなら私は冒険者とかになる方が良いかな」
「ふふっ、面白いね、リーシャは」
「なんだよ」
気持ち悪りぃな。
「なんでも無いよ。それじゃぁ他のところも見て回ろうっか」
その後いろんなクランのブースを見て回っては色々助言したりして、すぐに時間が過ぎてもう帰る時刻になってしまった。
そして今は教室から出てだだっ広い中庭を通り、帰っているところだ。
「あぁ〜思ったより楽しかった」
「お姉ちゃんってやっぱ教えるのなんか上手だよね」
「そうか?」
「そうだね……裁縫クランでもまるでプロみたいな手際だったから、クランの構成員の人も何人か目を輝かせて見ていたよ」
「まぁ、母さんの手伝いをしてるうちになんとなく身についただけなんだがな……」
「それでもすごいよ。ねぇ?」
「そうだね、私は剣ぐらいしか出来ないから剣術クラン見てみたけど……むさ苦しい男ばっかりでげんなりしたよ」
「どんまい」
「それにしても英雄研究クランの人たちの熱意すごかったねぇ」
「リーシャちゃんとルナちゃんが英雄さん達の娘だって分かるやいなや神のように崇めてたからね……見てる側は面白かったけど」
「父さんと母さんって英雄って言われてる先の大戦ってこの国はどこと戦ってたんだ?」
地味に一回も聞いたことのない話題だ。
少なくとも私たちは。
「う〜ん、説明が難しいんだけど、戦争が始まるちょっと前にとある魔法使いがある魔法を使ったことで悪魔族と呼ばれる人間とは相容れない存在が召喚されたらしくて、それがこの国とその周辺国に攻めていたらしいいよ。悪魔族って言うのは魔族と違って人の魂を食糧とするから人間を見かけたら問答無用で襲ってくるんだって」
「へぇ〜そんな種族がいたんだな」
「そうそう、それで人間も条件次第では悪魔族になることがあるらしいんだよね。条件は分かっていないけど」
「ふむ……」
「まぁそうそうそんなことは無いよ、あっても一例だけで、さっきいった魔法使いが悪魔化したことだけだよ」
「じゃぁ大丈夫か」
「そうだね」
悪魔族か……父さんと母さんはそんなのと戦っていたのか。
父さんと母さんに今度聞いてみようかな。
いや、でも父さんと母さんって同級生が戦争で死んでるって言ってたしあんまり聞かれたく無い事だったりするか……。
「ん?」
今何か変な魔力の流れを感じた気がしたて立ち止まる。
辺りを見回してみるが、特に変なものは見えない。
だが微かに妙な感触を感じる。
「どうかしたかい?リーシャ」
「…………いや、なんでも無い。大丈夫だよ」
そう言って再び歩き出そうとしたらさっきよりもはっきり魔力の流れが見えた。
そして飛んできたのはごうごうと燃える魔法の弾、《炎魔弾》
それがレインに当たりそうになる直前に防壁を作り、なんとかいなす。
《炎魔弾》が放たれた方を見るとそこには人が立っていた。
私服姿の筋骨隆々の男、マオルナだった。
「おぉい、クソアマァ……」
なんでコイツがここに居る……!?
「なぜ君がここに居る…………っ。謹慎はどうしたんだい?」
「おい、クソアマ!俺はお前を殺すためにここまでやってきた!俺様と勝負しやがれ!」
「断る」
元々歪んでいたマオルナの顔がさらに歪む。
その顔は憎悪に染まっていた。
「うるせぇ!元はと言えば!お前が俺様の言う通りにせずにいるのが悪いんだろうがぁ!俺は選ばれし人間だと言うのに!許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない!許せるものかぁぁぁぁぁ!」
マオルナの魔力がどんどん膨れ上がる。
「なぁ、レイン。アレって……とてもじゃねぇが制御出来てるとは思えねぇんだが、どう思う?」
「奇遇だね。僕も同じ感想を抱いたよ」
事実マオルナから溢れ出る魔力がグネグネといろんな形を取り出している。
しまいには本来はほぼ無色である魔力がどんどん紫色に染まっていく。
コレは魔力の密度が高過ぎて極微細の粒子である魔力が目に見えるようになるからだ。
だが問題はそれでは無い。
「あいつにこんな魔力なんて無かったはずだ……一体この短期間で何をした?何が起きた?」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい…………グッ……がぁぁぁぁぁ!アァァァァァァァァァァァァァァ!」
マオルナが苦しそうに悶え始める。
「おい……」
マオルナの身体から溢れ出る魔力がズズ、ズズと嫌な音を立てる。
魔力の量が多過ぎてほんの少し何かが変われば一気に魔力が放出されてします状況だ。
そんな中マオルナが魔力を一気に放出した。
するとマオルナが放出した魔力によって、限界寸前だった魔力が爆ぜた。
「くっ、やばい!」
間一髪でみんなに障壁を張り終わる。
が、マオルナの方を見た私は鳥肌がたった。
そこにはとても人間の魔力量とは思えないほどの魔力量を持った男が立っていた。
いや、コレ私が言ってもなんの説得力ねぇか。
顔といいガタイといいマオルナであることは明白だったのだが様子が少しおかしい。
身体からツノのような突起が生え、頭にも捩れた赤いような角が生えており、表情も異常なほど歪んでいた。
「まさか……、アレは!」
レインが信じられないものを見たかのようにつぶやく。
「悪魔化……したと言うのか……!?」
どうやらマオルナは悪魔になったようだった。
「ぐへへ……ひっひっひっひ……」
喋ることを忘れてしまったのか、うめき声のような笑い声のような声を漏らすマオルナ。
「まぁ、やることは単純だわな」
魔法陣を幾つも展開し、そこに魔力を込めて行く。
「さて、コイツをしばきまわすぞ」




