不穏な動き
「そういえば父さん達の学生の頃の同級生って他にどんな人がいるんだ?」
ふと最近気になっていたことをキッチンで冷蔵庫から牛乳パックを出して開け、それを飲みながらリビングでくつろぐ父さんと母さんに聞く。
「そうだなぁ……ゴードンとメルディアとククル、んでオジキだろ」
「あー牛乳うめー。あ、やっぱあの人同級生なのか。合法ロリだな」
「本人の前で言うなよ?気にしてるから」
「ゼニスはそれで昔いじってボコボコにされてるからねぇ」
「き、気をつけよう」
ククルの前ではそういう話題は控えた方が良さそうだ。
まぁ普通に無礼だし。
「あとはそうだな……今の魔法師団長と騎士団長もだな。俺とフリーナにこそ及ばないがこの国では上から数えた方が早い実力を持ってる奴らだ、たまに家にも来てるけど……最後に来たのが3年ぐらい前か。また会いにでも行くか」
さらっと魔法師団長と騎士団長が出てくるな……父さんのクラスまぁまぁ化け物揃いだった説はあるな。
実際父さんと母さんって私の知ってる中で一番と言って良いほど強いと思うし、その父さんが実力があると言ってるなら強い方だろう。多分。
「昔は私とゼニスとも互角だったのよ。ねぇ?」
「あぁ。でも今戦ったら「絶対に勝つ(わ)」」
「今度会ったとき久々に勝負しかけてみようかしら……フフフ」
本当に母さんが貴族の生まれなのかいまだに信じられない。
ま、まぁマオルナみたいなやつもいれば戦闘狂みたいな貴族も…………いる……のか?
「へぇ、他には?」
「そうだなぁ……あぁ、隣国の異様なまでに科学技術が発展してるウラル帝国があるだろ?あそこの皇子とか」
「ブフゥ!」
飲んでた牛乳を思わず吹き出した。
「うわ、汚ねぇな」
「ゲホッゲホッ、す、すまん。え、皇子?」
吹き出した牛乳を魔法で回収して掃除しながら聞く。
「そうそう。なんか留学してきたみたいでな。なんだかんだで付き合いの長いやつだよ。まぁ皇子……もうそろそろアイツも皇帝になるのかな。言うて最後に家に来た事はお前が生まれる前ぐらいだけどな」
「ゴードンおじさん……」
「あれはフットワークが軽すぎだ。まぁ周りが優秀だし、アイツ自身も仕事とかすぐに終わらせるタイプだし、サボったことも無いから多少自由な時間に出歩いても許されてるんだと思うぞ。それに比べてウラル帝国は……まぁアイツの親父は一回見た事があったが典型的な独裁国家って感じがしたよな……あんなハゲタカからどうしてあんなのが産まれたのやら」
ハゲタカ呼ばわりされる皇帝かぁ……
できれば何かしらの関係を持つのはごめん被りたいな。
「実際あの国行くのはやめたほうがいいぞ。貴族第一主義で貴族にあらずんば人にあらず!我々は神に選ばれし民なのだ!って言ってるような傲慢な貴族が大半だからさ」
バンデルシア侯爵家かなにかかな?
まぁあれはそこまでではないが傲慢な態度を取るという点では一緒か。
「それでそれで?あと1人は誰なんだ?」
「あと1人…………アイツは、死んだよ。随分前に」
急に父さんと母さんの表情が沈む。
「それって戦争で?」
「まぁ、そんなところだ。あまり……いい思い出はないな」
「あ、ごめん、ちょっと無礼すぎた」
「いやいいよ。もう俺らも区切りは着いてるから」
気まずい空気が流れる中、扉を開けてパジャマ姿のルナとハルが入ってきた。
「おぉ、おはよ」
「ふぁ〜、おはよ」
「お姉ちゃん……まだ眠い……」
「はいはい、先に飯だけでも食え」
私も眠いけど起きてるんだよ!昨日夜更かししすぎた。明日は普通に寝よ。
───────
「よっす、レイン」
「おはようリーシャ。どうしたんだい?目の下のクマは」
「あー、昨日夜更かししすぎただけだ。特に問題ない」
「問題大有りだよ。せっかく綺麗な肌が寝不足だとガサガサになったりするよ」
「うるせー、余計なお世話だ。それにそれぐらいなら魔法でなんとかならぁ」
「まぁそれはそうか」
よし、なんとかなった。
「そういえばだが、この前の時にマオルナに“らしくない”って言ったのはどういう事だ?」
「あ〜そのことね。僕ってまぁ王族でしょ?となると侯爵家の彼とはそこそこ付き合いがあるんだよね」
まぁ当然あるだろうな。
腐っても侯爵家の嫡男だ。王太子であるレインと付き合いがあったっておかしくない。
てか無かったらそれはそれで何か問題起きる気がする。
あっても問題起きてるけど。
「彼と最後に会ったのは5年前ぐらいだけど、その時はあんな性格じゃなかったからね」
「へぇ、意外だ」
あの粗暴of粗暴男からはとてもじゃないが想像つかない。
「確かに貴族としての誇りはあったけども、貴族は平民のためにあるって思想が強かったかな……。でもそれ以降は会ってないからなんであんな事になったのかさっぱりだ」
「……なぁ、レイン、バンデルシア侯爵があんな態度を取り出したのはいつぐらいだ?」
ふと何か嫌な予感が過ぎる。
「え?まぁ今までもあんなことはあったけど……今ほどひどくは無かったね。それがだいたい……3年ぐらい前かな?あそこまで強気な態度をとりだしたのは」
あまり根拠はないが、可能性はあるな。
「なぁ、バンデルシア侯爵家の奴らが、洗脳されてるって可能性はないか?」
「洗脳……!?そんな事が出来るのかい?」
確か洗脳魔法も古代魔法の一つで、術者にもよるが数人の思想を変えるぐらいなら余裕だろう。
だが少なくとも洗脳魔法なんてものを使うやつを私は見た事がない。
「まぁ、人によるとだけ。例えば私なら出来る。もちろんするわけがないがな」
「それは分かってるよ…………それにしてもそんな事を誰が?」
「分からん。だがコレがもし本当なら、アイツらのバックにいる何かが動きそうだなってだけ。特に根拠はないよ」
「そうか……まぁ憶測だけではね。心に留めておく程度にしておくよ」
「うぃ」
はぁ……眠い、授業始まるまで寝よ。
──────
同時刻。
王都の貴族街のバンデルシア侯爵邸にて。
「なるほど……ここですか」
門の前でそう呟いたのは黄色の髪を靡かせたガッチリとした身体の男性。
マントで身体を隠しているが前の隙間から見える肉体は引き締まっており、相当な鍛錬をしたのだろうと推察できる。
表情は柔和そのものだが、どこか軽薄な感じがする。
「何者だ」
門の前の衛兵がその男を見て槍を門の前に突き出し牽制する。
「失礼、私一時期マオルナ殿が通っていましたゼミにて講師をしていたものです、当主殿の要請でこちらに来たのですが……何か行き違いでもありましたか?」
「…………少し待ってもらいたい」
衛兵が数分ほどして戻ってきたら先ほどとは打って変わって賓客のような態度で接する。
「失礼致しました、当主がお待ちにございます」
「うん、感謝する」
男が扉を開けるとそこにはパジャマ姿のでっぷりと太った男、ガルマが立っていた。
「おぉ!先生。よくぞきてくれました」
「私の可愛い弟子のことですからね、何がなんでも駆けつけますよ」
「なんとも心強い!」
「それで、一体何があったというのですか?」
「それについては今からお話しします、ささ」
ガルマは階段を登りながら今までの経緯を彼に伝えていた。
その頃、三階にある自室で謹慎中のマオルナは、荒れに荒れていた。
「クソっ……!なぜ殿下はあんなクソアマを……!」
流石は侯爵家と言ったところか、高価な調度品が揃っており、本来であれば煌びやかな部屋であろうことは間違いないのだが、今は椅子は蹴飛ばされカーテンも閉め切られ、薄暗く散らかった部屋になっていた。
マオルナは自室での謹慎中に少々精神的にガタが来たのか、荒れに荒れていた。
それもそうだろう。
ありもしない罪(マオルナ目線)で謹慎を喰らえばたまったものではない。
しかも何を考えているのか、あの命令の後勝手に敷地外に出れば爆発する手錠を付けられていた。
今まで自由に好き放題していた彼にとっては非常に辛くストレスの溜まるものだった。
「くそぉ!」
椅子が蹴り飛ばされガシャンと音を立て壁にぶつかりバラバラになる。
「チッ」
彼の苛立ちは何をしても治らない。
すると部屋のドアがコンコンと誰かにノックされた。
「誰だぁ!」
自分のストレス発散を邪魔されたことで余計に苛立ちを覚えたマオルナは鬱陶しそうにノックした人へ問いかける。
「私ですよ、マオルナくん。開けてください」
「せ、先生!?」
マオルナが思わぬ来客に戸惑いながらドアを開ける。
「なかなかに荒れているようですね、私の愛し子よ」
「そうですよ!先生、聞いてください!俺様が一体どういうっ……?」
「言わなくても分かっていますよ、貴方という選ばれし人間が不当に扱われるようなことなどあってはいけません」
男は、ものすごい形相で自分が経験した悲惨な出来事を説明しようとするマオルナの口に指を当て口を紡がせる。
「えぇ、えぇ!そうでしょう!?だというのにこの国の奴らは俺様を……!」
「分かっています。私はそのためにここに来たのですから」
まるで我が子を慈しむかのように慈愛の表情でマオルナを諭す男。
「さて、貴方を陥れたのは一体誰なのでしょうか?」
「リーシャって女だ。認めたくないが……俺はそいつに2回負けてしまった!俺は選ばれし人間だというのに……!あんな親のコネでAクラスに入ったやつに!」
マオルナはいまだにリーシャがコネで入学したと思っていた。
現実が見えていないのだ。
今まで受け入れ難い現実を見てきた事がなかったから、今現在の現実を受け入れられないのだ。
「それはそれはあってはいけないことですね!貴方のような人が負けることなどあってはならない!」
大仰な仕草でマオルナを煽るその男を見てマオルナは悔しそうに俯く。
「だが、俺は先生の期待を裏切ってしまった……!あんな女に負けるはずがないというのに……!」
「いえ。それは間違っていますよ。貴方は優秀な人間です。貴方なら必ず勝てます」
「ですが…………」
「私が今まで間違ったことを言ってきましたか?」
「……っ!」
確かに先生は今まで間違えることなく自分を導いてくれた、今回もそうしてくれるはずだ。
そうマオルナは思った。
マオルナの瞳に希望の光が宿る。
「貴方ならコレを使いこなす事ができるはずです。コレを貴方にあげましょう……」
そうやって男はポケットからある丸薬を取り出した。
紫色の魔力をほんの微かに帯びたそれは明らかに禍々しい見た目をしていた。
「コレは、人間の潜在能力を引き出す薬です。貴方なら、使いこなせると信じています」
「はい……はい!」
「それでは期待していますよ?」
そう言って男は彼の部屋から出ていった。
マオルナは完全に再起した。
自分を褒め称えてくれる恩師が救いの手を差し出してくれた。
先生が間違った事を言ったことはない、コレで勝てる。
本気でマオルナはそう思っていた。
屋敷を出た後男は屋敷の三階にあるマオルナの部屋を見て呟いた。
「せいぜい私の思う通りの結果を出してくださいね……えぇと、なんでしたっけ、彼の名前は。まぁあんな愚物は覚える必要もないですが」
その呟きがマオルナに聞こえることも当然無く、男はその場を立ち去った。
今日はこれで終わりです(多分)。
明日はまた6話ほど出そうかなと思います。




