騒動その2
「ルナ、帰るぞ」
「はいはい〜」
入学式は特に問題なく(挨拶以外は)終わり、今日学校ですることは終わった。
明日は普通に授業もあるみたいだし帰ってやりたい事でもしようかね。
すると突然、
『皆逃げろぉぉ!』
バリィィィィィィィィン!
この階のどこかから男の叫び声が聞こえたと同時に何かが割れる音がした。
「なんだ……今の音。レイン、ルナ、ちょっと行くぞ」
「分かった」
荷物……はまぁ私とルナは収納魔法に入れているから特にすることなく教室を出る。
廊下に出ると隣のBクラスの教室にいたであろう生徒が恐怖に顔を歪めて教室の方をみていた。
「どうやら問題はBクラスで起きているようだね」
「そうだな」
出てきている生徒はただならぬ様子で、騒いでいる。
「ちょっと先生誰か呼んできてよ……!」
「こわい……」
何かが暴れているのか、さっきからガシャン!ゴシャン!という音が聞こえる。
もっと近づくと誰かの声が聞こえた。
『なぜ俺様がBクラスなんぞに配属されなきゃいけないんだぁ! 俺様を誰だと思ってるぅ!』
「おぉん…………」
コイツの声を聞くのはこれで三回目だがなかなかどうして耳障りな声だ。
声だけで人を不快にできるとはある意味才能だろう。
悪役の声優にでもなったらどうだね?
「マオルナ……かぁ」
「彼は本当に問題を起こすね……らしくない」
らしくない……がどういう意味かについては一度おいておいて。
「まずはアイツを止めよう。入るぞ」
教室のドアを開け中に入ると椅子を持ち上げ振り回し窓という窓を叩き割っているマオルナの姿が目に飛び込んだ。
辺りにガラスが飛び散っており差し込む太陽の光が反射してキラキラと輝いている。
「俺様がぁっ! なぁぜっ! Aクラスではなくぅ! Bクラスなんぞに入れられているんだぁ!」
マオルナの足元に一人の少女がおり、マオルナは彼女の頭を何度も踏みつけていた。
それを見た瞬間、私は脚に力を込め飛び出した。
ダンッ!と音が教室に響きマオルナに接近した私は思いっきり奴の腹を殴った。
私の攻撃をもろにくらったマオルナは一直線に教室の後ろの壁に飛び叩きつけられり。
その間にマオルナに踏まれていた少女にかけより即座に治癒する。
「う、うぅ……」
「レイン、一回この子を外の誰かに頼んで医務室に連れて行ってやってくれ」
「分かった」
レインが少女をが抱えて教室を出る。
レインならちゃんと連れて行って説明もしてくれるだろう。
「さて、マオルナだったか……お前は何がしたいのだ?」
壁に叩きつけられたマオルナを見ながら言う。
正直私がその立場だとしても、たかがクラスが気に入らないから……程度な気がするけど、マオルナは相当な貴族主義……というかまぁあれだ。
自分が最高、唯我独尊とでも考えているタイプなんだろうな。
壁に叩きつけられたマオルナはギリッと口を噛み締め、私を見つけては目を見開き、言った。
「また貴様かッ……!」
「あぁそうだよ。お前とは何かと縁があるがなんなんだろうなぁ。それはそれとして、お前がやったのは犯罪だ。この前の事もそうだし今回のも合わせて器物損壊、公共物損壊、傷害致死、傷害、その他諸々もあるが……もう一度聞く、お前は、何がしたいのだ?」
「貴様に答えるギリなどないっ!」
飛びかかってきたマオルナをいなしながらマオルナに語り続ける。
別に筋は悪かないが、いかんせんこの性格だからな。
もっと丸くなりゃ強くもなれるだろうに。
「おいおい、私は戦いに来たんじゃなくて話に来たんだ。お前がなぜこんなことをしているのかをな」
一発二発、何度も放たれる拳を最低限の動きで避けながら言う。
「この学院は間違っている!」
唐突に何を言い出すんだこいつは。
「俺はバンデルシア侯爵家の嫡男! マオルナ・フォン・バンデルシアだぞ! なのになぜ俺をAクラスに入れない!」
まぁなんとなく想像したとおりだったが、どうやら試験結果によって振り分けられるクラスが気に入らなかったらしい。
実際知識は分からんが魔力や肉体的な強さはAクラスの連中にも負けずとも劣らず、と言ったところか。
私からすれば圧倒的格下ではあるのだが、学院全体で見れば上位層ではあるだろう。
Bクラスの中で見れば1番強いんじゃないかな。
「俺様はAクラスに入るべき人材なのだ! だというのに! この学院は正当に俺を評価しない! 俺様を評価しない奴は悪だ! 俺様を評価する奴こそが正義なのだ!」
「ふむ……つまり君はこう言いたいのかな。君の基準で君を正当に評価しなかった教員は悪であり、それを信任たると判断した王家も悪だ……と」
レインの声が教室に響く。
レインが教室の入り口に立っていた。
確かにマオルナの言い分はそういう意味になるだろう。
「ぁ、レ、レイン王太子、殿下……い、いえ!そのようなつもりは全くなく……!」
流石のマオルナもこの学院でひいては国家全体で見ても一番権力のある家系の人間相手では分が悪いのか、閉口してしまう。
「だ、だが!事実俺様はAクラスに編入されるべき人間なんです! これは不当な扱いなのです! っ……そこの女! お前が不正してA入ったから俺がハブられたんだ!」
「はぁ?私が?」
「そうだ!貴様の親は英雄……だったか、その英雄と王家のコネを使ってAクラスに編入したのであろう!」
こいつは突然何を言いだすんだ……?
少なくとも私には理解できない。
レインもちょっと理解できてなさそうだ。
「そもそも貴様の親が英雄などということが信じられんな!他人の功績を掠め取って得た名声なのだろう!そうだ!そうに決まっている!だから……ひぇっ」
「おい……マオルナ。今、なんつった」
「ひ、ひぃぃ」
マオルナの直ぐ側に近寄り奴の首根っこを掴み持ち上げる。
「なんつったって聞いてんだよ。あ?私の父さんと母さんが他人の功績を掠め取ったダァ?私が侮辱されるのは良いが家族を侮辱するのは許さんよ」
「くっ……はなせ!」
マオルナが魔力を拳に込め殴ってくる。
直撃したその小吹は岩を軽く砕くほどの威力を持っており普通の人間が当たればただでは済まないだろう。
「へへっ……へ?」
だが全くの無傷。
大した痛痒も感じない。
「その程度か」
「くっ……この……!」
「ふん」
マオルナの腹を思いっきり殴ってやる。
今回はマオルナの身体が全て衝撃を受け止めるように打ったので後ろに吹き飛ぶということにはならない。
だが本来は数十メートルは吹き飛ぶほどの攻撃を全身で受け止めたマオルナは身体が耐えきれず気絶してしまった。
「はぁ……ちっ」
「落ち着いたかい?リーシャ」
「まぁちょっとは……」
家族の悪口を聞いたら感情が昂ってすぐにこうなってしまう。
昔からの悪い癖だ。
「先生たちももうすぐで来るだろうからあとは先生たちに任せようか」
「そうだな」
その後、先生たちに事情を説明した。
レインの事もあってか学院として私たちは正当防衛として処理する事となった……が、厄介なのことが一つ出来た。
マオルナの親、つまりガルマ・フォン・バンデルシア侯爵が学院に事情を聴きに来るそうだ。
ガルマはマオルナを溺愛しているらしいし、なかなか厄介なことになりそうだ。
『私の息子が気絶までさせられているというのに相手側に責が無いとはどういうことだ!』
私たちの目の前にあるドアの先にいる、でっぷりと太りちょび髭を生やした男。
これがガルマ・フォン・バンデルシア侯爵という男だ。
『どういう事も何も、彼女達が行ったのは正当防衛です。本学院の生徒であるマオルナの暴力行為が止まりそうに無かったので仕方なく気絶させたと彼女は言っています』
『そんな事がまかり通ると思っているのか!私はバンデルシア侯爵だぞ!つまり私の息子であるマオルナは未来のバンデルシア侯爵なのだ!このような行為の責が私の息子にあるわけがないのだ!』
……………????
「気持ちは分かるよ、リーシャ、アレは昔からそういう男なのだ」
『本学院の教員で協議しましたが彼の行為が周りの生徒に全面的に悪影響を及ぼしたというのは紛れもない事実であり……』
『そういう事を言っているのではない!なんだ……金が欲しいのか!貴様ら!それならばそうと言ってくれれば良いのだ』
「はぁ……そろそろ頭痛くなってきたな」
『そういうことではありません。我々はこの協議の結果を変えることはありません』
『いくらだ!いくら払えば良いのだ!』
『だからそういうことでは』
メルディアが毅然とした対応を取っているがガルマという男は一向に諦めようとしない。
『くっ……もういい!さっさと私の息子を気絶させた者を呼べ!私が直々に成敗してくれる!』
その言葉を聞いた途端レインがドアを開け中に入る。
私もそれに続く。
「……?なぜレイン王太子殿下がこちらに……」
「貴方が、ここにマオルナを気絶させた人を呼べと命じたので参上したまで」
「な、なぁ……!?だ、で、ですが、気絶させたのはそこの女だと!」
「えぇ、確かにそうかも知れませんね。ですが僕はあの場にいながら止めることなく傍観していました。つまり彼女と同罪ですね。で、ガルマ侯爵。誰を処罰するんですって?」
感情のこもってない笑みをガルマに向けて見せるレイン。
「それに、彼は危うく人を殺しかけるところでした。彼女、リーシャが、治癒魔法を掛けルナさんがさらに協力な治癒魔法を掛けなければ命が危うかったのですよ。それに彼は僕にも攻撃をしようとしていましたしね」
「……! ……!」
ガルマは現実を受け入れられないのか、パクパクと口を開き閉めする。
するとドアを開け鎧を着た兵士が一人やってきた。
「王太子殿下。国王陛下より書状が来ております」
兵士から書状を受け取ったレインは書状を開き、そこに書かれた事を声に出して読む。
「王命。ガルマ・フォン・バンデルシア侯爵、ならびにガルマ・フォン・バンデルシア侯爵令息を一か月の謹慎と処す。これを破った場合はさらなる処罰を下す」
「あ、あぁ……」
「そういうことです。屋敷戻り自らが言ったこと、行った事について考えると良いでしょう」
何か言いたげだったが、王族の命令ならば従うほかなく。
ガルマとマオルナは悪態を吐きながら屋敷へと帰っていった。
その日の帰り道
「にしてもさレイン。あの程度の処罰で良かったのか?」
「ん? マオルナとガルマのことかい?」
「そうそう、流石に殺人一歩手前まで行っていて謹慎一か月ってのはなぁって」
「えぇ、まぁそうですね……どちらにせよそろそろ潮時だと思うよ。ここ数年での彼らの動きは少々目に余る」
相当なことをやらかしているのか、いやすでにやらかしていると思うけども。
「彼らにはきな臭い噂もあるからね。それこそ国家転覆規模のことをやらかそうとしてるのだとか」
「もっとやばいじゃねぇか」
「そうだよ。彼らはこの国の癌だ。彼らがいればいつかこの国は崩壊する」
かつてなく冷徹にレインは、つぶやく。
「癌は徹底的に潰さなければならない」
「つまり、そのための足掛かりに今回まず謹慎を……って事か?」
「そういうこと。リーシャ。それではまた明日」
「あぁ、レインもじゃぁな」
その日はそのまま家に帰った。




