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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
マイナスオーケストラ 編

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35 Stabat Mater


 アリアは、術針で縫合糸を結ぶことで、遠方から行動を監視をする糸針伝心(ししんでんしん)という(バックドア)をもっていた。

 これはエデンでの管理に携わっていたソーマの持針器に備わっていた、セット効果の一つのようなものだ。

 細胞の間を通るほど極縮小の針に痛みなど感じることもなく、かつ、エデン由来のため、人たびに結ばれれば、精霊契約前であれば結ばれていることにはパトスが気づかない、そしてイデアですら注意しなければ侵入と留置された違和感に気づかない、極悪ヘンタイ機能(コンボ)である。 

 ここではわかりやすく、ぼくがリーダーを務めたアリアはアリエッテとしておこう。

 すでに面識があって仕込まれていたミリアに加えて、このバックドアは、パトリックの結婚式の晩餐会でアリエッテにも仕込まれていたらしいが、ぼくのバックドアに関しては、スコルとマーナにブちぎれて魔力とノードを全開放した時に引きちぎってしまったらしい。

 バックドアは、ソフィアとマリーとシルク、そしてアリアが最も恐れていた、天才ピーターにも仕掛けられていた。


 ……おかあさんは、不思議な像のある部屋で、わたしにマンチェスターへ行くように、ピーターさんを訪ねなさいとオービルのチケットを渡しました。そして、部屋を出て階段を上って、大きなフクロウに殺されました。フクロウはおかあさんを盗人だと言って、宝飾品に興味なんてなかった緑の宝石のはまる指輪の嵌った手と繋がれた私の目の前で殺したんです。学院の授業でクロポに会ってわたしはミネルヴァに行ったことがあったんだと、思い出しました。


 マリーはアリアの結び目にうっすらと気づいていたのだと思う。

 それで欺こうとしたのだと思う。

 アテナの神域までカレンダーを連れて行ったのも、己が崇拝してきた知の神に祈るような気持ちだったのだろうとおもう。

 

 カレンダーは無事に王都を抜け出してピーターの許までたどり着いていた。

 しかし、アリアを煙に巻いたカレンダーの居所が、ピーターを通して晴れてしまった。 

 カレンダーの接触は、ピーターのミネルヴァへの帰還の芽を生んだ。


「予備予選のときにソフィアを通してアダージョを奏でるあなたを見た日に、わたしは飛び上がって熱をあげたものです。そして一次予選で、わたしがどれほど感激して胸を高鳴らせていたか。あなたの演奏に会場全体が創りださせられてしまったあの重いプレッシャーがなければ、わたしは息を止めることなく舞台まで駆けてしまっていたかもしれません。傍でお姿を拝見できなかったのには、ガックリときていたんです」


 桎梏から解放されたアリアから、あらためて証言をとる。


「見事ですよね。朝、バルトに呼ばれて玉座の間に行くと、座れ、そして読めといわれてこの書物に目を通させられました。ファンタジアを警戒してゼンライカを傍に置く徹底ぶり。あなたに、そして自分の胸を貫かせて癒させるシチュエーションを創ったリアナに、わたしは負けたのです」


 持針器と術針はすでに手許になかった。リアナから術針を回収したあとに、ファンタジアの糸を通したまま本国へと送還したらしい。


「ですが、マリーゴールド。あの売女にわたしは負けられない。わたしは女王の指令とわがままを天秤にかけて、バルトに嫁がされた。なのにマリーゴールドという女は、同じロマンスの貴族家であるカレンデュラ家を出奔(しゅっぽん)して役目を捨てたくせに、わたしの最も忌む自分勝手をしてみせながら、最も嫌うミネルヴァ探訪に拙速して真相に迫ろうと企むおこがましさ……マリーの娘がオービルに乗せられたところまではソフィアの調査記録を閲覧したので、しってました。ですが他領のマンチェスター領を王妃のわたしが探るとなると大変ですからね。シルクもあなたの所在を確かめるのに使っていて動かせませんでしたから、持針器で遠隔の糸の魔力を起こして、手先がしびれる程度のかるい伝導障害による一過性の麻痺をおこしピーターをサクッと殺しました」 


 シルクの執筆活動のほんとうの目的は、ミネルヴァの調査だった。シルクはマリーたちと試練に挑む前から、女神の神域までは何度か訪れたことがあったようだが、ピーターたちの出入りがわかってからは控えていた。

 

「マリーの夫のオーリック・バターフィールドもヒューズの隠し黄金で金融を盛り立てて国の復興に一役買った家でしたから、王家との親交も深くて交流もそれなりにありましたので、仕込むのは簡単でした。夫も失い、采配のミスで戦友(ピーター)も失った。小賢しくも、ピーターの所へ娘を送るなんてマネをするからです」


『……おい、キンク。いまバターフィールドといわなかったか』

『しょう聞こえた、ヒューズ……うぉおおおお!!!わたしのゴールデン!!!』

『おれの黄金が!!!!なんということだ!!!!』


 ……内面がうるさい。


「ビル。この際です。あなたがほしい証言もさしあげましょう。ウィリアムとハワードの溝を深めるよう唆して、さらにわたしは刺客を送りました。シルクはわたしのいちばんのお人形でしたから、顔が割れないよう別の刺客を立てて、ノーフォークへ追い立てたところでハワードの秘密を伏せた彼女を勝手のいい監視とした。ウィリアムが王都に近いと、リアムにミネルヴァのラストレガシーを盗られてしまうかもしれませんでした。ただの時間稼ぎでしたが、これは失策でしたね。ごめんなさいね」 


 ビルの顔が悲しげに痛ましい。

 家族と引き離されるには、あまりにも軽すぎる理由だ。

 特に、ぼくという爆弾を抱えていながらも歩みを止めずに家族のために走り続けた男にする仕打ちとしては、残酷すぎる。


「シルクはぼくが父さんの子として生まれることをしらなかったはずだ」

「わたしは祖国からの伝令で知ってました。教えなかったのは、王都での事件でウィリアムも敏感になっていましたし、変に近づこうとすれば警戒されますから、あえて泳がせてました。ゲイルっていうすばらしいスパイもいましたしね」

「ガスパーにも糸を結んでいたのか……」

「ええ。それで、いつになさいます」

「溺れるスプーンが市中に出回っているから、すこし整理する時間をおこう。5日後でどうだろう。バルトもビルも、それでいいね」

「アリアの拘束はどうする」

「もういっかい桎梏をはめてもらって、当日まで過ごしてもらうしかない」

「わたしは受けいれます」

「王とわたしも立ち合いの許に必要な証言もとった。わたしはオースティンを守護に向かわせたウィリアムの所へ行く」

「わかった。……父さんたちをお願いします。あとはまかせて……それからパワーズも、すまなかった」

「八虐には」

「五刑だろ。わきまえてるよ」

「ならいい」


 日本の律令法にあった謀反・謀大逆・謀叛・悪逆・不道・大不敬・不孝・不義という8つの重大犯罪類型。天皇、貴族、親族、神妙などへの裏切りを罪と定めていて、アリアはこれらのほとんどを踏みぬいている。

 これに対して、5刑という刑罰があった。

 笞罪・杖罪・徒罪・流罪・死罪。

 ハワードの恨みも託されたのだから、重みが一段と増した。

 アリアにはぼくができる限り、最も重い罰を与える。


「あなたの誓いを信じてはいますが、試験内容の見当を聞いておいていいですか」

「水時計の試験の難易度は0級。なぜ0級か。出題範囲をあらかじめ明示しているからだとおもう。それに0級ならだれでも受けられる」

「なるほど。それで、その出題範囲とは」

「クロポの試験に使われている時計はまさに」

「水時計。クテシビオスの水時計……あぁ、すばらしい考案です。ですが、わたしにはやはり知識が足りない。エスコートをおねがいしますね、一条 直人さん」


 アリアはなんのためらいもなく再び桎梏を手に嵌めて、ゼンライカとパトスを伴うバルトに玉座に縛り付けられる。


「わたしは見張りに徹する。連絡事項や拘束中の対応について任せなければならないため、ジャネットはすこし残ってくれ。他は、退出せよ」


 バルトの号令で、玉座の間から王族たちが退出する。そういえばシータ妃とその息子は今回もいなかったが、今回の件もあって王位継承権に変動が起こるかもしれないと憂いていたから、外させていたのだろうな。


「お父様。わたしも残らせてください」

「いちど出ろ、ソフィア。時間はあとでつくる。おまえにも仕事があるはずだ。まずはそちらをこなしなさい」

「いやです!」

「……直人。たのむ」

「はなしてくださいリアムさん!おねがいですからはなしをさせてください!」

「まぁ、うらやましい。腕を組んでもらえるなんてよかったわねソフィア」

「わたしはおかあさまとお話がしたいんです!」

「ソフィア、そしてシルヴィア。ここにはいないけれどアイザックも。わたしは、どこまでいってもマリーゴールドとは相いれないのですよ」


 ソフィアの力が抜けて扉が閉まる。 

 最後の一言の意味を兄妹の中でいちばん理解してしまうソフィアの絶望は、家族の問題だと割り切らなければならない。


「うわぁああん!あああああ!」


 ぼくには、わんわんと泣くソフィアに胸を貸してやることしかできない。

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