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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
マイナスオーケストラ 編

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396/411

25 Gematria


 玉座の間に席はただ一つ、部屋に一人で座するバルトと合流する。


「本選への出場、おめでとう」

「どうも」

「あちらの人払いも済ませてある。いくぞ」


 バルトを伴って転移する先は、シドの独房だ。


「楽器はどうだったよ、音楽家」

「いい調子だ」

「そうか。で、やかましそうなのを連れてるわけは?」

「話したいらしい。僕はそろそろ、長旅に出る」

「ジョシュとチェルニーはどうする」

「面会の件も含めて、話にきたのだ」

「なるほど。あんたたちは俺が大人しく縛られている方が都合がいいだろうから、それなりの対応をしてくれるんだろ?」

「2人はリアムの付き添いなしで面会できるよう取り計らおう。活動拠点のステディエムからの移動は、スカイパスを経由することになろうから、これまで囚人シド・クリミナルが作った楽器に対してリアムから支払われた買取金から賄う」

「いいだろう……せっかくだ。こうして内密に話ができる機会はそうない。バルト王。あんたの覚悟について問わせてもらおうか」

「直答しよう」

「……俺はVOXの一人とどうしても殺し合わないといけない運命にある」

「けったいな」

「殺意と孤独に溺れて自暴自棄になっていた時の俺は強く求めていた」

「名前は」

「ニケフォーレ・クリミナル、かな。今はどうか……」

「報告は受けている。その子は──」

「BCの実弟」

「たぶんな。……ニケは俺と同じだ。他の奴に呑まれるなら……あいつは、自分で取り込むことを強く渇望するだろう」


 シルク、シド、コナーの証言から得たファウストリストに載っていた名前だ。

 近頃、各国で奇妙な噂が立っている。ヘイジーの噂もその一つだが、それに紛れて、異変が起きつつある。

 村がひとつなくなった。

 人がいなくなった。毎日一人ずつ消えていく。

 夜の街中に雲が漂っていた。


 シドの自供とコナーとリアナの情報提供、それに立ち会った際にVOXについて知れたことは、どこぞ集められた子どもたちが育てられる施設にいたレトリカル・レメディと名乗る女性とアダムという男の存在、アダムが書いたベルの記憶の書の存在、そして、子毒という習慣の存在。


 かつての聴取で、コナーは子毒の意義を語った。


「蠱毒とかけたのでしょう。でもあの施設の中で行われていたことに限っては、真意は別にあった。私やシドが能力開花したのは、ルームメイトを手にかけた後だった。わたしのルームメイトだったリチェルカーレは気づいていたのだと思う。受肉だけでは足りなかったんだ。称号楽曲を機能させるためには、受魂させなければならない。それはつまり、魔力を供給する先のない魂を用意してもうひとつの系を生命の中に作り上げることに等しい。その系というのはドラゴンのノードのことだ」


 称号楽曲はただ移植するだけでは、ノードを生み出すリソースが足りないということらしい。


「ドラゴンが魔法を使えず、人がノードを使えず、しかし竜龍人(ドラコニス)はどちらも扱える。けれども、だれもがドラコニスになれるわけではない。たしか、この国の第一王子が留学という形で国外に出ていたのは、龍人になるためだったと聞いたことがあります」

「……わたしの息子の第一王子アイザックは龍人となるためにアンバーズハウスに滞在している。なかなかに苦戦しているようだ。ソフィアの婚期が遅れているのもそのせいなわけだが……」

「どうかされましたか?」

「……この場で話すことではないのだろうが、外で遊びたいアイザックと結婚したくないソフィアが結託してこの状況を作っているようでな。王太子のアイザックの嫁はわたしの妻の一人のジャネットの姪、つまりノースノードのカプト・ヘッドの子供のひとりなので、アンバーズハウスにも馴染みのある子なのだ……」

「仲が冷えてるよりいいんじゃ?」

「あちらにすべてがそろっているのに、厄介ごとしか残っていない国に戻ってきたいと思うか?」

「戻ってこないといけないときは戻ってこないといけない。そういうもんでしょ、王族って」

「ゼンライカを受け入れる条件のひとつとして、ドラコニスの素養がある王子王女がいないかを検査し、素養があるものを一人だけドラコニスにしてもらう案を提示した。しかし求めた対価がやはり大きすぎたため、あちらからもうひとつ要求があり、両国の友好関係をより強固にするために次期王配としてカプトの人間を輿入れさせることだ」

「『は?』」


 ……ん?被った……まぁいいけど。


「あの、ハイドが質問があるって」

「なんだ」

「そのふざけた条件はなんだ。そもそも竜じ……ドラコニスを人ごときの政治的思惑で誕生させるとは何事だ。挙句にノースノードを管轄する龍頭(ヘッド)が、権力濫用しているのではないか?……だってさ」

「……聖戦の爪痕を癒すのに、彼らも必死なのだ。そう責めてやるな」

「うわずっる」

「なにがずるいものか!」

「その地政を利用してる事実をしれっと省いて関係ないみたいな言い方するから」

「お前が話を途中で遮ったんだ。わたしだってな、最初は私権に背くのではないかと考えたとも。だがな、神竜教なんてものが起こってその集会が活発化しはじめて、さらにはドラゴンの権威を守らなければならないと息巻く若者たちによって、ドラコニスになれなかった者を明確に下に見る輩が増えている。外部のわれわれができることといえば、そういう守るべき人々の受け皿となることだ。衰退の途をたどるだろうが、それもまた自然な敗者の摂理だろう」

「摂理で片づけていいものか……この場は、ぼくはハイドを擁護させてもらう。アンバーが動いて聖戦がはじまったのは、先に人がドラゴンとの盟約を冒涜したからだ。この世界のすべての魂と魔力とつなげている生命の木をケルビムが生み出して、その神木(しんぼく)の枝を手折りドラゴンの輪廻(オービット)-Orbit-を世界の摂理に組み込めるように王のアンバーに授けたまではよかった」

「神樹ではなくて神木?聴き馴染みがないんだけど、リアム」

「あ、馴染みないよね。聖書とかアンバーがラスボスの勇者物語とかだと神が眠りについている神樹(しんじゅ)と呼ばれるものは、善悪の知識の木という一本の独立した神木なんだ。だけど、本来は生命の木も併せたこれらを神樹というのが正しい」

「そんなことが……」

「バルト王もしらなかったんだ。でもパトスはしってるよね」


 リアムがそう問いかけると、バルトがパトスを呼び出して確認をとる。


「リアム、あまり輪廻や神にかかわる話は……」

「コナーはたしか、ガポンの屋敷でエデンを巡る輪廻をレテとソーマで語っていたけれど、レテはアースから生命の木をつなぐ(エッジ)で、ソーマは生命の木からアースを留めるエッジのことで合ってる。エデンはこれらを管理する領域(オービット) 兼 生命の木に光を注ぐカヴ-kav-システムの延長みたいなものの別称だったりする」

「おいこら、無視するな」

「ちゃんと選んで話してるって、パトス。そいで、生命の木の枝からアンバーが作り出したドラゴンのための水晶輪廻ノード・オービットでのレテにあたるエッジはテール-Tail-、ソーマにあたるエッジのことをヘッド-Head-というんだ」

「テールとヘッドって、竜と龍を宿すドラコニスたちのそれぞれの長の呼称じゃないか」

「そりゃあ、ドラゴンの輪廻(ノード・オービット)は生命の木を巡るエデン・オービットの縮小版だからさ。管理者がいるでしょう?最初のドラコニス初代ヘッドテールはノース・オービットの代行管理と護りの役目をもっていたからその名残だね。……だけど、だからこそ問題が起きてしまった。すでにこのアースに妖精やらが誕生したあとのこと、生命の存在そのものに神の片割れが疑義を抱いた。神は創世にあたり正光教でいうところの自らの神光(ひかり)を注ぎ、魔力という力を妖精へ与えた。妖精は自分たちを崇めるけれど、作ってみたはいいけれど……けれど、邪神は満足できなかった。そこで、アースの存続という願いを持つドラゴン、もう一柱の神、そして聖霊たちが協力して邪神を眠りにつかせた。善と悪の木という邪神の成れの果ては、生命の木とつながりが保てるように近くに置かれ、そうして後世でこれら2つの木が神樹とよばれるようになった」

「邪神はなぜ」

「疑問を遮ってしまうけれど、錯乱がはげしかったようで、アースの保護と破壊の思考のはざまで揺れていたらしいよ。妖精は等しく神を含む創造主たちを敬っていたし、神もかれらのことが、かわいかったはかわいかった。でも作ってみたのはいいものの、自分が彼らと同じ不完全な存在だとか、そう思うことが苦痛だったんじゃない?」

「作品にはとことんこだわりたい主義だったということだろうか」


 コナーのような人間の視座なとらえ方をすると、邪神が自らに投影した創造物の不完全さがさらに荒立つね。


「そんなこんなで、休眠モードになって邪神から流れていたひかりは省量になってしまった。となると、その分の補完をしなくてはならない。補填するか、省いて効率化するのか」

「だれかが身を削ぐというわけか」

「一番の候補は他世界からの飛来者、とか」

「直感ならそうなるのかなぁ。その辺は、盟約を反故にしてアンバー率いるドラゴンになにもかもが滅ぼされてしまってもいいなら、って感じもするけれど」

「だが聖戦では人が勝利したではないか」

「ケルビムという犠牲を伴ってね。それも完結した勝利じゃないことは知ってるよね」

「しかしその程度の敵なら総力をもってすれば……いかんな。平和的な解決ができるならそれがいいに決まっている」

「知らなかったんだよ。ケルビムがアンバーを侵害しうることを当時はだれも知らなかったし、なんなら、ほんとうにできなかった。それをアンバーが神樹を目指した時と状況ではじめてしったわけだ」

「ケルビムが、というと?」

「そもそも、2人はケルビムがどれほどやばい存在だったか知ってる?」

「……命の精霊王で、彼女をうしなったことで世界から死の属性を忘れさせなければならなかった」

「しかし不足分は……その、おまえの中のかれらを失った分の運行分であって……そのぶん、ダンジョンを作ったわけだ」

「そう。そうやって正しく認識してやるべきだ。2人のほかに何十万という魂が一緒に犠牲になった。でもすべての魂が死の魔力が次の生までの運行に事足りる死の魔力を抱えて逝けるのなら彼らの分の喪失は省かれた者が削られたのだから問題にならないはずでしょう?」

「言われてみれば、そうだ」

「実際は、死の瞬間に生まれる魔力はエデン・オービットをめぐるためのエネルギーとしてぜんっぜん足りない。せいぜいが、レテの端にたどり着くまでのもの程度のこと。そこから先は命の三大聖霊たちの手によって案内されることになる。さて、聖戦で失ったのは、ケルビムだけではない」

「そうだった。失念していた」

「ソーマだ。ソーマとケルビムの代わりを果たすために、ベルは……ほんとうに、すまないことをしていると思う」

「……ケルビムはね、ヴェリタスとイドラの半々の光、神力(オウル)が混ざり合って生まれ落ちた宇宙という生命の、半分のオウルをすべる存在だった」

「ヴェリタスとイドラの半々で1にした物の半分だって?」

「それでは、ケルビムはオウルというパワーゲームにおいては、神と対等の存在ということではないか」

「大正解。でも厳密には、ヴェリタスとイドラよりケルビムのほうが上だった。本来なら、ヴェリタス=イドラ=聖霊ケルビム=他の聖霊たち、という構造が生まれたままの力関係になる。もしそのままヴェリタスとイドラが聖霊統一に動けば、ほとんど最後には何も残らないか、ほんとうに何も残らなかった。でもそこへ、ラッキー、ヴェリタスとイドラの宇宙の外からドラゴンという来訪者がやってきて、交渉というものを学んだ。ついでに宇宙の外にも別の宇宙があることを学んで、異世界から知識ある原初の勇者を喚びヴェリタスとイドラはオウルを勇者に分け与え交渉含めさまざまと未熟な自分たちの代わりの使者として、安住の地を作ると交渉することでドラゴンの協力をとりつけ宇宙をひとつにまとめたのでした。そんな偉業を成し遂げた勇者は聖霊王シエルとなってドラゴンたちに安住の地をあたえるのに乗っかって生物を生み出すことを提案し、精霊王たちとともに生命の木とこの星をつくりましたとさ。手ずから生み出した子が愛を知らない神にひっちゃかめっちゃかされたらたまらないから、地上へ不干渉とすることを約として結び、シエルはその代償に自らも不干渉を貫くことを誓った。で、さっき話した善と悪の木の話につながって、シエルは邪神への対応に関してのみ、合意を得ることでシエルと善神の干渉を許す約を結びなおした。シエルはいまも、善と悪の木の監視を行いながら、星を見守ってる。ゆえに、善と悪の知識の木となった、そういう成り立ちを経ていまの世界がある……これで原初の聖霊王ケルビムがどれほどヤバイかわかった?」

「……なんとおそろしいことを……」

「……訊ねたいことが多すぎて、開いた口がふさがらないよ。……たとえば、君は、ケルビムがかつてできたことをそのまま引き継いでいると考えていいのだろうか」


 コナーの頭の回転の速さはあいかわらずだね。そっちはリチェルカーレに負けっぱなしだったから、記憶力のほうがじまんだっていってたけど、十分だと思う。


「アイン・ソフ・オウル……無限の光には所有権というべきか、管理権限がというべきか、そういったものがある」


 日本語的には、無限は、限りの無いこと、そして、無に限りをつけること、とも読める。元の世界の概念でこっちの世界の摂理をみてみると結構おもしろいね。シエルまさまさだ。

 アインは虚空、アイン・ソフを原初の神のすがただとして、原初の神の収縮(ツィムツム)空間(テヒール)をつくられた。そうすると、光の残り香ってかんじの神力はほんとはレシム- Reshimu -と呼んだほうがいいのかもしれないけれど、神力の源である神光(アイン・ソフ・オウル)と割り切って、通りのいい神力(オウル)としておこう。そうすれば、聖霊たちの光には魔力(オロット)-Orot-を充てられる。


「宇宙をギュッと縮小したとする模型として、完全導体反射率100%の球体を用意する。さらに同じ素材の板を何枚か球体の中に入れる。その球体の中に光線オウルを放つ。光の速さは、凝縮した分おそくするなり、頭の中で柔軟に変えるといいよ」

「わかった」

「いや、ちょっ」

「オウルの運行に表れる差というのは、球体の中に入れた何枚の板を、どのくらいの速度までで動かせるかの差だと考えてもらえばいい」

「宇宙という単位では、総量がかわらないことを前提としているわけか。人の持つ魔力の保有量という概念と重ねてしまっても別に問題はないんだろうけれど、本質をとらえるならミクロすぎる。マクロの視点として説明してくれたんだね」

「そゆこと。より本質を知ってほしかったんだ」

「まてまて、私にもわかるように説明してくれ」

「……ここにコップがあるとします。コップはアースね。オウルは水ではなくて、たとえば砂だと考えてほしい。コップの中に注いだ砂を匙でかきまぜている。この匙をもっているのが、神やケルビムとする」

「ほう」

「さらに砂粒は一粒ずつが同じ色の棒にのみ引かれる9ほどの色の塗料で色付けされているとしよう。8を束ねるとようやくケルビムの匙になるような針をそれぞれの精霊王が持っていて、コップの中で好きかってにまぜることができる」

「なんのためだ」

「しらないよ。していえば、ただあなたに説明するためだ。それにこのモデルだと匙と針の干渉の奪い合いが顕著になるし、いっそ匙と針それぞれ用のコップを2つ用意するかって感じにしないと、ある程度の確度を確保できない。まぁ、針がひきつけられていない砂粒があるでしょ。そのどれか一粒二粒三粒を自由にうごかせる力が魔力ってかんじ?」

「人が動かす魔力とは、そのほんの粒を意識してうごかせることと同義ということか」

「まぁそゆことですわ……なんか疲れてきたなぁ」

「ケルビムを内包しているおまえが人間ごときの疲労という尺度にあうわけがなかろうに」

「精神は人間なの。こころも人間なの。……でも、鈴華をたすけるいちばん簡単な道は、人と言うくくりに縛られるぼくの手の届く人間以外をすべて滅ぼして奉仕先を潰えさせてしまうことだ。神はぼくにそうしてほしかったのかもしれないね……」

「ぶっそうなことをいうな」

「しないよ。鈴華に泣かれたくない。で、邪神の封印でかきまぜていた匙の一本がコップから引き上げられて、まあまあな量の砂もいっしょにコップの淵の外に引き上げられたわけ。神光の蛇口の神力(オウル)、転じて魔力(オロット)の源が減ってしまったから、将来増える人類の数を維持しながら、その欠落分をカバーするために人種を作って補完したわけだ」


「「……だ!?はぁ!?!?」」


「うん。さらに──」

「まてまてまてまて!!!」

「そうだ!さらりと進むな!」

「質問はあまり受け付けたくないな。このことについて本でも書こう。だからそっちをどうぞ。ぜひ買ってね」

「こうしてはなしているのだから質問がタブーというわけではないのだろう!?」

「あなたはパトスにきけばいい」

「いや、だが……」

「ぼくはどうすればいいんだ!?」

「コナーは、がまんね」

「そんな酷な」

「落ち込まなくても、ぼくが話すこと以外をパトスがべらべらしゃべるともおもえないし、ねぇ?」

「まぁ、そうだな。わたしはスケープゴートではないのだが」

「でもしておかないといけない。リアナのことにアウストラリア王家もまったくの無関係というわけではない。これは君の落ち度でもある、パトス」

「……ソフィアだな。まさかデルフィニウムが、かつてのシルクだったとは……情報をかくしていたのは、なにかやましいことがあったのだとおもわれてもしかたあるまい。しかし、ソフィアは当時の周辺の状況を鑑みた結果として、その事実を隠していたのだという。妹のシルヴィアもまきこんでしまっていたあとだったからな。とはいえ、リアナが望むのならば、デルフィニウムの名を捨てさせる命をだすことも辞さない」

「それは……シルクの身内だった者として、できたら、続けられるように取り計らってほしい。きっとシルクだったリアナにとって、救いだったはずだ」

「……」


 リアナの妙な企みにまんまとはめられたぼくは、そうおもわないけれどね。……そうであれば、もっと別の着地点もあったかもしれない。


「判断は当事者たちにまかせる、ぼくはそれでいい。──で、さらに、だ」


 さらに──を、遮った話の続きがはじまってしまうと肩をふるわせたバルトとコナーは、こちらに視線を合わせようとせず、しかし逃げ出すこともできずにそのまま互いの視線でおそろしいことがおこるぞと合図を送ったまま固まった。

 妖精よりも魔力が少なく寿命も短いまるで食材扱いの人種の存在というのは合理的でも真実としてエグいし、エグみが、灰汁となって浮上する。


「人と妖精の混血を数秘種(ゲマトリア)という。そのゲマトリアを祖とする継承種が、魔人と獣人だ」


 レイアたちの父エドガーが混じりと呼んでいた存在の名と魔族と獣人のルーツを簡潔にだが知ってしまったコナーとバルトは、ただただ沈黙した。


「神の写し身たる聖霊に世界改修の役目(ティクン)のために造られた妖精に、悲しみに震える手で造られた種の人種がまじわった結末の3番目に、神の知らない子供たちが生まれたのだから、喜んでしかるべきところを、ゲマトリアはけじめを食うこととなった。妖精族は自分たちを精霊と同じ聖霊のミミクリーと考えることは恐れ多くとも、精霊を友と呼び、同じ光の世主(せいしゅ)クリパ・ノガの人種を幾何学の大地の民(ゲオメトリア)と呼び、こと、封印された邪神のニツォツォットの還納を自分たちの役目だと譲ろうとはしなかった。(カヴ)を通り異界より(オウル)と共に降り注いだレシム・ケリムの勇者と呼ばれる例外たるものの本来の役目は、例に、眠りについてもいまなおこの世界とのつながりを持つ邪神からはじけとんだオウルの火花のニツォツォットを回収して合一(デペクト)し、神樹へと返すことだった。マルクトを手にした者はカヴァナと呼ばれ、その任に就き、もしくはカヴァナのほとんどを妖精族が代々と担ってきた。戦争にまで至った魔人との確執は、その妖精の偏見との長年の摩擦によるところが大きい。信仰の強い古い妖精種は妖精族を自称しない。創造主たちの設計こそが至高だという、ある種の矛盾を抱えているからだ」


 手にしていたのはマルクトではなく、土の精霊王ソロネの超弦”ジュピター”だったが……史実に、ベルの前任の勇者(カヴァナ)は、マルデル・スプライト・フレイヤだった。


とっちらかっていた世界観を整理した回でした。

次回も引き続きます。

読むなとは言えないのでへぇーそうなんだぁ、くらいの軽い気持ちで大丈夫です。

第三部はかなり不親切なため、この回だけでも念のため、あとがきにて本話・次話の用語を一部ピッキングしてまとめておきます(確認用(おみやげ)なので飛ばしてOKです)。


1. 宇宙・世界の構造とシステム

神光アイン・ソフ・オウル:原初の源

・神力(オウル / Aur):ヴェリタスとイドラと聖霊などの「単数・源流の光」

・魔力(オロット / Orot):人や妖精や魔族や精霊が取り出す「複数・流出した無数の光」

・エデン・オービット:神とシエルたちの意向でケルビムが生命の輪廻

・ノード・オービット:アンバーが作ったドラゴン輪廻(意図せずエデンの下位輪廻となった)

2. 種族・ルーツ

・ゲマトリア(数秘種):人と妖精の混血。このゲマトリアを祖とする継承種として「魔人」や「獣人」が生まれた。

・クリパ・ノガ:人類のうち妖精と人種など、神に直接造られた者たち。

3. 役割・使命・歴史の概念

・カヴァナ:マルクトを手にした者、あるいはカヴァナの使命を負った歴代の勇者。

・ティクン(世界改修の役目):世界改修のための役目。

・ニツォツォット:封印された邪神からはじけとんだオウルの火花。これを回収して合一(デペクト)し、神樹へと返すことが勇者カヴァナ(ティクン)とされる。

・レシム・ケリム:異界より神の(しめい)と共に降り注いだレシム・ケリムの勇者(シエル、ベル、リアム)


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