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アナザーワールド 〜My growth start beating again in the world of second life〜  作者: Blackliszt
マイナスオーケストラ 編

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387/417

16 Oval


 ……ヒューズ・ギガ・アウストラリス、──今はノクトと名乗ろうか。


「……それは、Rubia argyi の”大空の騎士”に出てくる家の名前ではないですか」

「然り。あの読み物はなかなかにうまくできている。ボレアス、ノトス、エウロス、そしてゼピュロス。名前は書き換えられているが、何か引っかかることはなかったかな?」

「……引っかかりはまあ、あります」

「たとえばなんだ」

「ゼピュロス国の伝統と残ったフラワーランゲージとロマンスの筆花(ひっか)の文化的な既視感」

「賢い。いいぞ。ならば私から語ることは多くない。これはアリスに収められているであろう知識なのだが、アテナという女神は後にミネルヴァという女神として同一視されたのだとか」

「読み物としては面白いですが、あそこの書物は善神ヴェリタスが神樹となり目を瞑る悪神イドラに世界のことを読み聞かせるために筆をとって書かれた知の一部(しょぞう)だとか、悪神イドラが眠りの中で見た夢が世界に顕れた、いわゆる悪夢だとも言われています」

「所詮は2柱以外の神の存在は誰かの創作だと」

「はい。現に聖戦は起こった。生き証人は山ほどいる」

「眉唾の話かどうかはまぁ、この際どうということはない。論点はそこじゃない……生前の私は、とある猫を飼っていた。銀白色の毛並みの美しい気品溢れた子だった。愛いやつだ。あの子の前でだけは、私は不遜さを忘れて、ただただ愛でることの静けさに没頭していた。ちょうど、今、君に語りかけているようにな、ソフィア」


 確かに目の前に顕れたヒューズからは王の威厳というものを感じない。身内にのみ向ける親しみに溢れている。


「腑に落ちましたわ。やはりこれは私の夢の中なのですね」

「それでいい。だが、私は後継者をお前に決めた。継ぐべきものはしっかりと継いでもらう」

「……後継者?わたしが……王座を望んでいる?」

「お前に託すのは、オーヴァル<oval>だ」

「それは……あなたの白豹の名前では」

「かつて、世界には光のボレアリス家、そして雷のアウストラリス家があった」

「光の……セラフィムは正光教の教皇と代々契約をする精霊です。ありえない」

「正光教の誕生よりもずっと昔の話だ。故あって、ボレアリス家は潰えた。潰えた理由は君たちにとってはもう些細なことだ。しかし忘れることは叶わない。なぜなら我々がアウストラリスであるからだ。私も王になる前は父に時には学び、時には反発する一人の童子だった。君と同じ眷属だった時代がある。私はその当時、独力で帰還雷撃へと至った」

「エンペラーの列路を通って、あるいは何かしらの力を利用して……それでも帰還雷撃へと至るには相当な才能が必要な筈です。それを眷属で、独りで成し遂げたのですか」

天円光雷(オーヴァル) は、光電融合であり、光電変換を行うための光電変換素子を扱う。たとえば、光電変換では太陽の光を集めて、絶大な発雷を可能とし推進力へと変える。単独で送還雷撃へ至ることはほぼ不可能だが、エンペラーなしで単独で帰還雷撃へと至ることができる……威力は絶大だ。巻き込み、焼き尽くす。慎重に使いなさい」


 ヒューズは2つの光円ボレアリスとアウストラリスをソフィアへと見せ、その魔法式と変換法式を伝える。


「建国のため、パトスとパワーズは兄弟のように扱われるが、実際は、セラフィムも含め3兄弟の様相を呈す。ギルが黒体と呼ばれたのも、熱電光の変換を上手く扱えた基礎あってのことだ。その基礎作りのためにパトスやパワーズは眷属という形で王卵(オウヴァム)<Ovum>を与える」

「ドラゴンの卵と円環のような……」

「壁を突破するため、人と精霊は、(ドラゴン)から学ぶ。改めて、ボレアリスとアウストラリスだ。どちらか片方を相手にマーキングしろ。そうすれば、2つの円の間の光電覇路(こうでんはろ)に乗り、あとは雷光に身を任せる。上手に使えばエンペラーのように貫通もできようが、こっちの主体はゼロ距離からの砲撃や放撃なので、用途に応じて活用しなさい。また、ゼーベックとペルティエ・ジュールなどについても個人的に学んでおくことを薦めておく。おそらくは、アリスの図書館のどこぞに埋もれているだろう」

「なぜ私を選ばれたのでしょうか」

「お前は……強き者だ。心の底から私が畏敬の念を抱くほどのお前の掲げる直列路(いっぽんみち)に誰にも止められない王道覇道を見た。……眷属によってMugunus opusの形が違うだろう。君の霆剣はそれは美しかった」 


 自分が何者なのか、雲一つ纏わない今日の空の月のように隠しもしないヒューズの振る舞いにソフィアは違和感を覚える。


「これまでの話を踏まえて問おう。なぜ、この国はアウストラリス王国ではないのか」

「パワーズがいるから」

「そうだ。精霊王の契約者の選定に関わる王卵(オウヴァム)天円(オーヴァル)の知識は私がパトスから聞かされた話だ。無闇に誰かに訊ねないほうがいいだろう。王選の開催を申し出るようなものだ。もしソフィアがボレアリスとアウストラリスを(オーロラ)にできる傑物であれば、(パトス)は兄のアイザックではなく、君を欲する。仕組みを理解できたとて、壁を破るには生まれ持った才能が必要だ。エンペラーがあるとしても、破れない壁がある」

「だったら尚更にあなたは私の前に現れるべきではなかった……!」

「俺は寝付けぬ夜の憂き目にたゆたゆ亡霊(あだばな)よ。お前が手記により多くのしあわせを書き留めることを願う。さらばだ。我が愛しの家族たちよ」


 ヒューズの姿は、宵闇に消えるように黒い霧となって窓の外へと風に乗って運ばれていった。

 

 ソフィアの自室の扉が開く。


「いったい、なんなの……なんなのよ!!!」


 ソフィアは急いで自室を飛び出して、城の廊下を走り抜ける。


「あの子は!」

「本日はアカデメイアにお泊まりになられております」

「なら都合がいいわ……私もアカデメイアに向かいます」


 城を飛び出し、ミネルヴァを囲むように建設されたアカデメイアへと急ぐ。


「エレア!」

「ソフィア……?」

「Rubia argyi の4つの家の名前について心当たりはありますか」

「ああ……ファンタジーの書庫に似たような名前がありました。ノトスの同一視アイデンティフィケーションに親近感を覚えたので、よく覚えています」

「他の家のアイデンティフィケーションは!?」

「えっと……書庫の本を見た方が……」

「探すの手伝ってもらえませんか」

「はい。でもどうしたんですか、そんなに血相を変えた姉様の顔を見たのは初めてです」


 ソフィアは第3妃シータの娘エレアを連れて、アカデメイアのエレアの書庫へと向かいながら話を続ける。


「大空の騎士の物語は堕ちた妖精の物語でした。設定はものすごく陳腐で、しかし、無視できない堕ちた妖精の叛逆はとても痛快で面白さは読者数がすなわち支持を表している。そして当然のようにフィクションとして受け入れられている」

「先ほどご指摘のとおり、アリスの図書館にあったファンタジーの名前なんかもありましたし、事実、そうでしょうね」

「あなたには色々と助けてもらっています。マリーゴールドの作品はミネルヴァのアイデアと私の描くフィクションの習合といえるでしょう。習合(シンクレティズム)とも言えるものです」

「そうですね。Rubia argyiの大空の騎士だってそうと言える」

「……仮に、大空の騎士が習合よりも同一視に近い作品だったとするならば、同じような歴史が過去にあったのかもしれない」


 アカデメイアの書庫の棚の並ぶ中、ソフィアとエレアは過去のミネルヴァから持ち出された目的の知の書き本を探す。


「ボレアスは潰えノトスはアウステルへ、エウロスはウルトゥルヌス、ゼピュロスはファウォーニウス。ボレアスとノトスがボレアリス家とアウストラリス家に翻訳されるのなら、エウロスとゼピュロスの象徴する家はどこ……」

「ソフィア。ウルトゥルヌスは風神なのですが……同じ綴りで発音の川の神様がいます。川神様の方は王が庇護される形で政治的正当性の象徴ともなる場合のある国家神格ではなく局所的で民間信仰に近い小神格を持つそうです。東の運河の管理をし、精霊王との契約者でありながらパトスとの上下関係に甘んじている。ハワードにそっくりではないですか」

「そしてゼピュロス……ゼピュロスの妻、クロリス。クロリスはフローラとなっている……ロマンスの首都は」

「フローラ……ロマンス初代女王の名前」

「なんてこと……」


 ここまで心が躍るのはいつ以来だろう。そして、ここまで心が寒いのはいつ以来だろう。


「しかし、わからない。なぜRuiba argyiはこんな真実を広めようとしているの。ミネルヴァの理解が進めば、いずれは明るみに出てしまう」

「人魔大戦のまたの勃発を狙っている、とか?」

「いいえ。大空の騎士で描かれていたのは、人と魔の反目ではなかった」

「妖精と魔精との対立の方が過激でしたね……つまり人魔大戦とは名ばかりで、妖精が人まで風呂敷を広げた結果が先の大戦の元兇?」

「わだかまりの火種は燻り、何かしらのきっかけを得て炎上したのでしょうね」

「でも、もしこれを真実として受け入れてしまったら……」

「エレア……大丈夫?」

「少しガッカリして……やっぱり、Rubia argyiは、あの人ではなくて、彼女だったんですね……」

「どうしてそう思うの?」

「だってあの人はまだミネルヴァに一回しか入ったことがないんです。誰かに世界の広さを魅せることができる。快進撃を続ける彼は、わたしの憧れの(ひと)でしたから」


 こんなにミネルヴァの(ファンタジー)に迫った創作物を書ける筈がない。エレアは書室に飾られた机の上に氷の花の蓋を開いて、惜しむように再び蓋を閉じる。 


「ケレステールに出てくるスコルとマーナというのは、また別の体系の神話に出てくる狼がモデルではないかと思われます。ケレステールのモデルであるケレス、あるいはデメテルは(ヘリオス)(ヘカテー)の助力で、冥府の主たるハデスにさらわれた娘の居場所を知ることになった。気温は巡る。しかし冬であろうとライ麦の枯れないケレステールは季節(ハル)を忘れた徒庭(あだにわ)。知っていますか?ケレステールでは、外から持ち込んだ植物や花を育てようとしても成長が途中で止まってしまい咲かないし実を結ばない。交換品から生じた種も同じくです。しかしこちら側でなら種も育つ」 

「だからケレステールがあっても農作を減反する理由にならない。ノーフォークが農業都市と言われる理由の一つですから、ええ、存じています」

「これまで出現したダンジョンの形態は大きくスカイ、フィールド、アンダーの3分類であり、ギリシャ神話では、天上、地上、地下に世界はわけられていました」

「分類はあくまで分類……しかし、ミネルヴァを読み解けばダンジョンの謎に近づくこともまた事実なのだとわたしも思います」

「各ダンジョンの入り口に刻まれている名、これらからダンジョンを通じて示唆されるのは、ベルの存在です。ミネルヴァのかばん語、いえ、ベルのかばん語と言うべきでしょう。ベルはベッセルロットの鯱にネイドンと名付け、また、同じ名が彼の地のダンジョンについている。ミネルヴァの知を参照しケレステールの法則に沿うのならば、ネイドンはかばん語です」

「しかし、7番目に現れたのはメルクリウス」

「7番目の例外があるとしても、これは明らかに人為的です。何かを誰かに伝えようとしているのではないでしょうか」

「誰に……」

「攻略者や研究者か……ですが知ればわかる。ダンジョンは同一視と習合の塊である。だから知れば際立つ。その歪さと意志の込められた作品であることが」

「何を……込めたのでしょうね」

「……わかりません」


 たとえば……オーロラ。

 エレアに問うたソフィアの脳裏によぎったのは、ケレステールのラストボス戦で現れた極光であり、ヒューズの残した言葉の一つ。

 光のボレアリス家、雷のアウストラリス家、火のハワード家、そして花のロマンス家。

 モデルが出揃ったが、結局のところ亡霊の念仏は夜の夢のままに、与り知る人の真意とて、肉声にならないのならばと、わからないままだった。







「エレア。あなたが発見したかばん語の件も広がりつつある。この件の吹聴は危うい」


「はい……」


「微睡みましょう。寝惚けて忘れましょう。ベットに戻り、また朝を迎える……きっと、それがいい」


 大空の騎士の内容は、創作であれ、衝撃的な切り口だった。


「あの……」

「なに?」

「一緒に寝ましょうか?」

「そこまでわたしは自分を取り繕えていませんか?」

「お顔が優れていないようなので、心配で……」

「ありがとう。でも私の心の音は至って静かなものよ。もうお友達を疑るのはたくさんなんです。疲れているだけなので、暁を覚えず朝寝でもすればスッキリと元通りでしょう」

「では、わたしはもうしばらくここに残りますね」

「エレアもほどほどにして、ちゃんとおやすみなさいね」

「はい。おやすみなさい」


 これでエレアは一つ勘違いしたままでいてくれるだろうか。

 シルヴィアに種を残して枯れたデルフィニウムの転生先がルビアだと思っている。あるいは、書の協力者名簿欄に名を連ねたカレンデュラの差金を受けている。

 だからルビアの作品は不満を噴出した当てつけに見える。

 たかだか新人作家の書いた実証性のない御伽の昔噺。

 ルビアと妖精の問題についてこれを批判し、王族の立場である私たちが曖昧な裏付けだろうとも吹聴すれば国際問題なる。


 





 ファンタジーなのでしょう。






 魔族の祖は、妖精と人の混血だった……なんてこと、高く登った白昼の日の光を浴びて目が覚めると眩みに慄いてるうちに忘れてしまう程度の夢になってしまっているでしょう。


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