10 Elusive
「逃げないで!」
「逃げてない。歩いていく道をこっちに選んだだけ」
「じゃあ私もそっちを選ぶ!」
「ついてこれないだろう?」
「試しもしてないくせに!」
「だったら君が今度は僕と戦うの?ルイスは僕の背中に指の先を掠めすらしなかった」
「心の繋がり方はひとつじゃない。あなたと私の繋がりは肩を並べて戦っただけじゃない!!!」
ミリアの言葉で、ケレステールで勝利した日にアリアのメンバーで地面に寝そべって余韻に浸った時間をふと思い出した。
「哲学に所縁のある貴いこの空間で無視をするというのも気がひける」
なぜミリアは、こんなに輝いていられるんだろう。
「夏の楽霖祭に出て。私も参加する」
「……なに?楽霖祭?楽鈴鐘祭ではなく?」
「楽霖祭は、霖雨蒼生とともに訪れる鳴神の恩寵への返礼。降り注がれた音を戻入する奉納祭のことです。楽霖祭は学院で開催されるアウストラリア伝統の行事。楽鈴鐘祭は正光教とアウストラリス王家共同で指揮されるベルと英雄たちの霊を祀る行事です」
「そ、そう」
またこの世話焼きは……去年はベルの姿を確認するために楽鈴鐘祭の時期に訪れた。楽鈴鐘祭は、まぁ、お盆みたいなものだ。
「武、魔法の競技会も開かれますが、なんといってもメインは学藝コンクールです。特に、音楽部門では1週間開かれる祭りの最終日に空へ音を納めるイナツルビの奏者を決めます。冬の領対抗戦などが行われる祭りと対を成すイベントとなっております」
「リアム。私と最終奏者を決める音楽コンクールで競って。これは喧嘩よ!」
文化祭とか学園祭みたいなものかなぁ。勝負じゃなくて喧嘩?……ミリアに喧嘩で勝てる気がしない。ふわっと意味は同じ気がするのに、終わり方に決まりがないからか。
「少し考える時間が必要かな」
「勇者らしく受けてくれないの?ここでカッコよく決めてほしいな」
「……ベアトリーチェさん。これはあなたの入れ知恵ですか?」
「いいえ」
「ミリアの考え?」
「イエス!」
コレ、思いついたと同時に動いたろ。降って沸いた我ながらのナイスアイデアに嬉しさが抑えきれてない。速攻自主退学しようとしてたのに、夏まで辞められなくなる。
「ちょっと待ってくださいー!!!」
「……ドリア?」
「ミリアさんその勝負、私も参加します!」
「は?」「はい?」「え?」
……え、なんで。この聖女もどき、さっき胸を貫かれてリヴァイブへ送られたよ。話を把握してるっぽいし、復活してすぐにここまで戻ってきて、ミリアが提示した話を聞いた上で割り込んできたの?……中々のバイタリティしてる。
「もし私が勝ったらルイスさんを許してあげてください!」
「もうケジメはつけたよ?」
「え?」
「それにミリアがふっかけてきたのは勝負ではなくて喧嘩だし」
「まぁ……そうね」
「……なら私もあなたに喧嘩を売ります!大阪や!さっさと買わんかいコラぁ!」
「ッ!?」
やばい、吹き出した。
「なぜお笑いになるのですか!?大阪や!は正義の使者が悪党に向かっていくときに使うベルより伝わりし神聖な文句なんですよ!?……どうでしょう、様になってるでしょうか?」
腹イタイ。
『ベルたちが魔王城の門をどう攻略するかを考えるときに冗談半分で提案されて実際には実行されなかった没案だな』
『どう転んだらそんな伝わり方するのでしょうね』
『……今度喧嘩しゅかけるときに使お……おもろい』
『『辞めておきなさい』』
ファイティングポーズをとりながらオロオロしないでほしい。
にしても、力ではなく芸で勝負ときた。
勢いでここぞというチャンスに飛びついちゃったんだなぁ。
ドリアは何がなんでも、なんでもいいから僕を負かしたいんだろうな。
「あなた国外からの留学生でしょう?参加できるんですか?」
「ドリア様の参加は問題ありません。学外から招かれる来賓奏者もイナツルヒの儀に参加されるためいらっしゃるくらいなので」
「へぇ」
「毎年応募が殺到するので祭りの前に選考を行われるほど大きな祭りなのですよ?学年の垣根なく自由に参加されるのですごい数になりますわ。声楽部や器楽部がグループを分けて参加するため枠が塞がれるので……その、個人での参加はかなり厳しいかと」
「ふーん……団体参加OKなの!?」
「そこが問題ですわよね。開幕で演奏される招待枠のソリストや声楽家の方が舞台に立たれることはあっても、ソロの方が本選に進まれた例はありませんね。お祭りですし一体感が大事ですから」
「ミリアはどうするの?」
「私は器楽部の方で出ることになってる」
「私は声楽部の方に交渉してみます。典礼の練習でお世話になっている方々にお声がけいたしまして、共に素晴らしい──」
「一朝一夕でどうにかなりそうにないんですけど」
「スケジュールは、開催前の予備審査、予備予選、開催後の一次予選、二次予選、三次予選、そして本選。最終奏者となられたらイナツルヒの儀では本選で披露された演目を披露していただくことになるので、競演会を含めて5つ、レパートリーが必要です」
「5つ!?」
ガチコンクールじゃん!?
「圧倒的準備不足!」
「はい」
「はいじゃなくてぇ……外部委託とか?」
「当然、却下です」
「私たちは前年のコンクールが終わってすぐに今年の準備を始めたから」
それはもう故意犯じゃん。
じゃあ新入生の自分がコレから仲間を募って参加するとか無理……でもまぁ、断る口実になる……のか?
「一応、各選考には予備予選5分、一次予選10分、二次予選30分、三次予選1時間、本選10分と目安となる時間はございますが、短い分には特に。演奏の素晴らしさ、感動を与えられるかが大事ですから」
「本選が短いのは奏者の最終選考、兼、演目選考だから?」
「よくお気づきで。ちなみに時間は演奏を始めてから測り始めます」
慰めになんねぇよ!
「それから……」
「それから?」
「機会を広く設けるために初等部と中等部は初等部枠と中等部枠が別に設けられているのでそちらで申し込まれるのがオススメです」
「メリットは?」
「予備審査と予備予選の競争率とレベルが下がるので通りやすい?」
焼け石に水。
「審査員は?」
「ご安心を。学徒会からは会長が参加いたしますが、他はバルト王をはじめ専門家の方など厳正な審査を下さるばかりです」
「毎年、閉会の頃にはバルトおじさまゲッソリしてるわ」
安心できねぇし。……にしても、もしかして、ミリアは自分の成果を見てほしいだけ?
『もし、あなたが迷っておられるのなら、どうかお受け下さりませんか?』
お?
『星を数える役割を買って出たあなたが昼間に出てくるとは珍しい』
『やはり気になりますか、元教皇として古巣の横暴ぶりが』
『マリナさんのおっしゃる通り横暴だと私も思います……信じる神の正体すら知らずして。ベル。あの子を世界に迎えて使命を負わせてしまった。痛恨の極み。神の偽称。しかしそれは時として別の解を削り出して信じるに足る心となるのです。信仰そのものが嘘であるのなら、わたしたちは人の子としてあんなにも素晴らしい役割を自ら営むことができたのだと見方が変わるだけです』
『これだから宗教ってのは、ホント都合がいい……ただの身内かわいさじゃないか』
『ええ。そうですとも。爺は若い光が輝きを放つ機会を見守っていたいのです』
『わかった……受けよう』
『リアム、本気ですか?』
『ワクワクしてる。僕がやりたいからさ。ちゃんと協力してね、おじいちゃま』
自分ひとりなら無理でも、協力者が確保できればいける。
「演出のための魔法の使用は許されますか?」
「爆発などの魔法でなく、かつ、演奏のため必要なら。予備審査で申し出が必要ですわね」
「一人でも参加登録できるんですよね?」
「はい……え、まさか」
「喧嘩、買います」
「本当に参加なさるのですか!?」
「え、散々ここまで説明しといて驚きます?」
「い、いえ。まさか驚いてなどおりませんよ。楽器などは学院の生徒なら予約していただいて備品使用の許可を」
「持ち合わせがあるのでいいです。てか、それだと間に合わないので」
「やっぱり……んー!やっぱりリアムはカッコいいよ!!!」
「喜んでるところ水を差すけど、参加するだけで観覧する気はないから」
「……なんで?リアムに聞いてほしくてみんなで去年から頑張ったのに!」
「みんな?」
「そう。エリシア、アルフレッド、フラジール。そして器楽部の仲間たち!みんなで頑張ったんだよ!」
観客席で話の行く末を見守っていた3人の方を見ると、アルフレッドはニヤニヤと、エリシアは気まずそうに、フラジールは笑顔で手を振ってくれる。
先日はあんな態度をとったのになぁ。
大人になったなとも思ったけれど、変わらないものもあって、みんな、こんなに可愛かったっけ。
「だったら本選まで残ったら見るよ。僕が金賞とるから」
「雷光賞をとるのは私たち!リアムが見てくれなくても、私は全部見るからね!」
リアムはニッコリ笑うとそのままスタディオンを後にした。
雷光賞ね。
ハイハイ……カッコつけて去ったけど、今すぐ準備しないとマジでやばい!!!




