《おまけ》シナリオライターがその気になりました【魔王side】
「うわ~~~~~~~っ!!!」
ガバッとベッドから飛び起きた魔王は、今まで見ていた悪夢のような光景がやはり悪夢だった事に気づいてほっと胸を撫で下ろした。
「あ、あぶねぇ……」
このまま不貞寝したい気分だったが、残念ながら体中に脂汗をかいている。とてもじゃないけれど再びベッドで横になれる気がしない。すぐにでも熱いシャワーを浴びてこようとのそのそとベッドを降りた。
「おはようございます。魔王様。先に起きていらっしゃるとは珍しいですね。随分大きな声が聞こえましたが、何かございましたか?」
言いつけ通りきっちり三ヶ月後に自分を起こしに来たらしいヴァンパイアが顔を出した。何かはあったがとてもそれを口に出して説明する気にはなれず、魔王はげんなりと顔を逸らす。
「別に……」
「そうですか。では、早速ですが天の書が……」
言いかけたまま不自然に言葉を切ったヴァンパイアに、魔王はなんだ?と顔をあげる。するといつも冷静沈着な部下は驚きに目を見開いていた。常に美しい面を乱さない彼にしては珍しい表情だ。
「おい? どうした?」
「ま…、まおう……さま?」
「あぁ?」
歯切れの悪いヴァンパイアの目線の先を追えば、それは自分の胸元だった。怪訝な表情で自分を見下ろした魔王は…………固まった。
「な、ななななな……」
そこにある筈のない物を見つけて二人は絶句する。
魔王の艶やかで豊かな長い髪。米神の少し上辺りから天へ向かって伸びている角。浅黒い肌も赤い瞳もいつもの通り。けれど彼の胸元は不自然に膨らんでいた。恐る恐る寝巻きをつまみ、中を覗き込めばそこにあるのは柔らかそうな双丘。サキュバスほどではないがそれでも十分豊かと言える女のバストだ。慌ててズボンの中を覗けば、自分の股間から男の象徴が綺麗さっぱり消え去っていた。
「無い……」
そこで魔王の脳裏を横切ったのは先程の悪夢。綺麗な花束を装備したキラキラオーラのドS勇者に追い掛け回され、挙句の果てに呪いの指輪を無理矢理嵌めさせられて、勇者の傍から一生離れられなくなるというおぞましいシナリオ。
「い、嫌だ~~~~~~~~!!!!!」
その日、魔王城には主の悲鳴がいつまでもこだましていたと言う。
勇者にとってはボーナスステージ。魔王にとっては悪夢の始まり。
新しいシナリオライターはどうやら恋愛ゲーム好きのようです。
恐らく勇者は最終決戦到達までに攻略時間の最速記録を叩き出してくると思います。
ちなみに魔王攻略の必須アイテムは伝説の剣ではなく女神の祝福を受けた指輪です(笑)
これにて全ておしまいです。めでたしめでたし(?)




