最強?
探索を終えたその日。
シャワーを浴び、夕食を済ませた俺は、ベッドへ寝転びながら動画サイトを開いていた。
『初心者探索者が絶対に覚えておくべき五つの知識!』
『知らないと損する! スキルの基本。魔力操作のコツを元Aランク探索者が解説』
おすすめには探索者関連の動画ばかり並んでいる。
スキル授与を受けてからというもの、検索履歴が原因なのだろう。
「魔力は身体の中を流れるイメージを持つことが大切です」
画面の中ではベテラン探索者が説明している。
「最初はスキル名を口に出す人も多いですが、慣れれば無詠唱でも問題ありません」
「やっぱり、俺みたいな初心者だけなんだな」
早送りで見てから、動画を閉じる。
俺も今日、少しだけ無詠唱に近い感覚を掴めた。
もっと練習すれば、自由に扱えるようになるかもしれない。
そう考えていると、ある疑問が浮かんだ。
「……そういえば」
スキルは俺の攻撃に作用する。
短剣でも。拳でも。蹴りでも。
なら――。
「一度に一つしか発動できないなんて、誰も言ってなかったな」
◇
庭へ出る。地面には小さな砂利が転がっていた。
俺は二つ拾い、右手と左手に一つずつ持つ。
「【固定ダメージ+1】」
右手へ魔力を流す。
複数回のみだが、もう慣れた感覚だ。
では、左手にも。
「……ぉ?」
流れた。
右手の感覚が消えないまま、左手にも同じ熱が宿る。
「両方?」
試しに三つ。四つ。五つ。
指の間へ小石を挟み、一つずつ魔力を流していく。
どれも、ちゃんと熱を帯びていた。
「やった……」
同時に付与できる。
数の上限はまだ分からない。だが、一つだけではないことは確かだった。
その瞬間、頭の中で一つの考えが浮かぶ。
「砂なら……?」
◇
翌朝、俺は近所のホームセンターで園芸用の砂を少量買った。
店員に少し不思議そうな顔をされたが、気にしない。
ダンジョンへ向かう。
入口付近で周囲を確認する。
「近くにはいないな」
俺はポケットから砂をひとつかみ取り出した。
「……やってみるか」
一粒ずつ。意識を向ける。
「【固定ダメージ+1】」
全部に付与できているかは分からない。
それでも昨日と同じ熱が、手の中へ広がっていく。それと同時に力の抜けがひどい。魔力の消費は大きさじゃなく、量なのか……!
目の前にはスライム。
大きく息を吸う。
「それっ!」
砂を投げた。
ぱらぱら、と砂がスライムへ降りかかる。
次の瞬間、ぷるっ!
――ぷるぷるぷるぷるっ!!
スライムの身体が何度も震えた。
「えっ?」
数秒後、音もなく崩れ落ちる。
魔石が転がった。
「倒した……?」
短剣で何十回も刺した相手が、一瞬だった。
俺はスライムと手元を何度も見比べる。
「嘘だろ……」
もう一体。
今度も砂を投げる。
結果は同じだった。
何十粒もの砂が当たり、スライムはあっという間に消えていく。
「やった!」
思わず拳を握る。
「これなら戦える!」
探索者になって初めて。
心の底から希望が湧いた。
「よっしゃああ!」
思わず声を上げた、その時だった。
「……」
後ろに気配を感じる。
振り返る。
奥から戻ってきた三人組が、何とも言えない表情でこちらを見ていた。
「……」
「……」
「失礼しました」
俺は顔が熱くなるのを感じながら、砂袋をしまった。
そのまま足早にダンジョンを後にする。
◇
その日の夜、何気なくSNSを眺めていると、一つの投稿が目に留まった。
『今日、初心者ダンジョンでスライム倒してめっちゃガッツポーズしてる兄ちゃん見たw』
返信欄には、
『初心者あるある』
『最初の一体は嬉しいよな』
『黒歴史すぎるw』
そんなコメントが並んでいた。
「……俺じゃないよな?」
そう呟きながらも、心当たりしかなく、俺はそっとスマートフォンの画面を閉じた。




