お人好し
スライムを相手に実験を続けていると「えいっ!」という声が聞こえてきた。
振り向くと講習にいた女子高生。
聖剣術の子だ。剣を一振り。それだけでスライムが死ぬ。
(速い……)効率が段違いだ。
女子高生がこちらを見る。
「あれ?」
「講習で一緒だった人ですよね?」
「そうだけど」
「固定ダメージの!」
本人は悪気ゼロで笑うしかない。
「一人なんですか?」
「そうだけど」
「私もソロです! ソロだとスキル成長がしやすいと知り合いの講師が言っていたので!」
「へぇー、いい情報ありがとう」
取得した魔石二つを俺は渡した。
「うわ、いいんですか?」
「大丈夫。大丈夫」
別れる際、「あ、私、天城ひまりって言います!」「俺は鹿ノだ」とお互い名乗って笑顔で別れた。
元気な子だったな。なんだか知り合いを思い出して、魔石を渡しちゃったな。
「焦らず、一体ずつ」
第一ダンジョンは初心者向けだけあって、奥へ進まなければスライムしか現れない。
俺にはちょうどいい。
曲がり角から、一体目が姿を現した。
「【固定ダメージ+1】」
右手へ魔力を流し、短剣を構える。
魔力を流す感覚が少しだけ分かる。
それでも、まだ口に出さなければ上手く発動しない。
スライムへ近付き、短剣を突き出す。
ぷるり、と身体が揺れる。
「よし」
焦らず距離を取り、また一撃。
体当たりを避けながら攻撃を重ねていく。
三十分後。
「……五体か」
足元には五つの青い魔石が転がっていた。
腕は重く、額には汗が浮かぶ。
他の探索者なら、もっと短時間で何倍も倒しているだろう。
それでも、先ほど会話して緊張を解けたのだろうか。動けている気がする。
◇
「危ない!」
突然、声が響いた。
反射的に振り向く。
少し離れた場所で、中年の男性探索者が慌てて後退していた。
その前にはスライムが二体。
一体は相手にしていたらしいが、もう一体に気付くのが遅れたようだ。
「くっ……!」
男性は態勢を崩して尻もちをつく。
このままでは二体同時に飛び掛かられる。
考えるより先に身体が動いた。
「【固定ダメージ+1】!」
駆け寄りながら短剣を振る。
一体の注意が俺へ向く。
「すみません!」
「助かった!」
男性はすぐに立ち上がり、自分のスライムを叩き潰した。
残った一体も二人で挟み込み、すぐに倒す。
「ありがとう、兄ちゃん」
「いえ……」
「初心者だろ?」
「今日、登録したばかりです」
「そうか」
男性は笑った。
「無茶だけはするなよ。初心者は助けようとして死ぬ奴も多いからな」
講習でも聞いた言葉だ。
無理な救助は危険。
今回は相手がスライムだったから良かっただけだ。
「気を付けます」
「それでいい」
男性は魔石を一つ拾い、俺へ差し出した。
「これは?」
「礼だ。助けてもらったんだからな」
「でも……」
「受け取っとけ。探索者同士、持ちつ持たれつだ」
俺は少し迷ってから受け取った。
「ありがとうございます」
◇
夕方、管理施設の換金所で、今日集めた魔石をカウンターへ並べる。
「スライム魔石六個ですね」
職員が機械へ通して査定する。
「合計三千六百円になります」
三千六百円。
一日命懸けで潜って、この金額。
「……やっぱり甘くないな」
それでも、自分の力で稼いだ、初めての探索者としての収入だった。
封筒を受け取り、少しだけ口元が緩む。
「明日も頑張るか」
まだ大金には程遠い。
それでも俺は、一歩ずつ前へ進み始めていた。




