スキルについて
スライムを倒した俺は、その場へ腰を下ろした。
まだ心臓の鼓動が速い。
初めての戦闘。
初めての勝利。
それでも、喜びより疑問の方が大きかった。
俺は探索者カードを開く。表示される文字は変わらない。
**固有スキル【固定ダメージ+1】Lv1**
「……結局、何なんだ」
三十回近く攻撃してようやく倒せた。これでは探索者として食べていくのは厳しい。
だが、一つだけ気になることがあった。
「そういえば……」
最初の一撃。
俺は無意識に、「【固定ダメージ+1】」と口にしていた。
その瞬間、右手から短剣へ何かが流れる感覚があった。
講習ではそこまで教わらなかった。
もしかすると、初心者だからだろうか。
「試してみるか」
◇
少し歩くと、また一体のスライムが現れた。
今度は倒すことより、試すことが目的だ。
俺は短剣を構える。
何も言わずに斬り掛かった。ぬるり、と刃が滑る。
「……あれ?」
さっきより手応えが軽い。
もう一度。さらにもう一度。
何度攻撃しても、あの右手が熱くなる感覚は訪れない。
「もしかして……」
俺は息を整えた。
短剣を構え直し、意識を集中させる。
「【固定ダメージ+1】」
その瞬間だった。
右手の奥が熱を帯びる。
魔力が腕を伝い、短剣へ流れ込んでいく感覚。
「やっぱり……!」
短剣がスライムへ触れる。
ぷるり、と身体が震えた。
さっきと同じ反応だ。何度か攻撃を繰り返す。声を出した時だけ、あの感覚がある。
出さない時は何も起こらない。
「スキルを使うには、まだ声が必要なのか」
初心者講習では、魔力操作について深く触れられなかった。
きっと探索者として経験を積めば、変わるのだろう。
◇
「だったら……」
俺はもう一度だけ試す。
口には出さない。その代わり、さっきの感覚だけを思い出す。
右手へ魔力を集める。
短剣へ流す。
(流れろ……)
その瞬間、ほんの一瞬だけ右手が熱を帯びた。
「えっ?」
すぐに感覚は消えた。
成功したのか、気のせいなのかも分からない。
だが――
「今、少しだけ……」
口に出さなくても、魔力が動いた気がした。
偶然かもしれない。
勘違いかもしれない。
それでも、俺は少しだけ希望を抱いた。
「使い方くらいは、自分で覚えられるかもしれない」
スキルは変えられない。けれど、扱い方は変えられる。
「今日はここまでにするか」
……そう思って歩き出した時、ふと足が止まった。
「いや、もう一つだけ試したいことがある」
「武器じゃなくても発動するのか?」
思わず眉をひそめる。
スキルが作用しているのは、短剣ではない。
俺の攻撃、そのものなのか。
もしそうなら、武器を変えても攻撃方法を変えても結果は変わらない。
「試すか」
俺は短剣を鞘へ戻した。
拳を握る。
「【固定ダメージ+1】」
スライムへ軽く拳を打ち込む。
右手が熱を帯びる。
スライムの身体が小さく震えた。
「……今のでも反応した」
今度は足先で軽く蹴る。
「【固定ダメージ+1】」
やはり同じ感覚が走る。
魔力は武器ではなく、自分の身体から流れている。
「そういうことか」
思わず息を吐く。
スキルが作用しているのは短剣ではない。俺自身の攻撃、そのものだ。
武器を変えても攻撃方法を変えても結果は変わらない。
逆に言えば、どんな攻撃でも一は保証される。
「便利……なのか?」
いや、やはり一では少なすぎる。
スライム一体倒すだけで息が切れる。
それでも、自分の力を試さないとチャンスすら掴めない。
「一しか与えられない。だったら、その一をどう当てるかだ」
まだ探索者になって一日目。決めつけるには、早すぎる。




