032.1 過去の記憶
七歳の誕生日を迎えた次の日、僕は両親に手をひかれて本家に連れてい行かれた。
山の山頂まで続くような石段の前で、僕は両親と別れた。
両親は、涙を流しながら「ごめんなさい」を繰り返すだけだった。
ああ、ずっと言い聞かされていた日が来たのか。
僕は心の中で呟いた。
両親は「うちの傍系だから、□□が選ばれることはない」と、僕に言い聞かせていた。何度も何度も言い聞かされていた。
今思えば、あれは僕に言い聞かせていたんじゃない。両親が自分たちに言い聞かせていたんだ。
ストンと何かが腑に落ちた。
僕は涙を流すことなく、両親に向き直って深々と一礼する。そして、石段を一人で登っていく。
石段には土埃一つなく、誰かがついさっき掃除したように綺麗だった。ただし、子どもの足には高い段差で、僕は転ばないように一段ずつ確実に登っていく。
少しずつ、息が上がっていき、額にはびっりしと汗が滲む。
歩き始めて何十分過ぎたのか、僕は大きな息を吐きながら、服の袖で汗を拭う。
肩越しに後ろを確認すると、両親が寄り添うように立って、僕の方を見つめていた。
今すぐ石段を駆け下りて、両親に抱きつきたい衝動が僕の中に生まれる。
ギュッ、と僕は手を握り締め、下唇を噛む。そして、少し滲んだ視界で石段の先を睨みつける。
僕は、ただひたすら足を動かして、石段を登っていく。
どれくらい時間が過ぎたかわからなくなったころ、僕は石段を登りきった。
そして、僕を迎えたのは、見上げるほど大きな門だった。建てられてから、長い時間を過ぎていると感じた。
門は開かれており、通路の両脇に明々と燃えるかがり火が等間隔で並べられていた。
通路の先に、数人の大人の姿があった。
「ん? ご両親はどうしたんだい? 子ども一人、登ってこさせたのか?」
僕の姿に気づいた、真ん中の若い男の人が声をかけてきた。
横にいたおじさんが、口もとを手で隠しながら若い男の人の耳元で何かボソボソと喋る。かがり火のパチパチという音が邪魔をして、話の内容は、僕は聞き取れなかった。
若い男の人は、ため息をつきながら、肩をすくめる。周囲の人たちがビクッとざわつく。
得たいの知れない何かが周囲を包み、静まり返る。僕は無意識にゴクリと唾を飲む。
「おいおい、何を怖い顔をするものではないよ。ほら、怖がってしまっただろ」
若い男の人が、柔らかな声で、周りに言い聞かせる。周囲から安堵したような息がこぼれ、張り詰めたような空気が薄れた。
若い男の人は、軽い足取りで、僕の前に歩いてきた。周りの大人たちが驚いて、引き留めようとしたが、若い男の人は手で制して止める。
「さてさて、初めまして。んー、いつもなら、こう名乗らないんだけど、我が霧島家初代当主、尊征だ」
若い男の人はタカマサと名乗り、右手を僕に差し出してきた。後ろの方から、ザワザワとした気配があって、僕はタカサマさんの顔と手を交互に見つめる。
「予定では、直系から選ばれるはずだっただろう。傍系の家は、話すら回ってこないと思っていたはずだ。少しは敬意を払うことを覚えるんだ。だから、霧島家は徐々に衰退してしまうんだよ」
優しい声音は変わらないが、タカマサさんは、後ろを振り返りながら話す。すぐにシーンと周囲は静かになる。
タカマサさんは、苦笑しながら僕にむきなおる。
「察しているかもしれないが、キミが本家に来ることになったのは想定外だったよ。よほど両親の掛け合わ――おっと、相性が良かったのだろ。キミは器としての才能が、ずば抜けたいた」
そう言いながら、タカマサさんは、僕の手を握る。
「辺鄙な場所で、不便はあるだろうけど、衣食住に不自由はさせないことを確約するよ」
タカマサさんは、僕の手を引いて、ゆっくりと歩き始める。
門をくぐると、ねっとりと空気がまとわりつくような、深いな感覚に僕は顔をしかめてしまう。
「さて、徐々に体を慣らして、器を鍛えないとな」
タカマサさんの言葉に、僕は背筋がゾクリとした。
なんとなく、久々に投稿してみました。




