031-3
爆音が実技実習室に響き渡り、観戦スペースから歓声が巻き起こる。
もうもうと立ち込める砂埃の中から、ノソリノソリとゴリラの様な伊集院が姿を表す。
「オレ様の絶技、プレスオブキングをよくかわしたな! さすがは鬼灯翔太、逃げ足だけは見事のようだな!」
「……単なるボディプレスだろ、隙だらけの。誰でも避けれると思うぞ」
何故か自信満々の伊集院に辟易しながら、俺は内心ため息をつく。
伊集院は柔道着を着ているが、おそらく武術の腕前は大したことない。
締めている帯は青色で、俺の記憶違いでなければ、柔道に青帯はなかったはず。
攻撃は、タックルや、なんちゃってプロレス技ばかりで、身体強化系の異能力を頼りに、ゴリ押ししてくる。
「鬼灯翔太ッ! 気を抜いている暇はないぞッ!」
「チッ、しつこい」
再び突進してくる伊集院。
俺は伊集院の広げた腕をしゃがんで躱しながら、足を払う。
派手な音を立てて倒れながら、伊集院はカーリングのストーンの様に滑っていく。
これ何回目だ?
「クックック、貴様の小技では、オレ様の鋼の肉体を傷つけることは出来ぬぞ」
「腹に鉄板仕込んでおいて、鋼とかよく言うぜ」
「何事も万全の状態で挑むのがオレ様の信条だッ! 貴様の狙いを潰してしまって、すまんなッ!」
「気にすんな。一つ潰れた程度で、困ることはねーから」
得意顔の伊集院にイラッとする。
万全の状態という割には、封具の調子が悪くて、チカラが抑えられてないって言ってたじゃねーかよ。
神代梓非公式親衛隊は、自分たちに都合の良いことしか見えない呪いでもかかってんのか。
俺が辟易していると、伊集院は柔道着の上をはだけ、ボディービルダーの様に腕を曲げて力こぶを見せつけてくる。
見事な力こぶに歓声が上がるが、観戦スペースから本当に力こぶが見えてんのか?
目の前の伊集院もそうだが、観戦スペースで騒いでいる連中にも、苛立ってしまう。
「さて、そろそろ貴様には退場してもらおうッ! 恨み言は病院のベッドでいうがいいッ!」
伊集院が咆哮すると同時に全身から靄のようなモノが立ち上がる。
チカラの出力が上がったことが、視覚的にわかるカタチで現れている。
視覚にわかるということは、伊集院のランクがそれなりに高いということでもある。
「……終いにしよう」
俺の口からこぼれ出た言葉。
自分の口から出たとは思えないほど、その声は冷たかった。
伊集院の声も、周りの歓声も、遠くに遠ざかっていくような感覚。
カラダの内側から、チカラを導く。
ほんの僅かなチカラを、蛇口をゆっくり捻るようなイメージで、アレに侵食されていない部分を、導く。
俺が本来扱えるチカラの十分の一以下にも満たないチカラ。
「――ッ! ――ッ!」
伊集院が何かほざいている。
ゆっくりと流れる時間の中で、伊集院が俺に向かって肩からタックルをしている。
空気がまとわりつくような感覚の中で、俺は伊集院に右手を伸ばす。
そして、無造作に右手を握る。
――カシャン!
と、ガラスが砕けるような音が、俺の耳には届く。
同時に伊集院の顔が青ざめ、脂汗が滲み始める。
まだ伊集院のチカラを砕いただけだ。
伊集院の動きは精彩を失い、タックルも片手で悠々と止められる。
所詮はチカラ頼りの攻撃。チカラを失い、常人程度の攻撃が俺に通用するはずない。
「さっきまでの威勢はどうした?」
回し蹴りで伊集院を蹴飛ばす。まるでボールの様にフロアを転がっていく。
残り時間は、あと何秒だ?
俺は自分自身に問いかけながら、伊集院を見据えるのだった。
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