023(※)
闇に包まれた廃校舎の廊下。
窓から差し込む月明かりに人影が浮かび上がる。
スラリと伸びる四肢、さらさらと揺れる長い髪。
それらから描き出されるシルエットから声の主が女性だということを匂わせる。
「……式神経由で講師がサポートにつくのは予定外でしたわ」
幼さが残る優しい声音。
水面に広がる波紋のように、声は静かに廊下に響く。
誰もいない宵闇に向かって、人影は言葉を続ける。
「でも、収穫はありましたわ。低級とはいえ、霊体と実体の境界を破壊できるなんて規格外もいいところですわ。霊体に干渉するにはチカラを用いるか、触媒を通じて実体を霊体に近しい存在へ変換するのが常識ですのに」
常識という枠組みから外れた存在。
それが鬼灯翔太という男子生徒の本質らしい。
それだけで、異能の世界、全てを敵に回す可能性を秘めている。
何故か?
理由は至極簡単だった。
異能の世界では歴史や血を重んじる。
チカラが改良改善を加えられながら脈々と受け継がれたり、血縁によって発現することが当然の世界だからだ。
それが異能の世界では常識だ。
だからこそ、常識の枠から外れそうな存在、歴史の浅い家系や突然発現した異能者が軽んじられ、疎まれる。
常識の枠から外れ存在を歓迎すれば狂人と揶揄される世界だ。
「……彼の存在を知ったらどうするのかしら?」
誰に向けた言葉なのか。
今までに類のない異端なチカラ。
延々と記録された過去を探り、必死に分類分けしようとする滑稽な姿を想像し、人影は鈴に音のような笑い声をこぼす。
時間にして数秒後、不意に人影の笑い声が止まる。
ぴん、と人影が纏う空気が張り詰めていく。
「お掃除がはじまりそうですわね。見つかる前においとましませんと。その前に一つは返していただきますわね」
人影は解剖模型の上に無造作に置かれた短刀の柄を摘み上げる。
そして、音もなく闇に溶けていった。
お読みいただき、ありがとうございます。
※話の作り、書き方にもよるのでしょうが、主人公サイド以外を書くべきなのか、いつも悩みます。今回は試しに主人公サイド以外の話を書いております。




