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017-3

「いててっ……マジで手加減してくださいよ」


「加減してやっただろう。本気なら五分やそこらで回復するような生易しい攻撃はしない」


 神社の境内に寝転がる俺をなずな教諭は式神の背中にナマケモノのようにもたれながら見下ろす。


 手加減して顔面を狙った拳を掴んで、勢いを殺さずに背負い投げとかありえないと思う。


 はじめからカウンター狙いで身構えていたならまだわかる。


 怒涛の連続攻撃を繰り出しながらカウンターで投げるとか理解の範疇を超えている。


 俺をぶん投げることが目的だったと言われても驚かない。


「……んで、何をやりたかったんですか?」


「鬼灯の技量を確認したかっただけだ。鬼灯はチカラを行使できない分、何かで補う必要がある。どの道、荒事から避けて生活できるとは思っていないだろう」


「まあ、そーですね」


「それに鬼灯のような場合、チカラを使わないことが身体能力に影響を与えることも多い。チカラを行使する副作用で身体能力が向上していることもあるからな」


 ふらふら、と宙を漂いながら、なずな教諭が意味ありげな視線を俺に投げてくる。


 俺は、その視線に気づかなかった振りをしながら、手を開閉してみる。


 それほど意識したことはないが、あの時から比べて、身体が鈍くなった気はする。


 一般人という表現が正しいか微妙な感じがするが、鈍くなったからといって、普通に生活する上で困ることはない。


 チカラを行使出来ないからといって、大きな問題も……ない。


「手合わせした結果、俺は落第点なんですか?」


「わたしの予想より良い動きだったぞ。わざと単調なリズムで攻撃したが、並の連中なら速さになれるのに、もう少し時間がかかっている」


「ワザと単調なリズムの攻撃? アレで?」


「ああ、そうだ。蹴りを繰り出したり、足元を狙ったりは無かっただろ」


 なずな教諭の言葉に俺は軽くショックを受けてしまう。


 確かに足元を狙う攻撃はなかったけどさ、単調って言えるほど軽い攻撃じゃなかったと思うんだけど。


「まさか、俺が隙をついて顔面狙ったのは……」


「ん? アレは予想の範疇棚。良い一撃だったので評価に値するぞ。意識して攻撃したのかは知らないが、さり気なく混ぜていた隙の中で、一番危険度の低いモノだったからな。他のタイミングで攻撃をしてきていたのなら、半日は動けない状態になってたはずだな」


「半日は動けないって……簡単な手合わせじゃなかったんすか?」


「そうだぞ。だが、無駄になるような事をやっても仕方ないだろう。ハズレを引いて何も無しでは、身にならないからな。痛みがあれば体で覚える。実に理にかなっているだろ」


「全然かなってないっす。なんすか、その時代錯誤と突っ込まれそうなスパルタ理論は……」


「時代錯誤? スパルタ? 鬼灯はバカな事を言うんだな。才能がない者が才能ある者に追いつくには普通のやり方でいいはずないだろう。血反吐を吐けとは言わないが、それ相応の鍛錬があって当然だろ」


 さも当然、という顔のなずな教諭。


 なずな教諭の幼い外見で言われると、大して厳しい鍛錬ではなさそうに見えるが、きっとガチで生死をさまようような内容の鍛錬をさせられるに違いない。


 鍛錬について訊ねると後悔することになりそうなので、俺はあえて触れないことにする。


「多少強引に反撃をねじ込んだことは評価できる。だが、その後がダメだな。予想だが、わたしの攻撃リズムを乱せば次の手が打てると考えたんじゃないか?」


「……その通りです。なずな教諭の攻撃を中断させれば、流れを変えれると思ったんで」


「破れかぶれで反撃に転じなければいけない場合はある。だが、反撃するイメージをちゃんと描いておけ」


「イメージですか……」


「リズムに乗っている時は、単調にならないように気をつけるだけでいい。だが、反撃となると別だ。相手のリズムを崩して自分のリズムを刻む必要があるからな。一撃決めればケリがつくのであれば必要ないかもしれない。だが、一撃をかわされたらどうする? 迎撃されたらどうする? 一撃でケリをつけれなかったらどうする? その次にどんな手を打つのか。それぐらいはイメージするようにしておけ」


「わかりました」


「うむ、いい返事だ。さて予定より遅くなってしまったし、飯でも食って帰るぞ」


「……奢りですか?」


「ああ、もちろんだ。食いたいメニューがあれば聞いてやるぞ」


「本当ですか! あ、そういえば――」


 なずな教諭に飯を奢ってもらうのはいいとして、梓の飯をどうするかな。


 今日は学食も休みだったし、ヘタすると梓のヤツは朝から何も食ってないかもしれない。


「神代と藤代の飯の心配なら不要だぞ。まかないの手配をしているからな」


「まかないの手配って、手際がいいですね」


「当然だ。罰則でこき使うが体を壊されては意味が無いからな。で、鬼灯は食いたいものはあるか?」


「じゃあ、ここ最近食べてないラーメンと餃子で」


「ラーメンと餃子か。体を動かした後は上手そうなメニューだな」


「そうでしょう。あとラーメンライスも結構オツなんですよ。食い終わったラーメンのスープにご飯を入れて食う。絶対、健康に悪いと思うんですけど、うまいんですよ」


「体に悪そうなものほど、うまいのは世の常だ。よし、メニューは決まりだな。行くぞ、焼肉だ」


「ちょ、全然違う!」


「今、わたしは焼肉とビールの気分になった。餃子を口にした鬼灯が悪い。わたしはビールと餃子よりもビールと焼肉派だからな。さあ、行くぞ」


「……うぃーっす」


 なずな教諭が式神の背で鼻歌を口ずさみ始め、俺は反論をあきらめることにした。

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