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016-2

 肌越しに伝わってくる藤代の剣気。


 弓を引き絞るように藤代がチカラを溜めているのがわかる。


 だが同時に藤代が攻撃を仕掛けるタイミングに迷っていることもわかる。


 俺の安い挑発が、少なからず藤代に迷いを生じさせたんだろう。


「……」


 俺は無言のまま、構えを崩さずに摺り足でジリジリと藤代との位置を調整する。


 ミリ単位の調整は傍観している周囲の生徒はおろか、対峙している藤代も気づけないだろう。


 いくら速くても、藤代の繰り出す『一閃』は斬撃。


 攻撃の軌道は突きまで合わせて大雑把にいうと九つしかない。


 さらに一閃は速さゆえに複雑な動作ができない。


 すなわち逆――俺の左側に斬撃を行う可能性は極め低い。


 俺は実習で組んだ時、藤代が繰り出していた一閃を思い出しながら、イメージを固める。


 右肩から斜めに斬り下ろす斬撃。


 斬撃の軌道に手甲を合わせ、滑らせて威力を全て流してタタラを踏ませてやる。


「……死ねっ!」


 唐突に聞こえてきた、いや聞こえて気がする藤代の声。


 藤代の姿が霞む。


 一秒に満たない、刹那の時間。


 引き伸ばされた時間の中で、ゆっくりと藤代の姿が大きくなっていく。


 俺は体の軸を傾けながら、藤代の一撃を迎え撃つ準備を整える。


「――ッ!」


 不意に藤代が一閃を放つ。


 金切り音が響き、閃光が周囲を白く塗りつぶす。


「チッ! いいところで!」


 藤代は毒づきながら急ブレーキをかける。


 床と靴底が摩擦で煙りを立ち昇らせるが、藤代は御構い無しに慣性を見事な脚力でねじ伏せ、バックステップを踏む。


 藤代の後を追うように、燐光をまとった矢が床を次々と射る。


 それだけで何が起きたのか俺は理解した。


 間髪入れず、俺の前にフワリ、と人影が舞い降りる。


 見慣れた緋袴にクセのない黒い髪。


 和弓を手に、矢筒を背負った梓だった。


 しかもビリビリとした殺気で演習室の空気が数度下がったような錯覚を覚える。


「藤代……翔太に何やってんの?」


「何って、特訓に付き合ってもらってるだけよ。一番いいところだったのに、なんで邪魔すんのよ」


「特訓? 一番いいところ? 翔太に必殺技を喰らわせることが特訓なの? 一番いいところなの?」


 風はないはずなのに、梓の黒髪がゆらゆらと揺れる。


 そればかりか感情に呼応した霊力が漏れ出し、梓の右腕は紫電が迸っていた。


 ヤバイな。


 親衛隊の連中を消しかけた時と似たような状況だ。


「おい、梓……」


「なに、翔太? ちょっと待っててくれると嬉しい。ゴミ掃除が残ってるから」


「はあ? ゴミ掃除ってなによ。この場合、お邪魔虫は神代(あんた)の方よ。アタシは鬼灯と約束して特訓してんのよ。なんで邪魔すんの?」


 梓は弓に矢をつがえながら、藤代は木刀を腰に構えながら、睨み合う。


 空気が凍りついていくような緊迫感。


 耐えきれなくなった生徒たちから、顔を青ざめさせて演習室から退場していく。


「お、おい、お前たち、ケンカす――」


「翔太、うっさい!」

「鬼灯、うるさい!」


 止めようとした俺を二人が一喝する。


 殺気が俺を貫き、不覚にも一瞬カラダが硬直してしまう。


 ここで引き下がるわけにはいかない。


 二人が本気で暴れたら、演習場は余裕で見る影もないくらいに破壊される。


「ちょっと落ち着け。ここは演習場だ。暴れるところじゃねーぞ」


「……確かに。翔太の言う通り」


「そうね。不本意だけど、その通りだわ」


 思ったよりも好反応の二人に反射的にガッツポーズをしかけたが何とか堪える。


 このまま二人が大人しく矛を収めてくれれば万々歳だ。


「ほんと、演習場で良かった」


「全くよね」


「制限時間は三十分くらいにしとく?」


「ええ、それでいいわ。ついでに一撃先に决めたら勝ち、ってした方が分かりやすくてよくない?」


「いいね、それ。すぐケリがつきそう」


神代(あんた)の負けでね」


「藤代、面白いこと言うね。負けは藤代の方でしょ」


 梓と藤代はニッコリと微笑みあう。


 しかし全然顔が笑ってない。


 演習場の気温がさらに下がった気がする。


 気がつけば、演習場にいるのは俺たち三人だけになっていた。


 俺も今すぐ逃げ出したい。


「翔太!」

「鬼灯!」


「は、はい!」


 二人は申し合わせたような動きで二人の中間地点を指差す。


 何を俺にやらせたいのか、聞かなくてもわかる。


「翔太、審判」


「ちゃんと公平にジャッジしなさいよ」


「……帰りたいんだけど」


「翔太、帰れると思うの?」

「鬼灯、帰すと思ってんの?」


 同時に俺に微笑みかける二人。


 はい、帰してもらえるとは微塵も思ってなかったです。


 少しでも可能性があるなら聞きたくなるじゃん。


 微笑む二人を見て確信できることは、端から可能性はゼロだったってことだ。


 俺は荷馬車で連れて行かれる仔牛のごとき、足取りで二人が指定した位置へ移動する。


「あくまでも演習だぞ。本気出すなよ」


「……わかってる」

「そんな常識知ってるわよ」


 絶対、本気出す気満々だろ。


 俺は、泣きたい気持ちになりながら、演習開始の合図をする。


 同時に二人の動きが霞んだ。




 この後、俺は吹っ飛ばされること三回、床や壁に叩きつけられること七回。


 かろうじて病院送りになることは免れた。

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