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013-4

「なんの話をしていたんですの?」


 食後のドリンク――アイスコーヒー、緑茶、オレンジジュースを運んできた白木が声をかけてくる。


「藤代が演習場で翔太を痛めつけたい、って性癖をバラしてた」


「こ、個人の趣向にわたくしは口出ししませんけど……」


「白木さん、誤解しないで。神代のでまかせだから。神代! アンタはいい加減なことを言うんじゃないわよ!」


「いい加減? 翔太と藤代が戦ったと仮定して、どうなるかなんて予想するまでもない。優しい翔太と凶悪な藤代。翔太が遠慮して手を出さないことをいい事に一方的に痛めつける藤代。ね?」


「なにが、ね? よ! なんでそうなるのよ! 鬼灯も白木さんもそう思うわよね?」


 藤代が俺と白木に同意を求める。


 すまん、藤代。


 梓の言う通りの光景が一瞬で想像できた。


 そもそも藤代は風紀員に推薦されるほどの武闘派だ。


 隙をつける状況ならまだしもチカラをまともに使えない俺が正面から対峙して勝負になるわけがない。


 ちらり、と横目で白木を確認すると申し訳なさそうな顔で藤代から顔を背けていた。


 予想通りなんだが、藤代にボコられる俺が容易に想像できるのは、ちょっと複雑な心境だ。


 あと俺と白木の反応を確認してドヤ顔の梓にちょっとイラッとする。


「二人ともなんでそんな顔するのよ! 黙ってないで何か言いなさいよ!」


「すまん、藤代」


「ごめんなさい、藤代さん」


「なんで謝るのよ」


「藤代とガチでやりあって無事でいられる自信がない」


「神代の非公式親衛隊の連中を片っ端からぶっ飛ばして病院送りにしている鬼灯が、言うセリフじゃないわよ」


「親衛隊の連中全員が藤代みたいな武闘派だと思うなよ。日に当たった事がなさそうなヒョロいのも多いんだぜ」


「……そんな連中も容赦なくぶちのめしてんの、アンタは?」


「殺すつもりで襲ってきていいヤツは逆に殺される事を覚悟しているヤツだけだと思うんだ。だから容赦なくぶっ飛ばして、俺が非難されるはずがないだろう」


「弱肉強食。生者必衰の理。さすが翔太、良いこと言った」


「理屈としては、理解できなくもないですけど……」


「白木さん、騙されちゃダメだからね。実力差が読み取れるんなら、ボコる前にやめなさいよ。気を失わせるとか、やりようがあるでしょう」


「十数人同時に相手しながら、それぞれの実力に合わせて相手をするなんて、やるわけないだろ。めんどくさい」


「……翔太を襲う方が悪い。死んで詫びて良いくらい」


「死ぬまでは言いませんけど、因果応報って言いますわよね」


「二人とも鬼灯の味方なの? 普通に考えて弱者をいたぶる行為は悪じゃないの。冷静になって判断すべきよ」


「藤代、そもそも俺一人に複数で襲いかかってきている連中の方が悪だろ。一応、最初の頃は、余計な衝突を避けるために逃げ回っていたんだぜ。俺が手を出さないからって、連中はどんどんエスカレートしやがるし、堪忍袋の尾が切れても仕方ないだろ」


 俺の言葉に反論出来す、藤代は言葉を飲む。


 ぶっちゃけると俺が連中の相手をする様になったのは梓のせいだ。


 梓がブチ切れて、本気で連中を消そうとしたからな。


 文字通り跡形もなく、消し飛ばそうとし始めたときは肝を冷やした。


 しばらく病院送りになって、俺にちょっかい出せない様にするのが一番平和だ。


 連中の殆どが覆面しているけど梓は誰が誰なのか把握しているからな。


 指紋や網膜みたいに霊力は色や波長とか個人を特定できるものらしい。


 もちろん、そこまで正確に感知できるヤツなんてそうそういないけどな。


「でも、やっぱり鬼灯が手加減するべきだわ」


「なんでだよ。俺の理由は正当性があっただろう」


 下唇を噛みながら、藤代は落ち着きなく、ストローでオレンジジュースをかき回す。


「……だ、だって、鬼灯、強いじゃん。チカラがないとか弱いとか、みんな言ってるのは知ってるけど……鬼灯、強かったもん」


 わずかに頬を赤く染め、上目遣いで真っ直ぐ俺を見つめてくる藤代。


 俺は一瞬、思考が止まり返す言葉が出てこなかった。


 それだけでなく、藤代の視線に気恥ずかしさに俺は無意識に後ろに体が逃げていた。


「はいはい、お疲れ藤代。デザート食べて良いよ。白木、メニュー、ぷりーず」


「はい、どうぞ、藤代さん」


 パンパン、と手を叩く梓に、間髪入れずにメニューを藤代の眼前に突き出す白木。


 二人とも笑顔だが、妙に薄ら寒いものを感じてしまうのは俺の気のせいだろうか。


「……アンタたち、なのつもり?」


「それはこっちのセリフ。ね、白木」


「な、なんのことか、わたくしはサッパリですわ。ただ神代さんがメニューが欲しいと言われたので、出しただけですわ」


「ナイスタイミング。さすが白木」


「褒めていただくほどのことじゃないですわ」


「……白木さん、メニュー持ってなかったわよね。チカラを使って持ってきたわね」


「気のせいですわ」


 藤代の恨めしそうな視線から顔を背ける白木。


 指摘は当たりなのか。


 学園の外でチカラを使うことは原則禁止されているから、優等生で通っている白木がチカラを使うなんて珍しいな。


 蚊帳の外に追いやられた俺は、ボーッと三人を眺めていたが、ふと藤代と目が合う。


「……鬼灯、明日、時間とれる? 一時間、いや三十分でいいから」


 普通なら「めんどくさい」で終わらせるんだが、不安げな表情で俺の返事を待つ藤代に言葉が詰まる。


 様子は全く確認してないが、梓と白木の方からピリピリとした視線を感じる。


 俺は得体の知れないプレッシャーを感じ、無意識に唾を嚥下する。


「まあ、三十分くらいなら」


「ほんと! ありがとう、鬼灯!」


 手にしたメニューを放り投げる勢いで両手を上げる藤代。


 それに対して、親指の爪を噛みながら俺を無言で睨む梓と、笑顔なのに薄ら寒さを感じさせる白木。


 俺は何かまずいことをやったのか?


 いや、やってない。


 何もやってない、はず。


 俺は居心地の悪さを感じるが、帰ることもできず、ただただ椅子に座って三人を眺め続けることしか出来なかった。


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