013-1
「いらっしゃいま――あら、珍しいですわね」
喫茶店『シエスタ』のドアをくぐった俺たちを出迎えたのは、白木だった。
いつものようにゴシックロリータ風のウェイトレスの制服姿で、忙しそうにフロアを動き回っていた。
夕暮れ前の微妙な時間帯にもかかわらず、フロアは七割ほど埋まっている。
時間帯と立地条件を加味すると、店は繁盛していると言える。
もっとも客は神咲学園の生徒が占めており、白木目当てにコーヒー一杯で長時間粘るヤツも多い。
なので見た目ほど売り上げが良くないと、白木がこぼしていたことがある。
「おう、鬼灯くん。平日に来るなんて珍しいじゃないか」
「そーっすね。学生寮で生活してたら、平日にココまで降りてくることは無いっすからね」
カウンターの内側から声をかけてくる中年男性――白木の親父さんだ。
バーテンダーのような服装とオールバックにした髪型、さらに鼻の下にチョボヒゲと喫茶店のマスターの見本のような格好をしている。
白木曰く「カタチから入るから、あの格好」らしい。
「学生寮で生活する生徒は、土日に遊ぶついでに買い出しするのが基本なんだろ。彩音から話を聞く限り、学園の購買は品揃えが豊富で買えないものは無いらしいじゃないか」
「食堂があるんで、さすがに食材関係は揃って無いっすよ。だからたまにマスターのナポリタンが食べたくなるんすよ」
「鬼灯くん、嬉しいことを言ってくれるね。オレがコーヒーを淹れることも拒む連中が多いからな。彩音よりオレが淹れたコーヒーが絶対美味いのにさ」
苦笑しながら肩をすくめてみせるマスター。
マスターの意見は最もだが、神咲学園の連中は白木目当てで来てるから、仕方ない話だ。
「鬼灯くん、お父さんの相手はしなくていいですわ。端のテーブル席が空いてるから座ってくださいな。後ろの二人は帰っていただいていいですけど」
「……客に対してなんたる暴言」
「まだ注文していただいておりませんわ。だからお客様ではありませんわ」
「屁理屈。よく本性がバレ無いと感心する。藤代、反論プリーズ」
「ちょ、いきなりアタシに振るのはやめなさいよ! アンタみたいに白木さんにつっかかる趣味は無いんだからね」
藤代の反応に梓は「チッ」と舌打ちをする。
「ここに突っ立ってても白木の邪魔になるし、さっさと席に座るぞ」
俺の言葉に素直に頷く梓と藤代。
ぶっちゃけると喫茶店の入り口で白木と話すのは得策では無い。
店内の男子生徒から殺気まじりの視線が俺に次々と突き刺さる。
これ以上、面倒な連中に絡まれるのはやめたいからな。
俺は視線に気づかないふりをしつつ、奥のテーブル席へ移動した。




