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008

「……めんどくせぇ」


 自習室に響く俺のつぶやき。


 試験前なら周囲から咎めるような視線がザックザックと突き刺さるところだが、今は同調する様にため息が三つ聞こえてくる。


「……鬼灯、気持ちは痛いほどわかるけど、口にしないで。疲労感が倍増するから」


「悔しいけど、藤代さんの意見に同意しますわ」


「……右に同じ」


 ため息に続いて、白木、藤代、梓がそれぞれ文句を口にする。


「……仕方ないだろ。反省文を原稿用紙三十枚って無茶だろ。どー考えても五枚が限界だろ」


 コツコツ、と目の前に重ねた三十枚の原稿用紙を指先で叩く。


 校外でチカラを行使したことと、危険な行為をしたことに対する処罰だ。


 停学や退学と比べると、だいぶ優しい処罰だと思う。


 校外でチカラを行使して退学ってのは珍しい話じゃないからな。


 なずな教諭曰く「校外でチカラの行使は、緊急事態ということで目を瞑る。だが、危険な状況を速やかに連絡しなかった点は看過できない」そうだ。


 ぶっちゃけ「危険だと思った時点でアタシに連絡しろ」ってことなんだろうな。


 普段から面倒なことは嫌い、やりたくないってるけど、なずな教諭は世話焼きだからな。


「実は……私、反省文って提出したことないのだけど、何を書けばよいのでしょう?」


「……出たよ、優等生発言。藤代、いっちょ校則違反で白木を取り締まっちゃって」


「んなこと出来るわけないでしょうが! ブラックリストに載ってる鬼灯ならまだしも」


「おい! 初耳なんだけど! なんで俺が風紀委員のブラックリストに載ってんだよ!」


「……え? 翔太、今更?」


「何が今更なんだよ! 俺が間違っても優等生と評価されないのは自負してるが、ブラックリストに載るほど不良もやってねぇぞ!」


 俺の言葉に梓、藤代、白木は互いに視線をかわすと、深いため息をこぼす。


 すっげームカつく。


「鬼灯、あんたは学友を何人病院送りしたか覚えてんの?」


「はあ? そんなこと知るか。だいたい売られたケンカを買っただけだろ。俺を殺すつもりでケンカを売ってきたんだぞ。病院送りくらい可愛いもんだろ」


 ちなみにケンカを売られた理由は梓だ。


 本性を知らない生徒には深窓のご令嬢に見えるらしく、梓と仲の良い俺が気に食わないらしい。


 最近は、藤代と白木と仲良くしていることが気に食わないとケンカを売られることも増えてきてる。


 普通に接してるだけなのに、ケンカを売られる理由が理解できない。


 俺に文句を言うくらいなら、直接三人に話しかければいいだろう。


「鬼灯くん、学校の備品――触媒とか増幅器とか片っ端から壊した、とうかがったことがありますけど」


「アレは不可抗力だ。俺の波長と合わなかったとかで、自壊しただけだ。波長が合わないで壊れるとか欠陥品だろ」


 詳しい理屈を知っているわけではないが、血液型に稀な型がある様にチカラにも稀な波長があるらしい。


 その場合、普通に製造された触媒とかはチカラに耐えきれずに自壊してしまうらしい。


 電流の様に交流を直流に変える様な仕組みを組み込まないといけないらしい。


 結果、俺に学校から貸与されたいる触媒などは高級品。


 普段は金庫に預けて、いちいち教師に許可を取ってから取り出さないといけない。


 実習ならまだしも普通の座学で使用する際は面倒で仕方ない。


「……で、ブラックリストに載った理由は理解した?」


「できねぇよ! 全部不可抗力だろ!」


「不可抗力で許されるのは、自然災害。翔太なら売られたケンカを病院送りにせずにさばけたはずだし、備品も最初の一つ目が壊れた時点で自制しておけばよかったはず」


 梓の淡々とした声と、瞬きをせずにまっすぐに見つめてくる瞳。


 ただそれだけで何も言い返せなくなってしまう。


 病院送りにしたのはストレス発散になったし、備品が壊れるのも面白くて調子に乗って壊しまくったけどさ……。


「鬼灯って、反省文を結構書いてるわよね?」


「結構じゃねぇよ。多くて週一回だ」


「鬼灯くん、週一は多いと思いますわよ」


「さすが、翔太」


「うっせ。だいたい反省文はこんな枚数書かせねぇよ。原稿用紙三枚と、生活指導室で一時間くらい説教されて終わりだ」


 俺の言葉に三人がポン、と手を叩く。


 妙に納得した様な顔をしていた。


「どーしたんだよ」


「……納得した。反省文が原稿用紙三十枚になった理由」


「ですわね。それ以外ありませんわ」


「玄谷先生、説教する代わりに反省文の枚数を増やしたんだわ……」


 三人が納得した理由に、俺も納得してしまう。


 だからなずな教諭が原稿用紙を渡す時に「面倒だから原稿用紙三十枚で勘弁してやる。ズルせずに書けよ」って言ったのか。


「さすがなずなちゃ――教諭。面倒と思ったことは徹底してやらないな。ってことは、反省文も適当に書いて提出しちゃえばいいんじゃないか? なずな教諭は、面倒って読まないじゃね?」


 俺の言葉に三人が同時にため息をつく。


 なんでだよ!


「……翔太、感じなことを忘れてる。なずなちゃんは、式神使い。説教を式神にさせることはできないけど、反省文を読むことは出来る」


「ですわね。以前、式神数十体を使って書類を一気に読んでいるところを見かけたことがありますわ」


「なずなちゃんは、実習の監視を式神使って一人でやってんのよ。四人分の反省文を式神使って読むなんて朝飯前のはずよ」


 三人の意見はもっともだった。


 式神で実習監視するより、反省文を読む方が断然簡単だ。


 だから、ズルせずに、って念押ししたのか。


 俺は三人を見渡し、ため息をつく。


「あと一時間で書き上がると思うか?」


「……無理」


「書けるはずがないわ」


「三時間あっても書き上げれる自信がありませんわ……」


 俺たちはため息をついて、がっくりと肩を落とした。


 それからどっぷりと日が暮れるまで、自習室からため息とシャーペンを走らせる音が響き続けるのだった。

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